神屑屋は楽?

第1話神屑屋だよ

何で神屑屋なんてやっているんですか?そんな事を当然の事のようにきいて来るしつけのなってない神官戦士が多い。奴らはそれに答えなければいけない圧をかけて来るのだが、そこそこな同業者なら慌てて答えようとするだろうが俺はそんな気に全くならない。奴らが欲しい答えは、

食っていくにはこの仕事しかないからです。

そんな言葉が奴らの好物らしい。しかもだ。あなた達のお蔭でこの世界は成り立っている、そんな決まり文句を

言いたいだけ。自分達の卑しさを自覚すらしない。

そんな奴らの巣窟化している神殿(実際はそういう存在ではない)に行かなければいけない。何でも俺に聞いて欲しい事があるらしく前払いでこれだけ支払えるなら聞くだけ聞いてもいいとメールを送ったら直ぐに俺の口座に振込んで来た。まさかほぼノータイムで支払って来るのは予想外だった。俺は泥棒になる気は無い。この世界に存在する二つの神殿の片方、騎神殿にまでやって来た。もちろん転移で。

入口に近づくと二人の神官戦士が槍を構えて止めに来た。

「ここはお前のような薄汚いモノが来る所ではない!サッサと立ち去れ!」

片方が俺の首の近くに槍を突きだす。

これが警告のつもりだと言うのだから失笑。

その笑いに嘲りが含まれていると察知出来たらしく突き出していた槍で首を落とそうとしてきたが俺はすっと回避。

来ると分かっている攻撃で槍を扱う技量が神屑屋のCランクに何とか届く程度では俺には通じない。

突きだろうが薙ぎだろうがカスリもしないのがそんなに楽しいのか肩で息をしているのに止める気配もなくただただ槍を俺の方へ必死に振るのみ。バカの見本だな。

周囲には騎神殿を訪ねにやってきた信者達や旅行者達。そいつらは何かの修行の真っ最中に見えているらしい。なら修行らしく終わらせるか。

俺の左腕を狙った薙ぎを左人差し指で止め、ちょっとした力を槍に加えると神官戦士は俺の想定通りに槍を手放した。

その神官戦士は、茫然。ヨダレが止まらない様子。

「どうした?槍を拾わないのか?」

俺も酷いな。俺のちょっとした力が原因なのにまるで神官戦士が自分で手放したかのような言い方をわざと言ったんだからな。

それはもう置くとして俺はもう片方の神官戦士にきいた。

「今日、ナダ兄さんには会えるかい?」

この質問は意外だったようでもう片方は茫然としている方へ行った方が良いのか、俺の質問に答えた方が良いのか分からず混乱している。

神殿の入口の騒がしさに他の神官戦士や神官が四人ずつやってきた。

神官の方は茫然としている方へ、神官戦士の方は混乱している方へ。神官戦士のニ人が剣を抜いて俺の方へ決まり文句!

「薄汚い奴!何をした?事と次第によってはその首落とされると思え!」

俺は首を傾げる。

確かにここ三年同じ格好をしている。薄汚いと言われれば否定は出来ないがクリーニングには出している。だからこそくたびれた格好と言ってくれればそれで済む話なのに何でまず薄汚いから始まるんだ?

「何故首を傾げる?そもそもナダ神官戦士長の事を知っている?」

「そりゃあ呼ばれたからだよその神官戦士長に」

「証拠は?」

どうやら俺の話を少しばかり聞く気になったらしい。神官戦士にもまだこんなのがいるんだな。

「ホイ」

その男はメールをスクリーンにして見せる。

我々全員は驚愕!それは間違いなくナダ神官戦士長のメール。押してあるスタンプがそれを物語っていた。

神官戦士の私が恐る恐るきいてみた。

「あなたの名前を伺ってもよいでしょうか?」

「ヌゼ・チグつうんだよ」

面白そうだからケンカ腰で言って見た。

その場にいた茫然以外のバカ共は顔面蒼白!

全員土下座!

「申し分けございませんでした!!」

その場で見ている者達に目もくれず全力の叫び!

分かってしまった。一秒でも敵意を向けられれば一生、人間らしい生活を送れなくなる。

そんなモノ生きているとは言えない!

「何だよ、オレがあんたらの人生を台無しにできる事知ってんのかよ。だったら名乗らない方が面白かったな」

面白くない!何をされるのかさっぱり分からないがこの方ならそれが可能な事だけは知っている。はっきり言って人生一度だって関わりたくなかった!

「まあいいか、それでナダ兄さんはいるのか?いるなら連れてって来れ」

「はい!今すぐに!」

俺は立ち上がった神官戦士の一人に付いて行く事に。

その前に茫然ヨダレたらしと化している神官戦士に向かって周りを安心させる一言。

「一時間も経てば正常に戻るよ。さてナダ兄さんの所まで連れてってもらおうか」


騎神殿の神官戦士長の執務室

「全くお前は一騒動起こさないと気が済まないのか?」

右手を額に当てた私は目の前の弟弟子に言っても意味の無い事で気を紛らわした。昔からケンカをふっかける方ではないのでこちらの手違いなのだろうがヌゼはケンカを買う方なのを今更思い出す。

「それで今日は何をきいて欲しいんだよ、ナダ兄さん?」

「お前から見てこの騎神殿の今の神官や神官戦士をどう評価している?」

「言って欲しい事は分かるけど、ノーコメントで」

ソファーに座っている弟弟子はそんな事を言わせるためにわざわざ呼んだのかと

背もたれに体を預ける。

「本当に分かってるんだろうな?」

頭が沸いている事を疑う眼で威圧してくる弟弟子はいつからそんなにバカになったのか理由を聞きたがっている。

「これでも利口になったんだぞ」

溜め息を垂れる弟弟子の群青色の眼はとてもガッカリしている。そして昔を懐かしんでいるように見えた。

たまらず、

「今の私はそんなにダメか!?」

弟弟子は微笑む!

「昔のナダ兄さんは馬鹿だけど問答無用で自分が抱えてる苦労案件を周りを巻き込んで片付ける。それなのに今は相手の出方を窺ってる時点でもう既に俺の知ってるナダ兄さんではない!いつからそんなにヒヨリ出したんだよ?」

私はグッと苦渋のツラになった。

ヌゼの言葉に魂を鷲掴みにされてしまったからだ!確かにそうだろう。昔はとにかく問題を片付けるのが最優先だった。誰かの為だと言い張ってよくヌゼを連れ回した。だがそれはあそこにいた当時の事だ、今それをする訳にはいかない。

「何?神官戦士長になった位で調子乗ってんの?」

「違う!お前はそういうが神官戦士長はなかなかなるのは難しいぞ」

「はい、ウソ。俺は四年前に誘われたよ。結構グイグイ来て断るの一苦労だったよ」

「初耳だぞ?」

「あそこで知ってるのは自分で調べて俺にきいて来た奴らだけが知ってる事だからな」

右親指の付け根でこめかみを押さえる!

