第2話 リアンさんと小栗先輩

「はっ、はっ、はぁ、は……」

 満足に息を吸えないまま俺は走っていた。

 木の葉に小枝、倒木を踏みつけ、生物の気配がない漆黒に染まった山中をどことなく逃げている。

 足をそのまま動かし片目だけで振り返る。闇より黒い百足むかでの群れようにうごく長髪を四方に振り乱し、血の凍った細腕を伸ばして俺を捉えようとする何者かが駆ける。

 正面の樹を右に避けてすぐ左へ足先を向け針山のように乱立する若木を越えてジグザグに走る。頭で判断するのではなく身体の部位ごとに状況に応じた動きをしている感覚で振り切っていく。相手の中指の爪が刹那、俺の背をかいた気がした。

 巨木に回り込んで抜けた時、かすかに斜光を感じた。しらむ空、夜が明ければ助かるはずだと根拠なく信じた。内臓は悲鳴をあげ走力は落ちていく。果て無き樹海にも似たこの山に俺はいつやってきたのか、何故か思い出せなかった。どうして追われているのかも、何をしていたのかもわからない。

 突然視界が光の束に切り開かれた。背後から遠吠えの如き嘆き聞こえて、消えていった。

 飛び込んだ真白ましろな空間は厳冬げんとうの豪雪地帯を抜けて薪ストーブと出来立てのシチューで出迎えてくれたような芯から温まる所だった。

 いつの間にか動悸は収まった。空気に身を預けると四肢が重力から解放されて心地よさに包まれた。

 不意に中空ちゅうくう射影機しゃえいきから出たような人影が現れた。投影された形が少しずつ具体化してきて、それは紛れもなくリアンさんだった。

「リアンさん……」

 安堵が染みて何者かに追われていた恐怖を溶かしてくれる。いくらオカルトが好きでも身の危険を感じたい訳ではない。好奇心と恐怖心の狭間でスリルを得たいのだ。

「ほらこっちにおいで」と、リアンさんが両腕を翼のように広げて迎え入れてくれる。

 俺は幼児に返ったようにその腕の中へ、彼女の胸に飛び込んだ。記憶のない幼少には多分経験したであろう母性を感じた。このままずっとこうしていたい。そう思った。

 しかし違和感も気味悪い程に感じていた。まだ数時間しかやりとりをしてないとはいえ、あのリアンさんがこんなことをするだろうか……? だとしてもこの機会を逃したくないと思う心が俺をさらに退行させていく。


――……きろ

 そのとき途方もなく距離のある場所から何か聞こえる。


――……ぉぃ、高橋

 うるさい。邪魔しないでくれ。


「こら。いい加減起きなさい」

 女性の叱りと共に脳天に鋭い手刀が振り下ろされ、自分の置かれた状況が水底から浮き上がるように思い出された。

 上体を起こせばそこは講義室の中で、周囲の席の女子たちが一様に軽蔑の視線を浴びせてきていた。血の気が引く俺の顔を前から覗き込んだのは手刀の使い手であり文学部助教授の紅倉べにくら先生だった。

「なーに開始5分から居眠りしてるわけ。男子一人で大変だろうけど、頼みますよ本当」と、先生は短いため息をした。

「っあ……すみません」

「…気をつけなさい」

 耳元でつぶやいて先生は教壇に戻っていく。同時に周囲の視線も揃って前方に向き直る。皆の目、あれは良くない。精神が雑巾みたいに引き絞られた。

 どうやら変な夢を見ていた。それも身震いするほど恥ずかしい内容。起きてからも何故だかはっきり覚えている。よっぽど印象強かった体験だったかもしれない。今後あの夢の中の感覚を思い出す度に悶絶してしまいそうだ。


 講義初日の今日は散々だった。

 この日は学部の必修科目が大半で、つまり紅倉先生アンド学部生と半日以上顔を合わせなければいけない。女子たちからの評判は早くも悪いらしく、居眠りはさらに拍車をかける結果となった。

 浮いた存在であるのは変えようがなさそうなので腹をくくるしかないが、先生からの評価は落としたくない。そこで募集のかかった授業準備の助手を名乗り出て積極性をアピールすることにした。実践はまだ先のようで面倒くさいのは本音だが、授業の裏側を知れる特権にはわくわくする。

 それより問題なのは学部外の履修科目だった。大講義堂を訪れると学年も専攻もバラバラな100人以上がすでに談笑にふけっており、席を確保することすら困難だった。

 やっとのことで座ったものの両隣の人は前後の席同士でお喋りしていて声をかけるタイミングも掴めない。他人の邪魔をして目をつけられたくはないし無視されたらとてもつらい。葛藤に苛まれているうちにチャイムと共に先生がやってきて講義説明が始まった。90分間誰とも話すことはなかった。


