第7話 開催‼ 魔王軍族長会議
【魔王城 大広間】
俺は遊撃戦で上がった戦果を報告するため魔王のいる大広間を訪れていた。
「本日のガルフの帰還で遊撃隊のローテーションは3巡しました。私が率いる第1遊撃隊が3度、ズメイが率いる第2遊撃隊とガルフが率いる第3遊撃隊がそれぞれ2度、エルナーゼ王国補給隊との会敵に成功しています」
前置きを簡潔に述べると具体的な報告に入る。
「第1遊撃隊戦果報告」
「第1遊撃隊は3度攻撃に成功。エルナーゼ王国兵31名を討ち取り、17台の馬車を破壊しました。また41名を捕虜としています」
「第2遊撃隊戦果報告」
「第2遊撃隊は2度の攻撃に成功しました。エルナーゼ王国兵24名を討ち取り、10台の馬車を破壊しました。また12名を捕虜としています」
景気の良い報告が続く。
「第3遊撃隊戦果報告」
「第3遊撃隊も第2遊撃隊と同じく2度の攻撃に成功。エルナーゼ王国兵21名を討ち取り、12台の馬車を破壊しました。また捕虜の数は15名です」
「本当にそれほどの戦果があがったのか?」
身を乗り出して聞いていた魔王が問いかけてくる。
「遊撃戦の戦果は確実なものだけを集計しており、極めて実数に近いものになっています」
戦果集計は過大にならないよう、細心の注意を払った。
地球において敵の損失を過大評価した軍隊はろくな目にあっていない。
ミリオタのプライドにかけて同じ過ちを犯すことはできない。
「我が部下から確実な戦果報告をされる日が来るとは夢にも思わなかった。戦士たちの自己申告に任せていた時とは大違いだ」
魔王は笑みを浮かべると言葉を続ける。
「遊撃戦は軌道に乗っているようだな。タカアキ、本当によくやってくれた。何か褒美はいるか?我に可能な限りお前の望むものをやろう」
俺が望むもの、それは日本への帰還だ。
だが以前、
召喚した本人である魔王に頼んだところですぐに断られ、関係が悪化するだけだろう。
日本に帰るためには魔王軍の状況を改善し、俺がいなくても戦える組織に変える必要がある。
ならば、
「今後の魔王軍の方針を決定するため、各種族のリーダーを集めて族長会議を開くと聞きました。族長ではないが、俺を参加させて欲しい!それが私の望みです」
戦争において戦略的敗北を戦術で覆すことは出来ない。
魔王軍を勝たせ、日本に帰るためには戦略の立案に関わっていくしかない。
「まだ公表はしていなかったのだが…流石に耳が早いな。タカアキ、お前はすでに我の知恵袋だ。ぜひ参加してくれ。むしろ我から頼みたかったほどだ」
こうして俺の族長会議への参加が決定した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
族長会議の開催の知らせは瞬く間に魔王領中に広がった。
各種族のリーダーたちは数日で魔王城に来るだろう。
俺は魔王城城門前で剣術の訓練をしながら参加者を待っていた。
族長会議に出席するリーダーたちの内、レーナの父ラセツ、ゴブリン長老とは初対面になる。
会議が始まる前に一度話して、人となりを把握しておきたい。
しばらく剣を振るっていると声をかけられた。
「あなたが黒騎士様ですな。お噂はかねがね」
振り返るとの一人の男が立っていた。
背丈は人間の少年ぐらいだ。
「あなたは?」
「失礼、私はゴルド、ゴブリン長老と名乗った方が分かりやすいですかな」
ゴブリン長老と名乗った男の体を見る。
肌は同じ緑色だが、遊撃隊のゴブリンたちと比べて二回りは大きい。
それに鍛え上げられている。
「長老と呼ばれているが体つきは若いな」
「何、年をとってもまだまだ現役なのじゃ。かつてともに戦った仲間はずいぶん減ってしまったがの…」
過去を懐かしんだゴルドは姿勢を正すと、こちらに向き直り深々と頭を下げた。
「遊撃隊に参加したゴブリンたちが皆、黒騎士様を褒めて慕っておった。あなたはゴブリンたちにとてもよくしてくれておる」
「こちらこそいつもゴブリンたちの組織力には助けられている。族長会議ではよろしく頼む」
ゴブリンのチームワークがなければ第1遊撃隊は成り立たなかった。
感謝するのはこちらの方だ。
「ゴブリンに感謝するとは変わった奴じゃのう。族長会議で会うのが楽しみじゃ」
ゴルドは意外そうに俺を見ると、魔王城に向けて歩いていった。
長老と呼ばれていたが、ゴルドは若々しく、気さくな奴だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ゴルドとの会話から数日。
大広間には各種族のリーダーが集まっていた。
後はレーナの父ラセツと魔王の到着を待つだけだ。
慌ただしい足音が聞こえてくる。
次の瞬間、レーナが大広間に入って来た。
手には巻物を持っている。
「タカアキ、すまない。この手紙が城門前に置かれていた」
『リーダー就任の話は受けたが、コソコソと補給隊を狙う黒騎士の戦い方は気に食わない。よって黒騎士が出てくる会議に行く気はない。娘を代理として送る。 オーガ族長 ラセツ』
……。
力こそ正義な魔族だ。俺の戦術に反発するものもいるのだろう。
しかし、族長会議を提案したのは俺ではない。魔王だ。
「魔族は強いものに従うんじゃなかったのか?魔王様の要請を断るとかありえないだろう…」
俺はどれだけ嫌われたんだ?
「タカアキ、すまない。私は父ラセツの説得しようとライン川の戦いや遊撃戦でのタカアキの活躍について手紙で何度も伝えたんだ。だがその度に返事がそっけなくなって…最後はこんなものになってしまった。タカアキは本当に凄いのに父は分かってくれないんだ!」
レーナが褒めてくれるのは嬉しい。
だがラセツに対しては、逆効果になってないか?
この漫画超面白いぜ!と何度も勧められた漫画は逆に読みたくなくなる。
あの現象に近い気がする。
現実逃避気味に地球を懐かしんでいると、魔王の厳然とした声が響いた。
「レーナよ。族長会議は急な頼みだった。よってラセツを咎めるつもりはない。ただ一つお前に問いたい。この場ではお前の言葉をオーガの総意とみなす。その責が負えるか?」
魔王から魔を統べるものとしての覇気が漏れ出している。
小心者なら失神しているだろう。
「魔王様、父に対する寛大な処置、ありがとうございます。私は誇り高きオーガです。代理を任された以上、全力で役目を果たすのみです」
レーナの返答は簡潔だったが、彼女の目は決意に満ちている。
俺も気合を入れ直す。
これから始まる会議は魔王軍の行く末を、さらには俺の日本への帰還の是非すらも左右するものだ。
全力を尽くす必要がある。
「これより第一回魔王軍族長会議を開始する!」
魔王の宣言とともに、族長会議の幕が上がった。
【第一回魔王軍族長会議 出席者】
竜人族代表 ズメイ
人狼族代表 ガルフ
オーガ代表 レーナ
リザードマン代表 ダナソ
オーク共同代表 リキー・プトー
ゴブリン代表 ゴルド
魔王
タカアキ
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