本当に初耳だった。あそこでは上位だった私が知らない情報はなかったはず。しかもヌゼの言い方では結構な人数になる。

「仕方ないよナダ兄さんは情報弱者だから。知らないのは当然で気に病む事ではないよ」

「待て!あそこでは私の所に情報が回って来るようにしていた。なのにそういう風に見られてたのか?」

弟弟子はキョトン。

「失礼な事をまず入れるの今、騎神殿で流行ってんの?」

「そんなわけないだろ!私は真面目にきいているんだぞ!変にはぐらかすな!」

腕を組んだ弟弟子は真面目に悩んでいる事が嫌でも伝わって来た。

「そこまで頭を悩ます事ではないだろ!?」

聞こえているのだろうが首も傾げて悩んでいる。私はヌゼにどう見られていたのだろう。

「もう素直に言った方が良いな。ナダ兄さんは強力なタンク役も出来るアタッカータイプで他はさっき言った事以外大した事なかったよ。うん、これに尽きるな」

両腕を大きく上にあげる弟弟子は満足気に一人で納得していた。

「待て待て、まるで戦う事しか能がないみたいな結論で納得するな。私は他にも色々してきただろ?」

「人の成果をまるで自分がやった様に言うのは見てて面白かったよ」

「そんな事をした覚えは無い!」

何がそんなに面白いのか弟弟子は私の顔を見て大笑い。何故笑われてるのか、心当たりが無い。真剣な顔をしていたのだろう。

「あ~あ、笑った笑った。こんなに笑うとは俺もビックリだよ。そろそろ本題に戻ろうぜ。俺に何か頼み事があるからほぼノータイムであの額を振込んだんだろ?その話をしようぜ。それとも振込んだ本人でないと話になんねえかな?」

ポカン。

私は何も言えなくなった。この弟弟子、呼んだのが誰なのか最初から気付いてたな!その上で焦らしてたな。本当にこういう事をやらせたら誰も敵わないのをすっかり忘れていた!

「これほど私達を翻弄出来るもの、更にそれをしようと思うものはお主ぐらいだろう、ヌゼ・チグ」

転移を使って現れ、この場の浮いた空気を踏み潰した齢三百二の男は珍奇なものを見る眼でヌゼを睨み、言葉を続ける。

「いつから気付いていた?」

「あの額を金銭感覚が一庶民のナダ兄さんがほぼノータイムで振込めるわけないだろ。それぐらいスカウトする前に調べとくなり、神官戦士長にさせてんだからすぐに気付けよ」

アホみたいな事言わせるオッサンをひと睨みした。

「相変わらず食えん男だ。ならば仕事の話だ」

風格を纏ったとでも言うのか真剣な眼差しを俺に向けてきた。

相変わらずなのはあんたもだよオッサン。いちいち人を試すな。

俺は腕を組む。

「それで俺に何をさせたいんだ?」

私はたくわえた髭を撫でる。

全くこの私のプレッシャーをまともに受けて何ともないのか。明らかに一年前とはレベルが違う。本当にどこまでも進むつもりのようだな。羨ましいものだな、か~〜悔しい!

「ゴーレムといえば、分かるだろう?」

またか。

「ストックが無くなったのか?」

二人は互いに視線を外さない。

私は何の事を言っているのか分からず、疑問をそのまま口にする。

「結局ヌゼに何をさせるつもりなのか?いいかげん教えてください!」

は〜〜、

本気で言ってんのか?この兄さんは。

「神屑屋のSランクまで行ったのに何で逆に知らないんだよ?ナダ兄さん」

「なら教えろ!」

くっくっく。

「やっぱりナダ兄さんはナダ兄さんだな。オッサンに毎日からかわれて大変なんだろ?」

「お前いいかげんにしろ!この人は騎神殿のトップ、騎老なんだぞ!」

「だから?」

「お前こそ失礼極まりないだろ!」

「どこら辺が?」

ナダ兄さんは立ち上がり立て掛けていた柄から剣を抜いて構えた!

「これ以上言えば斬るぞ!」

本当に情報弱者だよなあー。

仕方なく立ち上がる。

「今この場で一番立場が上なのは俺だよ」

怖いねえ、馬鹿だねえ、どうしようもないねえ。

俺の言葉を聞いて俺の顔面に向けて突きを放つんだから。

Sランクにおまけでなった人の突きが俺に通用する訳ないのに。

そんで今は俺の言った事に訳分からなくなってオッサンにどういう事か視線を放つとか大事な事がヌケてるよな。

「オッサン、何で教えてないんだよ?」

「まさか知らないとはな、気分を悪くさせてしまったか?」

「大丈夫。今でもよくあるよこんな事」

何だ、この会話は?弟弟子の方が立場が上?

すっとんきょうな顔。

「騎老よりも上だって言うのか?仮にお前がSランクの神屑屋だったとしても私と同程度のはずだ!」

剣を構え直す。

そうだ、ヌゼのランクはAランクのはず。そこから上に言ったという情報は私の元に入って来ていないそんな事ある訳が無い、私は神官戦士長だぞ!

「あ~あ、そんなにウロタエなくていいのに。俺の情報が世間に出回るわけないだろ。それが分からないから情報弱者っていう自覚すら持てないんだよ、ナダ兄さん」

「ならお前は何だって言うんだ!?」

ナダ兄さんの剣に殺気が宿る!

かなりお怒りのようで、昔を思い出すねえ。いつも自分の思いどうりに行かないとこうだったなホント懐かしい。

「SSランクの神屑屋だよ」

呆気に取られた顔のナダ兄さん。

本当に知らなかったんだろうねえ、意外では全く無いけど。何か頭ん中が掻きむしられてる感じだけどそこまで抗う事でもないだろうに。

「私を騙して楽しんでる訳ではないんだな?」

「もう充分楽しんだから」

息が荒くまだ受け容れ難いのはいつも通り、ナダ兄さんは毎回ショックを受けるといつも苦しむ。今回は余程なんだろうねえ、見てきた中で一番苦しそうだからね。

「カウス様は知っていらしたんですか?」

何とか絞り出した私の言葉にここまで苦しむ事に引き気味なのには何故知らなかったのか分からない顔を向けられる。

剣に迷いが出ているのを自覚。

「ヌゼ、この男は本当に大丈夫なんだろうな?お前が推薦したから神官戦士長として迎えたんだぞ」

「仕事だけはちゃんと出来る人だよナダ兄さんは」

「待って下さい!今の話は初めて聞きました、ヌゼの推薦とはどういう事ですか?」

疲れているが鋭い目を向けられる。

わざと教えていなかったな。余程頭に来る日々だったのか、余程からかうのが面白かったのか。まあ何となく分かる神屑屋として限界だったのだろう。そうでなければ私の話にナダを推薦しなかっただろう。確かに人に恵まれているこの一点だけで立派に神官戦士長をやって行けるのだから大した男ではある!

「気にするな。それだけで神官戦士長は務まらんよ、この程度の事で騒ぐから事ある毎にからかわれる、そこはいいかげん学ぶべきではあるな」

私は剣を柄に納めた。

全くもってその通りだ。どんな経緯で神官戦士長になったかではなく何をしたか、それに尽きる。何より戦いになればヌゼに敵わないのは剣を構えた時にはっきり分かった。私の目の前にいるのがヌゼだと分かっていても得体の知れない何か、絶対に敵対してはいけないと魂がブルっていた!気合いを入れなければ全身が震えて立っていられなかっただろう。やはり俺には神官戦士長が向いている、なってみてつくづく天職だよこの立場は。

「全くその通りです。いいかげん仕事の話をしましょうか」

「その話をするにはサレナさんがいないと出来ないというかあの人が俺を指名したんだろ?」

「娘にはここに来るように言ったがきかなくてな」

「さすがのオッサンもサレナさんには振り回されてばかりなのが手に取るようだよ」

俺は一呼吸。

「開発室にいるなら俺が直接行くよ、問題無いだろ?」

ナダ兄さんとオッサンは互いを見てから、ナダ兄さん。

「また変わっているが大丈夫か?あいつはまた凝ったモノを造ったぞ」

「俺は神屑屋だよ。神官長が拵えた入口ぐらいは突破して見せないと、本人はそれを見たくて出て来ないんだろうし期待には応えないとね、じゃあ行って来る」

「待て!私はまだ最初の質問に答えてもらっていない」

「なら開発室の入り口前まで一緒に行こうぜ、良いよなオッサン?」

一瞬の圧!

「好きにせよ」

「なら行こうぜ、ナダ兄さん。どうせ道のりは長いんだし」

「分かった、入口前までな」

二人は執務室の外へ。騎老は出て行ったのを確認してからソファーにドサッと座った。

「全く生きた心地がしない。あれほどの圧をただの遊びなのだからSSランクの神屑屋とは得体が知れん」

騎老は神官戦士長が戻って来るのが分かっていたので戻るのを待つ事にした。

それはただの休む口実である。
















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