 そうして午前はあっという間に過ぎ去った。

 昨夜からの夜更かしが居眠りと空腹をもたらし、時間の進みはより早かった。大講義堂を出て、ピロティの講義堂沿いを左手に進むと突き当りに前面がガラス張りの学食がある。

 昼休みは生徒から教職員まで学内中から人が集まる混雑地域であるためできれば近寄りたくないが、昼食の準備などまるでないため鳴る腹を抱えて足を延ばした。

 中には購買部と食堂の2つに分かれている。購買部は生協のコンビニと言った感じで弁当に飲料、お菓子や文房具、授業で必要な教科書の販売から自動車学校の申し込みまで請け負う大学の何でも屋といった施設のようだ。食堂の方は日替わりのメニューから選んで注文しトレーに乗せて席まで運ぶ、ごく一般的なシステム。購買と比べて値段が安いため席さえ空いていれば食堂利用が安上がりになるという。

 一人暮らしを始めたばかりの今は手持ちも心もとない。節約心を忘れず俺は食堂の行列に並んでロースかつ定食を頼んだ。

 460円の支払いを済ませ食事スペースを見渡す。食器と箸、スプーンのぶつかる音にガヤガヤとした喧騒が混ざって大音量となっている。等間隔に長机と椅子が一面に並んでおりぎっしり人で埋まっている。トレーを持ち歩いたまま空席を探すも見つからず、あっても仲良し3人らしきグループの一角だったりして非常に座りづらい。

 やばい。手元の定食が冷めていくが席がないからって返品もできない。やがて足も止まり顔を上げるのも面倒になってきた。昼休み時間がどんどん減っていく。

 学食の活況にいて俺だけがぽつねんとしていたら、

「おーい、たかはしー! こっち来なよ~!!」

 澄んで透った声がした方角、並列で座る人々が重なったテーブルの最奥から振る手が見えた。

「ここ! 席空いてるから!」

 手首を曲げ斜め下を指さす。そこは人の重なりが途切れた部分だった。俺はすがる様に足早に向かった。

 トレーを置いて椅子に腰かけた。対面に煤けたようなクマを涙袋につけたリアンさんがいて、

「今朝ぶりね。授業初日はどう? あたしは2コマともぐっすりだった」

「リアンさんお疲れ様です。俺はそこそこ、寝てました」

「なによしっかりしなきゃダメじゃないっ。1年からだらけてると痛い目見るわよ~あたしみたいに」

「…はい。気をつけます。あ、席ありがとうございます。学食、人多いですね」

 リアンさんは水をグイッと飲み干し、

「ぷふぁ…まぁしょうがないのよ。大学周辺はロクな店がないからみんな学内で食べるの。駅まで行けばいいんだけど遠いし」

辺鄙へんぴな場所にありますよね。藍大って」

「あたしはそんな気にしてないよ? 自然がない都会なんかより千倍マシだわ」

「なるほど」

「広い敷地は移動が嫌だって人もいるけど、狭いよりはよくない? それに――やば、次の準備してない」

 俺が来た時すでに彼女のトレーは白い皿と茶碗以外に何も残っていなかった。気を遣わせた上に引き留めてしまったようで悪かったな。

「すみません。俺が迷惑かけてしまって」と、立ち上がるリアンさんに俺は目線を下げたまま言った。すると彼女は、

「てい!」

「いてっ、え?」

 俺の額にデコピンを決めて、

「謝るな! それ、あんたの悪いくせよ。早く治した方がいい」

 下唇をむっとして眉間みけんが狭まった顔をした。思わず「すみません」と反射的に繰り返しそうになったのを顎が開く寸前で止めた。俺の良くないところだと自覚はしていた。ここで言うべきは謝罪じゃないだろう。

「ありがとうございます。リアンさん」

「うんっ。……あっとそうだ、高橋今日の夕方何時終わり?」

「たしか、16時頃だったと思います」

「りょーかい! ならその時間にサークル棟5階の北の角部屋に来て!」

「ええそこで何するんですか?」

 黒目が光りムフフな笑みを左手で隠すばかりの彼女は、

「そんじゃまた数時間後に~!」とだけ言いそのままトレーの返却口に向かっていった。

 数秒間呆気あっけに取られていたがリアンさんに伝えられた場所を忘れないようスマホにメモした。その時初めて現在時刻を確認するとあと6分で次の授業時間だと知った。手の中には丸々残ったロースかつ4切れと千切りキャベツと白飯が盛られていた。あれだけ大勢で賑わっていた食堂も気づけば卒業式後の体育館くらいがらんとしていた。

