第4話 人材育成
「我こそは人狼族最強の男、ガルフ!魔王様、ご命令を!どんな敵でも俺が倒して見せます!」
大広間にガルフの自信満々な声が響いた。
ガルフは砦攻めの報告の後、城で傷を癒していた。
まさかその後、魔王城警備隊指揮官になっていたとは思わなかった。
「タカアキ、次の遊撃隊出撃は数日後だろう?私は彼に部隊の指揮ができるとは思えんが、何か考えがあるのか」
魔王に平伏するガルフを横目に、ズメイが小声で問いかけてくる。
部隊の指揮において最も重要なのは状況判断だ。
敵味方の戦力や体勢を見極め、優勢なら攻撃し、劣勢なら撤退することが求められる。
しかし、ガルフは多くの魔物たちと同じように撤退を極端に嫌う。
これでは強力な敵に出会った時、彼の部隊は全滅してしまう。
ズメイの言う通り、今のガルフには遊撃隊を任せられない。
最悪の事態を避けるため、撤退への偏見をなくす訓練を行う必要があった。
「少しスパルタな訓練になるが、大丈夫だ。基本は教えられる」
5日、いや3日でガルフを単なる『強い兵士』から『遊撃隊指揮官』に変えてみせる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【魔王城 練兵場】
いつもは多くの魔物たちが鍛錬を積む練兵場。
その中にいるのはたった二人の実力者だけだった。
一人目はガルフ。
人狼族のリーダーであり、彼の身体能力は魔王軍の中でも屈指だ。
二人目はズメイ。
竜人族の彼は卓越した風魔法を操る。
両者の間では激しい戦いが繰り広げられていた。
「#風よ我が刃となれ__ウィンドカッター__#!」
ズメイの叫びとともに、大気を切り裂く刃が放たれる。
並の魔物ならそのまま真っ二つだ。
「甘いぞ、隙ありだ!」
風の刃を前にしてもガルフに動揺は一切ない。
彼は冷静に身体を倒し、魔法の斜線から逃れると地面を蹴り上げて跳躍。
ズメイの懐へもぐりこみ、拳を構える。
「敵援軍出現!」
まさに彼の拳がズメイを打ち抜く寸前、練兵場の外から叫び声が上がった。
「#我が身に力を__ブースト__#」
練兵場に黒騎士が現れる。
黒騎士はズメイに手間取るガルフの背後へと突撃した。
次の瞬間、ガルフは弾丸のような動きでズメイから距離を取る。
あっという間に数十メートルの距離が開いた。
「そこまで、ガルフよくやった!」
練兵場に#黒騎士__タカアキ__#の興奮した声が響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
練兵場で行う訓練の内容はとてもシンプルだ。
まず、ズメイとガルフが一騎打ちを行う。
二人の集中力が高まった勝負どころで俺が介入し、ガルフを攻撃する。
俺の攻撃がガルフをとらえれば訓練は失敗。
ガルフが俺を察知して撤退し、距離を取れば訓練は成功だ。
「撤退の判断ミスがなくなった。いい調子だ」
俺はガルフに声をかける。
「これで5回連続成功だ!どうだ!俺様はやはり最強だろう!」
ガルフの得意げな声が響く。
ここ数日、ガルフの訓練は予想以上に順調だった。
これなら遊撃隊を任せても大丈夫だろう。
「今日からガルフは正式に魔王軍第3遊撃隊部隊の隊長だ。人狼族を率いて人間たちをかき回せ」
「ああ、任せろ。人狼族に撤退を拒むやつがいたら俺がぶっ飛ばす。その代わり訓練前の約束は忘れるなよ」
ガルフの目がギラついている。
「ああ、アラル砦の人間たちに勝って魔王軍に余裕が出来たら、お前ともう一度決闘してやるさ」
本当は訓練に乗り気でなかったガルフのやる気を出させるための方便だったのだが…
約束は約束だ。
「負けっぱなしは性に合わねえからな!次は俺が勝つぜ!!」
俺の返事にガルフは歯を出して笑って練兵場を後にした。本当に戦いが好きな奴だ。
こうして魔王軍に新たな指揮官が誕生した。
ここから将として伸びていくかは彼次第だ。
「タカアキ、ガルフの育成が上手くいったのは良かったが、お前まで訓練に参加してよかったのか?青銅の開発が遅れるのはまずいぞ」
達成感に浸っているとズメイから声がかかる。
「大丈夫だ。空いた時間で必要な物資を手配している。残りのスズが届けば青銅作りを始められる」
次の瞬間、まるで俺の言葉を待っていたかのように伝令がやって来た。
「黒騎士様、ただいま魔王城工房前にご依頼の品が届きました!」
練兵場に伝令兵の声が響く。
魔王軍を支える人材は育てた。
次はエルナーゼ王国軍に対抗できる武器の開発だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます