ワールドマップ無双!辺境のハズレ領地に追放されたので国力を100倍にしてあげた
鏡銀鉢
第1話 追放先は雪国だけど平気です
「じゃあな道雪。オレ様は帝国で勝ち組ライフ送るからお前は外れ領地で捨てられないようせいぜい媚びを売るんだな!」
下卑た表情で俺を見下してくるのは、日本から一緒に異世界へ飛ばされたクラスメイトで勇者の
長身イケメンで、教室でも陽キャのいわゆる一軍生徒だ。
その隣に並ぶ三人も、それぞれ勝ち誇った顔で俺を蔑んでくる。
「僕は南の国でカカオやコーヒー、コショウやサトウキビの栽培で経済界に君臨するよ」
そうドヤ顔をするのは実家が金持ちで賢者の黒木。
「オレは東の国で石油王になるぜ!」
鼻息を荒くするのは運動部で剣聖の剣崎だ。
「あたしは西の宗教国家で生き女神として君臨するのよ!」
最後に、得意満面で期待に頬を染めているのが女子グループリーダーで聖女の天寺である。
そして俺、オタクでありこの異世界に飛ばされると同時に、錬金術師の力を神様から授かった
なのに、どうして俺がこんな扱いを受けているのか、それは数時間前にさかのぼる。
◆
人類最大の国家である帝国。
その皇城が謁見の間で、俺ら五人は皇帝の前に並び、功績をたたえられていた。
「勇者センバラ、そしてその仲間たちよ。よくぞ世界を救ってくれた。人類連合議長国の主権者として、心より礼を言う」
人類連合とは、魔王軍に対抗すべく大陸中の人間国家が結成した同盟だ。
地球でいうところの国連みたいなものらしい。
「まぁオレ様は勇者ですから、当然ですよ」
謙虚な姿勢を見せることなく、皇帝相手にデカイ態度を取る戦原は、まるで自分一人の功績であるかのように胸を張った。
日本でも教師相手にタメ口を使うような奴だったけれど、この異世界に来てから余計にひどくなった。
――まぁ、どこに行ってもチヤホヤされて逆らう奴はワンパンで殺せる腕力持っていたら、調子にも乗るか。
それは他の三人も同じで、独裁的で支配的な性格に磨きがかかっている。
「して、お主たちの今後についてだが、ひとつ頼みがある」
「なんだ? 次期皇帝になってくれとか?」
――んなわけないだろ。
戦原の馬鹿さに俺が呆れると、皇帝は頷いた。
「そうとも言えるな」
――はっ!?
俺が目を丸くする横で、戦原は上機嫌に口笛を吹いた。
「お主たちの活躍で魔王の脅威は去った。だが、世界は荒廃し、人々は戦禍の爪痕に苦しんでいる。そこでお主たちには今後、各地で復興と平和のシンボルとして生きて欲しいのだ」
実家が金持ちの黒木がぽつりとつぶやいた。
「天下り、悠々自適な役員生活、なるほどね」
言い方は悪いけど、間違ってはいない。
ようするに、今後は広告塔として生きて欲しいのだろう。悪くないと思う。
魔王よりも強い俺らは人間兵器も同じだ。
だから各地に散らして戦力を分散、かつ権力は与えずだがご機嫌を取れる名誉職に据えてうまく取り込む。
――前々から思っていたけど、この皇帝、デキるな。
魔王軍との戦いでも、皇帝は何度も鋭い頭脳を光らせ、集団戦で俺らを掩護してくれた。
世界のリーダー国代表はダテではない、ということか。
――ただ、ちょっとミーハーなのが玉に瑕なんだよなぁ。
いざとなると賢い反面、勇者神話に幻想を抱き過ぎていて俺ら、特に勇者である戦原に甘いのが、個人的には不安要素である。
その証拠に……。
「まず勇者殿には、我が娘の婿となり、皇太子の座に就いてもらいたい」
「マジで!? やっりぃ!」
不安は的中。
こんな自己中野郎が次期世界のリーダーになれば世も末だ。
俺は早くも、どこかの田舎で隠遁スローライフをする算段を始めた。
とにかくこいつら、主に戦原とは一刻も早く袂を分かちたい。
「他の任地は四つ。まずは東の砂漠地帯の王国群だが、国土の9割が砂漠で厳しい土地だが、川の近くはオアシス地帯が広がっている。特に派遣先の東議長国は豊かと聞いている」
またも、賢者の黒木の表情が反応した。
小声で「石油」と言った気がする。独り言が多いな。
「続けて、南の海洋国家群は一年中暑い南国地帯で、商業が盛んだ」
剣聖の剣崎が小声で「水着美女」と呟いた気がする。
――独り言ってブームなのか?