 この後俺は人生で最も早く食事を終えた俺は舌で肉の余韻よいんを味わう暇もないまま学食を飛び出した。



 赤焼けた空をカラスが群れとなって横切り寝床に帰っていく。気温だけは陽気だったが、午後の授業も午前のリピートな有様だった俺の心理は陰気だ。学部棟と講義堂を行き来しただけの1日に思えるが、最後に大きなイベントが待っている。

 まだ手放せない学内地図で現在位置を把握しつつ目的のサークル棟5階に向かう。場所自体は昨日の新歓で訪れているが、あの時は勢いで連れてこられて人波に流された末にオカ研は期待ハズレ、先輩は消える、謎の光を見つける、空腹疲労その他諸々、さらにリアンさんの一連で脳みその記憶領域がまともに動いていなかった。ゆえに学部棟から少し離れたサークル棟に行くまでに10分弱を費やしてしまい、建物入口に16時過ぎの到着になってしまった。

 昨日はさして気にしなかったが改めて屹立きつりつする棟を見ると、灰色のコンクリート壁は長年の汚れをそのままに日差しと雨風にさらされ塗料の剥げが目立ち、築40年は経っていそうな様相だ。周辺の建物と比べなくても古さが十分わかる。

 中に入るとリフォーム済みなのかいたって普通の大学施設……のように見えるがよく観察すると所々に懐古かいこ的要素が残る。板張りの床は一部だけ擦過傷さっかしょうと黒ずみが酷く、うぐいす廊下並みに甲高くきしむ箇所もある。天井は雨漏りあと、摩擦係数が低い階段は危険で、各掲示板には年代不明、解読不能な張り紙がまるで何かを封印するように多重になっていた。ちなみに男子トイレの個室は4分の3が和式だった。

 棟内経路に従い階段を5階まで上り最奥の部屋までやってきた。

「ここは……何の部屋だ?」

 引き戸の窓には立ち入り禁止の文字型にガムテープが貼られていた。天井の吊下げ札もなく角部屋の本来の使い道もわからない。だいたいこういう部屋は物置とか用務室とか、勉学外のものに利用されているイメージがある。

 勝手に立ち入って中の他人に怒られたくはないし、すでに約束時間を過ぎているのを考えるとリアンさんが怒り心頭で待ち構えている可能性もある。どちらに転んでもメンタルに重傷を負うのは間違いなさそうだ。いっそのこと全部放り出して帰る……はしたくない。

 埃っぽい空気をひと吸い。コンコンコンと扉をノックし、

「リアンさん、遅れてすみません。高橋です」

 だが反応はなかった。リアンさんはいない? にしても声をかけてもノックをした瞬間にすら物音がなかった。職員の誰かならすぐ出てきそうなものだが、どうだろう。

 取手とってに指をかけると鍵は掛かっていなかった。窓のテープ文字が再び目に入る。しかし開けてしまったならもう遅い。飛び込んでみてから考えればいい。俺は真剣さをまとったつもりで引き戸を開けた。

 部屋の中は外観からの予想よりずっと狭苦せまくるしかった。突き当りの窓は西日を入れ込み内部をオレンジ色に照らしている。うなぎの寝床みたいに奥行きのある部屋は両側に天井をく金属製のラックがどっしり直線に並び、棚受けは全て放り投げておいたような乱雑具合の物を限界まで収納していた。移動できるのは2人が背中合わせで通り抜けられる程度の真ん中しかなく、そこの床にも段ボール箱に詰められた何らかの道具類や虫捕り網らしき物体で占領されていた。

 そしてその中央で半身を橙色に染めながら、用意した勉強机に突っ伏してスヤスヤ眠るこの部屋のヌシがいた。

「リアンさん……」という俺の呆れ声に耳すら傾けず、夢をむさぼるように躍動する口からよだれを垂らしている。道理でノックに気づかないわけだ。

 俺と同じように彼女も睡眠不足だった。一人きりで適温の光を背に浴びていたら睡魔の奴は驚くほど早く召喚され意識を持ち去ってしまうだろう。心地よさげな彼女を見ていると俺まで眠気が伝染してくる。

 ミイラ取りがミイラになってはしょうもない笑いぐさなので喉を伸ばして欠伸を耐える。さてこれからどうしよう。

 何か時間を潰せるものはないかと見渡せば本は沢山あった。ふと気づいたのは乱雑な棚にあって書籍だけはきちんと整頓されている。目に付く背表紙を流し見ていくと――『オサムシ類の分布と地域変異』『ゴミムシ大図鑑』『日本産チョウ全種』『狩りバチの生態』『日本産カミキリ生態図鑑』『普及版 日本ゾウムシ図鑑』『テントウムシの集団越冬』――文庫本に新書から大型本まで、ひたすら虫とその関連本ばかり。全部リアンさんの私物なのか、それともここは昆虫サークルみたいな同好会の部屋だろうか。いずれの本も俺が手に取ったことのないものばかりで興味深かったが所有者の許可なしに読み出すのは気が引けたので触らなかった。

