第25話 VS魔人戦(3)

 ララさんを先頭に俺達は信号弾が上がった場所へと向かう。


「あれを見て!」


 ララさんの指差す方向に視線を向けるとそこには倒れている3人の姿が目に入った。


「あれはエライソとスリエ、それにハーカスか」

「まさか死んでるの?」

「いや、気配はあるから気絶しているか寝ているだけだ」

「僅かですが胸が上下して息をしているのがわかりますね」

「この距離で普通はそんなことわからないから。あんた達2人は本当に人間離れしているわね」


 ララさんが呆れた様子で話しかけてくる。

 スルンさんの鍛錬を受けていればララさんも出来るようになると言いたい所だけど今はハーカス達が心配なので黙っていよう。


「確かにユウトとルルの言うとおり3人は生きているみたいね」


 俺達はハーカス達の元へと駆け寄り状態を確認すると3人は意識を失っているだけのように見える。ただエライソだけは鼻が潰れ、血を流していた。


「魔物にやられたのよね? 普通人間が倒れているのに殺さずにそのままにしておく?」

「いや、魔物が3人を気絶させたならすぐに殺すと思う」

「それならこの3人は人間にやられたとでもいうの? けれどこのエライソって奴は今ここで始末しておいた方が世のため人のためになるとは思うけど」

「ララさんの言葉は間違っていないと思うけど一応やめてくれよ? 人殺しは重罪だぞ」

「わかっているわ。冗談よ」


 いや、目がけっこうマジだった。もし俺がいなかったら魔物のせいにして本当に始末したんじゃないか? エライソよ。俺がこの場にいたことに感謝しろよ。それにこの場にいるのは俺達だけじゃない。


「3人は誰かに気絶させられたのは間違いないね。今もどこからか俺達を見ているし」

「覗き見とは良い趣味ではなさそうですね」


 気配を消しているがどこからか視線を感じる。

 だけど俺達を殺したいと思っているのか殺気が隠しきれていない。そしてどこかこの殺気を感じたことがあるように思うのは気のせいか?

 まるで殺しを楽しむかのようなギラギラとした殺気⋯⋯まさかこれは!


重力結界グラビティフィールド


 突然どこからか冷たい声が聞こえるとまるで重たい荷物を背負わされたように身体が押し潰される。


「な、何よこれ!」

「急に身体が重くなって」


 ララさんとルルさんはを食らっても倒れることなく立つことが出来ていた。特にルルさんは普段から鍛えているためまだ余裕がありそうに見える。

 だが今は2人の事より声の主に集中しなければならない。


「ヘカテス!」


 俺はゆっくりとこちらに向かって歩いてきた黒い身体に2本の角を持つ魔人の名前を口にする。

 俺はこの時を4年間ずっと待ち焦がれていた相手なため、その姿を見てすぐにヘカテスだということに気づいた。この左眼を奪われてから奴のことを思い出さない日など1日もなかった。

 気のせいか移植した左眼が疼いている。まるでこの眼の持ち主であるスルンさんも戦いたいと言っているようだ。

 だが焦るな。焦って突撃したら今までの苦労が全て無駄になる。この4年間ヘカテスを倒すために鍛えてきたし神器の覚醒も出来るようになった。この機会を逃したら次にいつ会えるかわからないから確実に奴を仕留めるんだ。

 俺はスルンさんのスレイヤーとしての道を閉ざしたヘカテスに対して恨みでなりふり構わず突撃しそうになるが、心に問いかけなんとか堪える。


「私の名を知っているお前は⋯⋯まさかこのような所で私の待ち焦がれたに会えるとはな」

「2人? どういうことだ!?」

「私はこれまで自分と対峙した者は全て始末してきたことが自慢でね。だがこの4年間はその自慢が出来なかった」

「それは残念だったな。だけどその自慢はこれから一生使えなくなるぞ」

「そうでもない。を殺した後にあの女を始末すれば良いだけだ」


 貴様ら? まさかこの場には俺以外にヘカテスと対峙したことがある者がいるというのか!

 ララさん、ルルさん、スリエ、エライソ、ハーカス⋯⋯ヘカテスが視線で捉えているのは⋯⋯。


 ルルさんだ!


「ま、まさかルルさんが?」

「そ、そうです。わ、私は⋯⋯」


 ルルさんは自分で身体を抱きしめ震えていた。それはヘカテスと対峙したからかそれとも過去にヘカテスと会ったことを思い出したからなのか俺にはわからない。


「何だ覚えていないのか? お前はこの女を庇って左目を負傷したんだぞ? だが確かに目を斬り取ったはずだがどういうことか治っているな」


 俺がルルさんを庇っただと!? そんな記憶はないぞ!

 だけど当時は魔物に魔人の出現、左眼を負傷したりと色々なことがあって記憶が錯乱していたけどまさかルルさんと出会ったことがあったなんて。


「思い出話はそこまでよ。今はこいつを倒すわ。ルルは下がってなさい」


 ララさんが冷静に場を把握し判断する。

 いつものララさんならもっと感情的になりそうだが、魔人という強敵がそうさせるのか落ち着いているように見えるが⋯⋯。


「ララさん! ヘカテスは重力を操るから気をつけてくれ」

「なるほど⋯⋯だから私の身体がこんなに重いのね。でもこの程度なら!」


 ララさんはクラウソラスを手にしヘカテスに立ち向かう。


 こうして俺は初めての外の世界でかつて左眼を奪った魔人ヘカテスと再会し、そして今戦いの火蓋が切って落とされるのであった。

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