Bad Appolice

@mutsuki_ureru

高校入学前のお話

第1話「入学試験」

 寒さが和らいできた日も多いもののまだまだ厳しい冬が続く、そんな如月。最高学年の学生たちにとっては、受験シーズンとなる時期であろう。僕も15歳。高校の入学試験を受けに、この_国立黎明高等学校へやってきたのだった。

 集合場所の体育館へ行くために広い敷地内を進んでいると背中に衝撃がやってきた。驚きつつ振り向くと、そこには尻もちをついた同じ受験生だろう女の子がいた。

 「…あ、すみません。考え事をしていたらぶつかってしまって…。」

 少し俯きがちにそう言う女の子。これもなにかの縁だと思い、誘うことにした。

 「いえ、大丈夫ですよ。同じ受験生ですよね?受験会場まで一緒に行きませんか?」

手を差し伸べ、そういうと一瞬迷ったのか再度俯いた後、彼女は手を取った。

 「…ぜひお願いします。」


 軽い自己紹介を済ませると体育館に着いた。

彼女の名前は涙雨るいうころも。第一志望は僕と同じ【国立黎明高校能力対策科】であった。高級糸のような濃い青の髪をサイドポニーテールにしており、水色の目からは涙が延々と滴っていた。僕自身も彼女の顔を見た時に驚いたのだが、能力の影響でずっと涙が止まらないらしい。とても美人さんでちょっと胸が高鳴ったのは内緒だ。

 定刻となった。広い体育館の中、安っぽいパイプ椅子に会議用の長机。そこに座らされる200名はいるのではないかと思う学生たち。

 「受験生諸君、初めまして。私が今回の入試試験の担当官、清水静奈しみずせいなだ。」

 ステージ上に立つのは警察服に身を包み、警察帽を深く目元まで被った女性だった。女性が説明を続ける。

 「これから諸君らには殺し合いを始めてもらう。制限時間は2時間。2時間内であれば誰を殺しても、何人殺しても良い。」

 ざわめく体育館内。どういうことだ、と声を荒げる学生達。

 「何か質問のある者は?…無さそうだな。抵抗した者、もしくは逃げた者、棄権する者は受験資格を剥奪、死亡した者は我が警察署に所属している治癒者が遺体を蘇生してくれるから安心して死んでくれて構わない。」

 悲鳴が響く。発狂して逃げ出す学生達もいるし状況が呑み込めず未だにパイプ椅子に身を預けたままの者もいる。

「これから30分の準備時間を設ける。この間に受験生同士で殺し合いをした場合も受験資格を剝奪する。校内には武器などを用意してあるため各々使用してもらって構わない。それでは、始め。」

 ブザーが鳴り響き、一歩遅れて皆が走り出す。出遅れた。どうする、どうすればいいんだ?とんでもないことに、巻き込まれた。


 広い校内を走り回っているうちに30分は過ぎ去り、そこら中で悲鳴ばかりが響きまわるようになった。偶にここまで、ぐしゃり、となにかが潰れたような音や液体が飛び散ったような音が聞こえてくる。耳にその音が届くたびに恐怖で膝が震える。涙雨さんとも準備時間が始まった時にはぐれてしまったし、完全に孤立している。やばい。このままだと、殺される!

 たん、と足音がした。体が硬直する。怖い、怖い!

 深呼吸した後に後ろを振り向く。


 誰もいなかった。

 ほっとして前に向き直ると、

 「…すまない、君に恨みはないが、私はどうしても合格したいんだ。」

 その声が聞こえた次の瞬間、僕の意識は暗転した。


 

 私、涙雨るいうころもは15歳。高校の入学試験を受けに、この_国立黎明高等学校へやってきた。

 「これから30分の準備時間を設ける。この間に受験生同士で殺し合いをした場合も受験資格を剝奪する。校内には武器などを用意してあるため各々使用してもらって構わない。それでは、始め。」

 この入試の担当官の清水静奈さんがそう言った後にブザーが鳴り響き、一歩遅れて皆が走り出す。私は一歩止まる。息を吸う。吐く。どうすればいい?私はどうするのが最善だ?とにかく私はこの高校に入学しなければならない。されたから。


 この世界には能力がある。能力者がいる。

 能力、と言っても必殺技レベルのものをバンバン出せたり、最強であるわけではない。勿論、能力を持ってない者。所謂、無能力者。そういう者もいる。能力者の能力は無能力者には効かない。能力者として最強でも無能力者の前では同じ無能力者に成り下がるのだ。キャパオーバーもあれば無能力者には無効化される。無能力者に羨ましがられることもあるが使い勝手が良いわけではないのだ。

 私も能力を持っている。ただ、使い勝手もよくないし便利でもない。どう活用すればいい。私は必ず合格しなければならない。

 国立黎明高校能力対策科。警察の能力対策課へ入所するための唯一の近道といわれる学科。能力対策課とは、能力を悪用する者や無能力ということを生かしてテロを起こす者、能力が関わる犯罪者を取り締まる課である。


 走り回って48分程度。武器はまったく見つからない。準備時間もとうに過ぎて二度目のブザーが鳴り響いた。人の声や足音を聞きながら誰かと鉢合わせしないように走り回っていると、とある教室で木製のバットを見つけた。…せめて金属バットならば。まぁでも。

 あとは考えるだけだ。私の能力を最大限活かすためにどうすればいいだろう。同じ中学の知り合いでも居れば良かったのだが、生憎私しかここを受験しないのだ。

 「あ」


 今日、たった今日知り合ったがいた。

 彼を殺さなければならない悲しみと、彼を殺せば合格できる喜びを。最大にする。深呼吸。体が熱くなるのが分かる。筋肉が膨張する。ぎゅいん、と全身の感覚が研ぎ澄まされ、彼の呼吸音まで聞こえる。

 たん、とわざと足音を鳴らした。

 思い通り、彼が後ろを振り向いたのでこちらが見える前に彼の頭上を飛び越えた。

 「…すまない、君に恨みはないが、私はどうしても合格したいんだ。」

 本当にごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ありがとう。

 その思いを、感情を、強く思いながら。


 彼を殺した。




涙雨るいうころも 15歳

能力「感情の強さに比例して強くなる」

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