第5話 下読み初体験
私以外にも下読みシスターズの仲間がいる。
私がデビューする三年前にデビューした丸山さんだ。
私よりも十歳も年上だ。
小太りで腐女子みたいな眼鏡をかけているのが特徴。
丸山さんは辛口な人で下読みのときも実際の通過させるべき数よりも少なく通過させてしまうのが大きな痛手だ。
丸山さんも苦労人で十代の頃から応募して四十歳になってやっとの受賞した人だ。
独身で彼氏がいないのによく恋愛小説を書いている。
私の作品よりも売れている。
絶対に顔出しNGで雑誌の取材でも意地でも顔を見せなかった。
確かにすごく初々しい恋愛小説で丸山さんの丸顔にぷよぷよの頬にたるんだ顎は見せないほうが読者にも賢明だと私も思う。
丸山さんの恋愛小説はいつもイケメンが出てきて主人公の女の子と結ばれるのか、結ばれないのか、その瀬戸際でふたりは苦悩する。
正直これは丸山さんの願望なのでは? と思ってしまう。
そんな指摘は口が裂けても言えない。
「神崎さん、そろそろ帰らないといけないわ」
もう、こんな時間だ。このまま泊まりたい。嘘だよ。帰らないといけないんだ。
「下読み初体験どうだった?」
その初体験という言葉が少し厭らしい方向へと考えてしまった。
丸山さんの小説は過激な性描写でいっぱいなんだよね。
丸山さん、そもそもそんな体験があったんだろうか。
なかったとしたらあそこまでリアルに書けるってすごいと思う。
そういう私も未経験なのだが、ただいま彼氏募集中。
「いやいや、きついですよ。こんなに下読みは大変なんですね」
丸山さんも深いため息をついている。
「本当に大変よね。私が最初に読んだ応募作品なんて小学生レベルよ。句読点の打ち方がメチャクチャなの。その次は教師の作品だったわ。たぶん学校の先生の作品ね。男性教諭が男子生徒に恋をする話なの」
すごく不謹慎ですね。
私も最初は小学生レベルよりもひどいものを書いていましたよ。
そこまではなかったことを祈るしかない。
学校の先生がそんなことを考えているなんて大丈夫であることを祈るしかない。
学校の先生がそんなものを書きますかね。
いや、青春真っ盛りの少年少女を毎日見ているからそんなものが書きたくなるのかな。
学校の先生と生徒が恋に堕ちる話。
そんなドラマがそうは遠くない昔にあった気がする。
そのドラマは女子生徒と若い男性教諭という設定だったか。
そうはいっても丸山さん、その小説に対して何か嬉しそうだった。
何より語尾が揺れている。顔も笑っている。
「通過させましたか?」
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