 結局ふりだしに戻ってしまいやることがない。リアンさんは微動だにせずだらしなく口を開いたまま自らの腕を枕にしている。エネルギッシュな彼女だが、均整の取れた顔立ちをしている。閉じた瞼に艶やかなまつ毛、細い鼻筋と主張し過ぎない小鼻、てらてらと濡れた唇、乳白にピンクを一滴混ぜたような色の肌、赤ん坊にも似た柔和な頬をさらりと流れる髪が覆う。

 彼女が寝言未満の音を発し、思わず顔を近づけ過ぎた気がしてドキリとした。単に夢を見ているだけの様だった。

 ほっとしたのも束の間、狭い室内にリアンさんと2人きりでいる事実に、ついに気づいてしまった。まるで心房が鼓膜と連結したかのように爆音の拍動が筋肉を介して全身に聞こえる。みるみると顔が熱くなり、18歳にもなって今時中学生でもありえないような低レベルの恋愛キャパしか持たない自分が恥ずかしくてたまらない。するとさらに熱が上がって負の螺旋らせんに囚われた。

 五感が冴えわたり、頭に入るあらゆる情報が悶々とさせる燃料にしかならない。心臓が胸骨まで押し上げるほど跳ねている。鼓動音が彼女に聞こえるのを心配するくらい彼女に近づいてしまう。

 突如、背後の引き戸が静寂を破って開かれた。生命活動が止まるんじゃないかと思う程ビクついて振り返り際に首を痛めた。

 戸を開け廊下に立っていたのは白銀しろがねの髪が眩しい、一目で肌が粒立つような説明できない異質な笑みの女性だった。ただの当てにならない直感だが、恐怖以外でこの感覚になったのは初めてだった。

「あれ。どちら様かな。ここは勝手に入っちゃだめだよ。それに、」

 白銀の女性は奥に目をやって、

「寝てる人に手、出しちゃだめだよ」と穏やかに言い、両人差し指でバツを作った。

「ち、ちっちがいます! 俺はリアンさんに呼ばれて、だけど寝てて! だから困ってて、」

 俺は羞恥心しゅうちしんまみれて血液が突沸とっぷつしたように汗が止まらなくなり大慌てで誤解をこうとした。

 それをぽかんと見ていた白銀の女性はクスッと口をてのひらで隠して、

「ごめん。そんなに慌てると思わなくて。冗談だよ、安心して」

「……へ?」

「思い出した。今朝梨杏りあんが言ってたのは君のことだったんだ。……うんうん、そっか。彼女が君を気に入った理由なんとなくわかるかも」

「いや、なんのことですか、って近いです離れてください!」

 微笑むあごに手を添え、画廊で彫刻作品を購入しようか吟味ぎんみするコレクターのような仕草で俺の全身を見回った。放つ雰囲気を含め視線も捉えどころのないようでいながら、ぱっちりと大きな瞳はまるで大理石の白目に高純度の水晶の玉を埋め込んだ観音像の眼のようだ。リアンさんの濃縮した星空のような瞳とは全く異なるが、同じく人を惹き付ける神秘的魔力を帯びている。一度目を合わせたら魂まで縛られ吸い込まれてしまう気さえする、人間に思えない目を持っていた。

「そんなに嫌がらないでよ。お姉さん悲しくなっちゃう」と、わざとらしく唇をへの字に曲げてえーんえーんと涙を流す手振りをした。わかった、俺この人すごい苦手だ。

 対応策を探る俺をお構いなしに白銀の女性は演技をやめてアルカイックな微笑みに戻った。

「君、面白いね。普通の人は私と喋ってるとなぜか3言目には怒り出すのに……嬉しいなぁ」と目をつむるくらい黒に細めた。

 そう発した瞬間、背筋を氷製の指でなぞられたような悪寒がした。……確信した。根拠は一切ない。霊感もなければリアンさんみたいな特殊な力なんて何一つ持ってないが、本能よりも深部に刻まれた俺のオカルトの知恵が告げている。


 この人は人間じゃない、と。


 輝く白銀の髪も神秘的な雰囲気も聖性せいせいすら感じる表情も白い魔力のこもった瞳も彼女が人外の存在だと示している。

 そしてそれらは彼女の一側面でしかない、と。

「あなたはいったい……何者なんですか?」

「ふふ。知りたい? 私のこと」

 俺は目をらした。思うように返事ができなかった。自分より背が低いはずの彼女がはるかに巨大な塊のように感じた。冷静をよそおうので精いっぱいだった。先の発言から知るにリアンさんとは親しい友人らしいが、わからない。