でも魔王討伐の旅で世界中を周ったけど、海洋国家は露出度の高い服装で漁をする女性たちが多く、目に毒だった。
「そして西は聖地を抱える宗教国家、教国へ赴いて欲しい。勇者一行は神の使い。この地で神の代理人として人々の信仰の象徴になって欲しいのだ」
聖女の天寺が、ニヤリとほくそえんだ。
何も言わずとも何を考えているかは手に取るように分かった。
――世界一豊かな帝国、作物豊かな王国、経済的に豊かな海洋国、神様同然に扱って貰える教国ってわけか。
どこも魅力的だけど、教国は聖女の天寺、帝国は皇帝お気に入りの戦原で決まりだろう。
そうなると、砂漠国家か海洋国家か。
と、俺が悩んでいると、皇帝が表情が曇らせた。
「それで、だな、うむ……最後の北方は、辺境国一国しかないので必然的にその地で暮らすことになるのだが」
皇帝と同じく、戦原たちの表情が硬くなった。
――辺境国、そういえば旅の途中で行ったな。
「あそこは極寒の地で作物は取れず、冬の間は雪のせいで交通と流通の便が悪く、海は上級モンスターがひしめき海運はままならず、これといった特産品もない。そもそもが500年前までは流刑地で民は現実主義的で信仰心は弱く、必然、勇者への信仰心も薄い」
「あたし! 西の教国へ行きます! だってあたし聖女だし、当然ですよね!」
食い気味に手を挙げて天寺が叫んだ。
「あ、ずるいぞ天寺、じゃあオレは――」
「剣崎は東の砂漠で石油王を目指したらどうだい? そうしたら僕の海洋国家が高値で流通させてあげるよ」
剣崎の言葉を遮るように黒木が提案すると、剣崎は素っ頓狂な声を上げた。
「石油王!? そっか、砂漠だもんな。よっしゃ、オレは東の砂漠国家の石油王になるぜ!」
「これで決まりだな。じゃあ北海、お前は辺境国頼んだぞ。錬金術で開拓してやれ」
「は?」
早くにまくしたててくる戦原の態度に、俺はイラ立った。
「何勝手に決めているんだよ。こういうのはちゃんと話し合って決めるもんだろ?」
「黙れよ底辺。お前に発言権とかあると思ってんのか? あん?」
「あるに決まって――」
「ていうかお前が勇者一行ってのがおかしいだろ」
俺が反論する前に、戦原は皇帝へ向き直った。
「皇帝。魔王を倒したのはオレ様たち四人でこいつ何もしてねぇんだよ」
「はぁ?」
俺はますます腹が立って、思わず眉をひそめてしまった。
「勇者のオレ様、剣聖の剣崎、賢者の黒木、聖女の天寺は魔王やその幹部相手にいっつも命がけで戦っているのに、こいつは錬金術師だからっていっつも隠れてばっかで戦いが終わってからのこのこ素材回収してるだけなんだぜ」
皇帝が顔をしかめる。
どうやら、戦原の言葉を信じているらしい。
「アホか! 俺だって錬成した魔法道具でサポートしていただろ!」
「あんなの誰だってできるだろ! ちょっとサポートしただけで自分も魔王を倒した立役者、みたいな顔すんじゃねぇよ図々しい!」
「じゃあ天寺だって回復や防御とかサポートじゃないか!」
「ひっどいーい! あたしの魔法を役立たず扱いした! あたし超傷ついたんだけど! あんた最低!」
「おい北海、天寺さんに謝りなよ」
「そうだぜ土下座しろ土下座!」
天寺の尻馬に乗って、黒木と剣崎も一緒になって俺を責め立てた。
なんだ?
なんなんだこの状況は?
勇者の戦原。
剣聖の剣崎。
賢者の黒木。
この三人がアタッカーで、聖女の天寺と錬金術師の俺がサポーター。
何もおかしくはない。
なのに、なんで天寺をサポーター扱いしたら侮辱したことになるんだ?
なんで俺だけが役立たず扱いなんだ?
皇帝は弁護してくれないし、他の貴族や将軍などの諸侯に至っては、俺に疑惑の眼差しすら向けてくる。
俺はサポーターとして魔王討伐の旅を支えてきた自負があった。
その間、戦原たちの態度は学校と同じで悪かったけれど、世間の人たちは俺を英雄と認めてくれていると思っていた。
なのに、戦原たちの支離滅裂な感情論を流されるほど脆い信頼関係だったのか。
その現実が辛くて、どうせ何を言っても無駄だという予感が、俺の口を堅くした。
「どうやら図星で何も言えないみたいだな。皇帝、こんな火事場泥棒に勇者面されたらたまったもんじゃないし、魔王はオレ様たち四人で倒したってことで頼むぜ。こいつは辺境国に追放だよ追放。流刑地とかこいつにぴったりじゃん」
「ふむ……」
憧れの勇者様である戦原の言葉に肯定はほいほい惑わされ、俺に冷たい視線を送ってきた。
「では錬金術師ミチユキ・キタミよ。お主には辺境国での復興作業を命じる。また、お主は魔王討伐の生き証人ではあるが、魔王を討伐したとは言い難い。己が魔王を討伐したと吹聴することを禁ずる」
頭から氷水をぶっかけられたように背筋が伸びて寒気が走った。
追放、という言葉こそ使わないものの、最後の一言はつまり魔王討伐の功績はく奪するということだ。
ゴミのような展開と現実に、俺は半ば自暴自棄になりかけた。
勝手にこの異世界に飛ばされて、戦原たちに冷遇されなから辛い旅を乗り越えて魔王を倒して、その末路がこれか?
結局、人間なんてものは日本でも異世界でも変わらない。
物事の成否なんてどうでもよくて、ただ、喋った人への好感度が事実認定されるのだ。
それが、全世界共通のことわりなのだ。
こうして俺は、北の辺境国へ追放されることが決まった。
夜に開かれた祝勝会では水も喉を通らなかった。
俺は表彰台にはあげてもらえず、隅っこから戦原たちを見上げるだけだった。
戦原たちは数日間、帝都にとどまり歓待を受けるらしいが、俺は翌日には辺境国へ旅立った。
これ以上、こんな場所にいたくなかったというのもあるけど、結果オーライだと思ったからだ。
考えても見れば、辺境の地ならわざわざ戦原たちも来ないだろう。
つまり、俺の望み通り、ようやくやっとついに、連中とは縁を切れたのだ。
これを喜ばずになんとしよう。
それに寒くて辛い辺境国とみんなは馬鹿にするけれど、俺はそうは思わない。
だって俺。
北海道民だし。
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