外れスキル【読書】と外れジョブ【ナイフ使い】で無限レベルアップ! ダンジョンの負けボスとハーレムスローライフしてたら、一緒に転生した歴代クラスメイトが土下座で泣き付いて来るけど追放されたから知らない!

鏡銀鉢

第1話 やっぱり追放されたけど想定内だ

「待ってくれ!」


 必死に手を伸ばした先で鉄の扉が無情に閉められた。

 鉄格子の向こう側では、クラスメイトたちが笑っている。


「ごめんね北見ちゃぁん、お前ここで死んじゃってよ」


 クラスのリーダーでバスケ部の海田が人をバカにした表情でせせら笑った。


「こんな時に遊んでいる場合じゃないだろ! うしろからモンスターが来ているんだぞ!」


 薄暗いダンジョンの中、背後から無数の化物たちの足音と恐ろしい鳴き声が秒単位でボリュームを上げ、死の接近を知らせてくる。


 この非常時に何をしているんだと、俺は必死に扉のノブを回すも、ガチャガチャとやかましい音を立てるだけだった。


「あ、無駄無駄。内側からオレの氷魔法で凍らせてるから」

「はぁっ!? ふざけんなよお前!」

「別にふざけてねぇしぃ♪」

「つうか俺を締め出して何の意味があるんだよ!?」


 すると、他のクラスメイトたちが口々に言う。


「馬鹿かお前。誰かが囮にならないとすぐ追いつかれるだろが」

「アンタが食べられている間にあたしらは逃げるから。じゃあねぇ」

「異世界に転移してからずっと役立たずだったけど、初めて役に立ったんじゃない?」

「まじそれなぁ」

「わかりみ深すぎぃ!」

「おいおい時間がもったいないから早く行こうぜ」

「だよねぇ」


 その言葉を最後に、クラスメイトたちは修学旅行生のようにウキウキと通路の奥へと遠ざかっていく。


 反対に、背後からの咆哮は迫って来るばかりだ。


 10秒もしないうちに、モンスターたちは俺に牙を突き立て爪を当てるだろう。


 だから、クラスメイトたちの声が完全に聞こえなくなってから、俺は漂白された声を漏らした。



「やれやれ、やっと自由にできるよ」



 振り返り際、多種多様なモンスターの軍勢を視界に収めながら軽快に指を鳴らすと世界が凍り付いた。


 鮮やかな白と青が石造りのダンジョンを駆け抜け、満たし、モンスターたちを氷像に変えてしまった。


 俺の上級氷結魔法で数百体のモンスターが絶命した証拠に、ゲームのようなリザルト画面が視界に開いた。


 大量の経験値が入って、レベルがひとつ上がった。本当に、異世界はまるでゲームそのものだ。


 

 氷像たちの間をゆったりと大股に歩いていく。

 すれ違いざまにモンスターたちの姿が消えていく。

 ストレージという異空間収納魔法を使い、俺が回収しているのだ。


 高校の修学旅行中、この異世界に転生した俺はこの一年間、こっそりとモンスターを殺してはストレージに収納してきた。


 おかげでレベルはクラスメイト以上で、ストレージ内の在庫は国庫レベルにまで膨れ上がっている。


 何故あいつらが俺を役立たずと思っているのか、何故俺がこんなにも強いのか、その理由はおいおい語ろうと思う。



「さてと、こっちの通路はモンスターの巣窟だったけど、奥はどうなっているんだ?」


 今頃、クラスメイトたちは分かれ道の反対側を目指しているのだろう。


 俺は、この道の先が行き止まりなのか、それとも裏ダンジョン的なものなのか確認すべく、奥を目指した。


 ダンジョンの奥へ奥へと進むと、モンスターがひっきりなしに現れては襲ってきくるも苦ではなかった。


 どんなモンスターでも鑑定魔法で弱点を看破し、弱点となる魔法をぶつけてやれば一撃で倒せる。


 魔法の使い過ぎで魔力が減ってきたらエーテルを呑んで回復した。

 エーテルとは俺が錬成魔法で生成した、魔力を回復する液体だ。


 もちろん、クラスメイトたちは知らない。

 数が少なく貴重だし、いつもこっそりと呑んでいる。

 そもそも、連中が知れば強奪されかねないし、俺のチートがバレてしまう。


 俺がチートだとわかった連中をどうするか……どうせロクなことにはならないだろう。


 手の平返しでチヤホヤしてきても、うざったいだけだ。


 10体目のマンティコアを焼き殺してから貴重なエーテルを呑み、暗い廊下の奥を睨みつけた。


「さてと、このダンジョンから出たら逃げるか。あいつらのいない、どこか遠くへ」


 深い闇から這い出してきた紅蓮の大蛇が低い唸り声を響かせながら、一息に飛びかかって来た。

 高速の初撃に動じることなく、俺は超高速の雷撃魔法を叩き込んでやった。


「——、——」


 断末魔の声すら上げられず、大蛇は俺とすれ違いながら硬い床にその身を打ち捨てた。


 動体視力強化魔法と詠唱破棄魔法、魔法高速発動魔法のおかげだ。

 ストレージへと姿を消すことで絶命の証を立てる大蛇のことは頭から消して、俺は独り、クラスメイトたちへ思いを馳せた。



 俺がチートを隠していたのは、あいつらに利用されないためだった。


 俺が逃げ出さなかったのは、あいつらが反省したら助けてあげたかったからだ。


 でもあいつらのクズぶりは異世界でも健在だった。


 なら、もう俺があいつらを気遣う必要はない。


 自分の中で修学旅行メンバーであり、歴代クラスメイトたちでもある連中のカテゴリーを【一応同校生】から【どうでもいいもの】に変えながら、俺はダンジョンの奥を目指した。


「……不思議なもんだ」


 その時、俺の胸の内にあったのは恵まれない人生への虚しさではなく、重荷を下ろしたような清々しさだった。



   ◆



「ここは?」


 ダンジョンは奥へ進むごとにモンスターの数とレベルが増えていたが、ある時を境に今度は数が減った。


 同時に、ダンジョンの内装が地下牢のような冷え冷えとしたものから、一流の宮廷のように煌びやかなものへと変わっていった。


 そうして俺が辿り着いたのは、お姫様の部屋然とした豪奢な部屋だった。

 いや、調度品や内装は素人の俺でも一目で一流のソレとわかる一方で、派手さはない。洗練された、上品な様相だ。


 豪奢ごうしゃというよりも、瀟洒しょうしゃと言うべきだろう。


「テーブルのカップの中は湿っていて底で紅茶の跡が三日月を描いている。さっきまでここに誰かいたのか?」


 テーブルには読みかけと思われる本が一冊。

 中身は騎士物語のようだ。

 広い部屋の一角には、俺よりも背の高い本棚が並んでいる。


 読み応え抜群の分厚いハードカバーの本から、旅先のお供にちょうどいい薄くて読みやすい文庫本まで多種多様な本がぎっしりと詰まっている。


 その品揃えが妙な生活感を醸し出し、ここに暮らすお姫様の日常を思い浮かべてしまう。


 けれど、この場には誰もいないようだ。

 気配察知魔法や探知魔法を使っても、生物の存在は確認できなかった。


「あっちが正門か?」


 俺が入ってきたのは部屋の角にしつらえられた片開きの小さな扉だった。

 一方で、視線の先には左右両開きで黄金のドアノブで飾られた紫檀製のドアが閉まっている。

 その先が気になり、俺はゆっくりとドアノブを回した。



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