 白銀の女性は神に拝むような合掌を作って、

「教えてあげてもいいけど。人にお願いごとをする時はーって、定番のやつがあるよね」

「……何が欲しいんですか」

「私が欲しいのはね。…わわわ」

「わ、え何ですか?」

「うん。今日はこれくらいにしとこうか。梨杏に用があったんだけど、急ぎじゃないし。今の状況を見られたらややこしくなりそうだしね。ではでは、そういうわけなので~」

「ちょっとまだ話しが、」

「ううううんん……あぁぁぁふ」

 俺の真後ろでうめき声がした。部屋の主の起床は近い。

「おっと。本当に時間だね。君とはまた会うだろうけど。私のこと、忘れないでね?」と真っすぐ俺の眼を見て一方的に約束を求めた。

 俺の返事も待たず白銀の女性はついに名乗らないまま、柔らかに右手を振りながら部屋を去っていった。

 彼女がいなくなったと同時に、バケツをひっくり返したような疲労感が降りかかった。たった数分間の遭遇劇そうぐうげきはまるで時限爆弾の唯一の正解のコードを切るまでのような濃い時間だった。

 膝の力が抜けて棚にもたれかかった。結局彼女は何者だったのかわからないままだが、最後に再会を匂わせる不吉な予言を残していった。嫌でも遠くないうちに会うのだろう。それに友人ならあとでリアンさんに聞いてみればいい。考えがまとまるとやけに安心した。



 何やらモゾモゾ音が聞こえると思ったら、リアンさんが座ったまま机に乗せた上半身を芋虫のみたいにくねらせていた。昨夜の羽化を試みるギフチョウを思い出した。

「ぐううぅぅ……んな、たかはし……?」

「あ、おはようございます」

「はぁーごめん……おもいっきりねてた」

「いえ別に、大丈夫ですよ」

 起きても夢うつつな様子で表情はまだ幼児のような柔らかさだった。リアンさんは凝り固まった筋肉をほぐすため肩甲骨を回してから立ち上がった。

「――よしっ始めようか。高橋のための昆虫講座」

「あ、ありがとうございます。もしかして今日はそのために呼んだんですか?」

「そーゆーこと! 遅れちゃったしさっさとやろっ」

 そう言うと端に寄せてあったホワイトボードを、邪魔な段ボールごと引き出した。窮屈きゅうくつな部屋の圧迫感がさらに増した。

 マーカーペンを握りてきぱきと書きだしたリアンさんの後ろ姿を見つつ、俺はうっかり忘れそうになった先の話をした。

「リアンさんが起きる少し前、ここに女の人が来たんですけど。用事があると言ってました」

「女の人? ここに来るってことは、キノかミクか…あいつかな。どんな人だったの?」

「えっと白髪で、」

「じゃあ希乃きのだ」即答だった。

「希乃先輩って……何者なんですか」

「何者って、別に普通の友達よ。同じ2年の小栗おぐり希乃。去年から一緒に採集に行ったりする仲で、虫じゃなくてキノコ好きなの。虫も嫌いじゃないけどね」

「……なるほど」

「なによその顔。あ、ダメだからね! いくら希乃が綺麗だからってヘンな考えしないでよ!」

「しませんよ! むしろ向こうが……いえ何でもないです」

「うん? まあいいやっ。それよりそのイスすわって!」

 さっきまで自分が座っていた椅子を指さした。言われるままに俺が腰を下ろすと座面と机の温度はまだ人肌に近かった。予想外にリアンさんの体温を感じてしまい体の中がヒートアップした。顔にだけは出さないように平静を装い彼女の方に顔を向けた。

 リアンさんは話しながら書いていた文の辺りをペン先で軽く叩いた。そこには丁寧にレタリングされた字で、

『高橋のためのリアン先生の初心者昆虫講座』

とあった。さらにリアンさんは上着のポケットから眼鏡を取り出し不慣れな手つきで掛けると、

「高橋君のために基本のきから話していきます。質問があれば手を上げること。いいですね?」と、まるで塾講師のような口調で授業を開始した。

「あ、はい。わかりました」

「何ですかその返事は! もっとハキハキ喋りなさい!」

「…はい!」

 どこの誰がモデルなのか知らないが、嬉々ききとキャラになりきっているようなので俺も大人しく付き合うことにした。リアンさんは

「何から話しましょうか。まずは虫の捕り方、と言いたいところだけど、採集に行くにあたって一番大事なことは何でしょうか。はい高橋君!」

「急に!? 大事なこと…け、怪我しないこと?」

「不正解。それではいけませんよ。正解は『他人に迷惑をかけない』です!」

「それは当たり前じゃないですか?」

 するとリアンさんは話しながら何やらイラストを描きだした。

「あたしが言ってるのは人間的な意味だけではないのです! いいですか、ある日あなたは採集に行きました。目当ての虫がいそうな場所を発見しましたがそこは私有地です。入っていいですか? 当然だめです」

「まあ、そうですね」

「あなたは山に行きましたが装備不足で遭難、救助されるまで多くの人員が動きました。お金と時間を負担できますか? できませんよね」

「はい」

「他にも様々ありますが、つまり『他人に迷惑をかけない』とは自分の利益だけを優先して行動してはいけないという意味なんです!」

「……なるほど」

 唐突に真面目な話で面食らったが、リアンさんの言葉は身に染みた。俺も経験こそないが話にはよく聞くからだ。たとえば心霊スポットの廃墟へ突撃する。しかしそこは他人の私有地、立ち入り禁止なので不法侵入の罪に問われるかもしれない。同じオカルト畑の人間として耳が痛い。

「なので採集に行くときは目的地の情報を集め、装備を確認し、安心安全で楽しもう! ということなのです!」と、事前に考えていたであろう内容を言えて満足気な表情を見せた。

「わかりました。気をつけます」

 彼女のことだからもっと昆虫愛を爆発させた熱血授業を開講すると思い込んでいたので、意外も意外だったが、やっぱり好きなことに全力で真剣な人なんだと思った。

 リアンさんはペンを握る手を止めた。ホワイトボードに完成したのは3頭身で大きな黒い目、口からは2本の牙、おでこの長い触覚が目立つ見たことないゆるいキャラクターが崖から落ちたり別キャラに叱られる図から矢印が伸びて「きをつけよう!」と呼び掛けていた。

「話変えてすみません。一つ聞きたいんですけど、その絵は何ですか?」

「テンギューくん」

「テンギューくん? オリジナルですか?」

「うんオリキャラ。かわいいでしょ、モデルは何だと思う…あ、思いますか?」

 リアンさんは素に戻っていたことに気づいて言い直した。俺もあえてツッコむ野暮やぼはしない。

 このゆるキャラのモデル。触角と牙が特徴のもの。十中八九、虫なんだろうけど自分の知識ベースに当てはまる種類がない。カブトムシなら角が必須、チョウなら翅がメイン、カマキリでもバッタでもテントウムシでもない。俺の解答をやけに楽しみな様子で待つリアンさんが悪い気がしてきた。何も浮かばないがとにかく答えないと。

「…き、吸血鬼?」

「全然ちがうわッ、勘が悪い! なんでわかんないのよ!? カミキリよカミキリ!」と、正解を言って足をジタバタさせた。

「カミキリムシ、ですか。こんな見た目でしたっけ」

 言ってから気づいた。この人の前で素直な感想はすぐ口にしない方がいい、と。

「ハハハ、わかった。やっぱりあんたには徹底的に基礎から叩っきこまないとダメみたいね…!」

「お、お手柔らかにお願いします」

「あたしが一番好きな虫を話すのに手を抜くわけないでしょ!」

「教師キャラは良いんですか?」

「満足したからもういい!」

 眼鏡を外したリアンさんはボードを小突いて再びペンを走らせていく。どうやらカミキリムシがさらなるやる気スイッチだったようでギアが1段階上がった。カミキリムシと聞いてもぼんやりとしかイメージできない。そのゆるキャラのモデルなら、触角は長く鋭い牙があるのだろう。少しだけ記憶にあるのは黒に白の水玉風の模様をした虫をいつだったか見たことあるが、あれはカミキリムシだったか?

 頭を捻って想像力を働かせていると、

「はいそれじゃ、カミキリを知らない高橋がおそらく想像できる最低限のカミキリ像を描いたわ。これよね?」

「あっそう! そんな虫です! 見たことあります」

 リアンさん作のカミキリムシは長い触角の生えたがっしりした黒地の体に白抜きのまだら模様で表現されていた。まさに俺の脳内にある不明瞭なイメージを高解像度で印刷したような仕上がりだった。

「なんでわかったんですか?」

 驚きもそこそこに素朴な疑問を尋ねた。

「これはゴマダラカミキリっていう種類なの。ちなみに絵は実寸大じっすんだいで、日本人が想像するカミキリは100パーこれよ。だって街中でもたまに見かけるくらい普通種だから」

「こんなサイズの虫が街にいるんですか?」

「さすがに植物のなさすぎるとこにはいないけど、ほどほどに樹種じゅしゅがあるとこならいるわ。それってなんでだと思う? 虫修行になるからよく考えて!」

「いる理由……」

 特定の場所にしかいないものと広範囲にいるものの違い。正攻法で立ち向かっても、所詮しょせん俺の昆虫知識はリアンさんの足元どころか地下に潜り込むくらい少ない。自分なりのやり方で理由を導き出してみたい。

 ならば自分の得意分野に置き換えて考えてみるのはどうだろう。妖怪は種類ごとに出現場所や行動が決まっている。河童は沼や池に多い、泥田坊どろたぼうは田んぼ、天狗は特に修験道の山、あかなめは風呂場といった具合だ。都市伝説系の怪異も似たように語られる噂の中で特徴が、振り幅はあるが明示されている。彼らは皆、特定の何か――物品や人物、土地家屋など――と深く結びついており、存在そのものが依存して成り立っているパターンが少なくない。

 これを虫にも応用できないか?

 白黒色のゴマダラカミキリの情報は見た目以外何もない。だが植物を食料に生きているのはリアンさんの言葉で判明した。集中して視界が狭まる。急に昨晩の彼女の話が思い出された。ギフチョウの生涯を熱弁する中でこんなことを言っていた。

「成虫が交尾して卵を産むのは主にカンアオイって野草とその近縁きんえん野草やそうなんだけど、幼虫の食べられるエサがそれ以外にない。っていうか虫はそれぞれ決まった植物だけを食べて成長するのよ。でも中にはいろんな種類の植物を食べられる虫もいて、そういうのはあちこちたくさんいる普通種ね」

 ギフチョウの幼虫はごく一部の草しか食べない、人間でいう超偏食家ちょうへんしょくかだ。多くの虫が同様の生態を持つらしいが中には多様な食物に適応したものもいる。昨夜は眠気と闘っていて覚えておくだけで精いっぱいだったが、そういう意味の話だったと今更理解した。ゴマダラカミキリは後者の虫だ。特定の植物がないコンクリートジャングルでも臨機応変に食料を変えられれば生きていける。

「――はい」

「どうわかった? 街中にもいる理由」

「食べられる植物が多いから」

「おおおおっ!」とリアンさんの目が見開かれ瞳の虹彩が煌めいた。

「せいかい! まさか当てるとは思ってなかった! 理由はそれだけじゃないけど当てて欲しいとこを言ってくれて嬉しい!」

 やるじゃんと俺の頭を大型犬を褒めるみたいにくしゃくしゃでた。子ども扱いのようで恥ずかしく思ったが心臓だけは正直だった。

 彼女はボードにもたれかかって腕を組み俺と相対して、

「ゴマダラの話ばっかしてても進まないから先行くわ。とにかくあたしの大好きなカミキリは高橋が思ってるより身近な存在ってのはわかった?」

「よおく伝わりました」

「おっけー!」と、リアンさんは納得な笑顔で話を続けた。

「ほんとーに簡単に言うと、カミキリはね、日本だけで900種くらいいるのよ! 大きさも最大は5センチ以上、最小は3ミリ以下で、色も形も多様性がすんごいの!! それがあたしが好きな理由!」

 彼女の熱にあおられるように相槌多めで聞く。普段の倍くらい早口で入ってきた情報は俺にとっては軽い衝撃だった。昆虫が世界で最も多種な生物だとは知っていたが、国産だけでその種類数、形態の豊富さは信じられない。こちとらまだ900分の1しか手持ちがないのだ。他にどんなのがいるのか俄然がぜん興味が湧いてくる。

「少し気になってきました。カミキリについてもっと知りたいです」

「ああぁほんとなら今すぐ捕りに行こ! って言うんだけど時間がないし時期もまだ少し早いのよ。来週以降いい感じになってきたら誘うから予定空けといて!」

「了解です!」

 まばたきの回数が増えつぐんだ唇をすぼめたり伸ばしたり、まだまだ話足りない様子のリアンさんだったが内側で必死に自我を抑えていると思うと可愛らしく思えた。俺も痛いほど気持ちが分かる。一度オタクモードになるとどれだけ理性があっても止めるのは容易じゃない。

「……あーそういえば覚えてる? 夜話してたこと」と彼女は目線をそっぽ向いて妙に照れている。

「えっと、どれのことですか?」

「だからぁ、あんたの好きなことの、面白い話聞くって約束したでしょ?」

「あ、覚えてたんですか」

「当たり前よ! 自分が言ったことはちゃんと守るわ。でも! あんましこ、怖くないのでお願いね!?」と、リアンさんは寒くない室内で体を縮こませ二の腕を抱いていた。

 俺は嬉しさと何度か見るこの先輩のビビり姿に少し笑いそうになるのを堪えつつ何を話すか考えた。

「怖くない話で俺ができる面白いやつ……」

 聞きかじりの膨大な怪談や説話せつわが条件検索で次々消えていき、残るものは多くなかった。限られた話の中からあまり怖がらせずリアンさんの好奇心をくすぐれるような話。どれがいいだろうと悩んでしまう。

 それでも60秒とたず、

「では、こんな話はどうですか。とある植物にまつわる伝説があるんですけど――」


 切り出したものの誰かに怪談を語ったことなど一度もない。うまく喋れる気配は自分でも全く感じないが、ここで盛大にスベってリアンさんに飽きられるなんて絶対に嫌だ。その思いで、黙っているわけにもいかないので、やや朧げな話の断片同士をまとめながら俺は口を開けた。

 それは見知った話と俺の創作が混じったそれっぽい話。


「桜の木の下には死体が埋まっている。」という有名な噂がある。これはある作家の短編小説の一節が元になっているが、実際に桜の木の下には必ず死体が埋まっているという都市伝説があるのだ。

 曰く、桜が毎年美しい花を咲かせるためには栄養が必要。しかし日々の光合成と呼吸、地中から得られる養分は生存のため消費されていく。早春に大量の蕾を用意するには一年で膨大な養分を集めなければならない。人間によって数を増やした桜は急速に進化した。その地味な幹から人をおびき寄せるフェロモンを出すようになった。何の匂いかもわからぬまま感受性の高い人が引き寄せられていくと、突然根元の地面に穴が空く。それは桜の根が作り出した脱出不可能な落とし穴なのだ。哀れな獲物は出口を塞がれ無数の根に侵食され、まるで食虫植物が虫を捉えて溶かすように人間が養分となってしまう。そうして栄養満点になった桜は枝先にふっくらと蕾をつけてやがて一斉に開花するのだ。


「――その花は鮮やかな、まるで血のような赤味の強い花弁を開かせるのです……っと、どうでしたか? 大した話ではなかったですが……」

「んんん…」

 リアンさんは大げさに怖がるわけでも文句を言うわけでもなく、何やら遠い記憶を探るような顔で顎に指を当てていた。

「どうかしましたか? あ、つまらなかったですか」

「ん、ああいや、話は面白かったよ! 最後以外はそんなに怖くなかったし……そうじゃなくて去年似たような話を聞いたなって」

「え。どんな話ですか?」

「藍大の体育館の裏手に1本だけ生えてる桜の木があるんだけど、その木は毎年花が咲かないらしいのよ」

「枯れてるんじゃないですか?」

「それが葉っぱはちゃんと生えてくるのに、なぜか花だけ咲かないの。確かに去年見たときは花が咲いた様子はなくて。不思議でしょ? でも話して気づいたけど高橋の話とは全然違ったかな」

 趣旨がずれたことを恥じるようにリアンさんは頭を掻いた。

 けれど俺は興味津々だった。思わぬ形で貴重な話を聞けたと思った。リアンさんの口からと言うのもあったが、それ以上に『百八奇譚』に繋がるであろう大学内の話を知れたのが僥倖だった。心が鐘を鳴らしたように高らかに響いた。

 俺は今すぐにでもその木を見たくなり、彼女に声をかけた。

「あの!その木まで案内にしてくれませんか? 今から見に行きましょう!」

「ヤダ!」

 2語で断られた。

「何でですか!?」

「窓の外見てよ。もう日没じゃん」

「あ、」

 室内を暖かく照らしていた西日はとうに冷え切り空は青紫色の暮を迎えていた。今から移動しても暗くてよく観察できない。

「じ、じゃあ明日はどうですか?」

「雨じゃなかったっけ?」

「そうですか……」

「週末、どうせ空いてるでしょ?」

「え?」

「もう! 今週末の土曜にでも行けばいいじゃない! 採集もしたいし、ついでに桜も見に行く! これで文句ないでしょ!?」

 彼女は仁王立ちがよく似合う語勢で俺を納得させた。

「は、はい。それで大丈夫です」

「よろしい! なら今日は帰る準備!」

「はい!」

 人から見れば弟子か侍従に見えるであろう尻に敷かれっぷりだが、案外悪くない居心地なのは俺がM気質だからなのか? できれば違ってほしいものだ。

 慌ただしく部屋を後にする。扉に鍵をかけたリアンさんが俺に向き直り、

「土曜はここに朝9時集合。服は汚れていい長袖長ズボン、持ち物は~飲み物だけ忘れないように」

「わかりました」と俺は脳内メモに書き込んだ。

「それと希乃も多分来ると思う! 明日誘ってみるから」

「あー……わかりました」

 最後の最後でワクワクなお楽しみ予定が暗雲立ち込める予測不能な試練になってしまった。霊が当たり前に見えるリアンさんがとの昆虫採集と花のない謎の桜の木、そして神秘のベールに包まれた妖しい先輩。昨日までの俺なら巨大な不安が先立ち断っていたかもしれない。しかし好奇心を止められない今は背筋がゾクッとするくらいがちょうどよく思えてしまう。

 確実にリアンさんの影響を受けているなと実感しつつ3日後の土曜を待った。


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