Cat in world X

モリアミ

Cat in world X

 夢を見た。空から“ぶた”が降る夢を。寝る前に読んだ絵本のせいだ。だけど取り敢えずそれはどうでも良い。夢の中の世界は、絵本の世界見たいに平和では無い。はるか上空から降って来た豚は、地面と激突しグロテスクに変貌する。道端には、後頭部をピッタリと背中にくっつけ、力無く座り込む人が居る。他にも倒れ込む幾人かの人と、悲鳴をあげ走り去る人。路上を赤黒く染める血の割合は豚ときどき人。空を見上げると、まだ幾つか黒い影が見えた。だから私は豚にパラシュートを付けた。ゆっくりと血塗れの地面に降り立つ豚。その様は極めてシュール。そして覆い被さったパラシュートをかき分け、出て来た豚が私の顔見て一鳴き、可愛げの無いリアルな鳴き声で。全く嫌な夢だ。


 私、猫屋敷ペケは記憶喪失だ。でも、生活するのに支障が無いからそれはどうでも良い。だけど友達が、絵本とか読んだら小さいときの記憶とか思い出すかも、って半ば無理矢理押し付けて来た。寝る直前に読んだ私も私、おかげで変な夢を見てしまった。枕元のスマホで天気を確認する。予報は晴れ、特記事項は無し。ちょっと検索して見ても、これといった情報も無い。取り敢えず、友達にグループメッセージを送ろう。

 “今日はビニール🌂+↑👀歩く”


 教室に入って席に座るとすぐ、2人の人間が私を取り囲む。

「あんた何したの?」

「何か思い出した?」

 殆ど同時、息ピッタリ、そして片方が片方をキッと睨み付ける。

「千重、アンタの仕業ね、この子に何したの?」

「私はただオススメの絵本を紹介しただけ、そ・れ・で、何か思い出した?」

 もう、正直何も思い出したく無い、それにしゃべりたく無い、そんな気分だ。そしてブルーな気分に遅れて1人、跳び込んで来る。

「皆さんニュース見ました? 飛行機が空中で機体トラブル、空輸中の豚にパラシュートを付けて脱出、でもペケさん良く分かりましたね? 私、始めて知りました。豚さんって空輸してるんですね」

「ね、“偶然”沢山パラシュート積んでたんでしょ? 凄いよね」

 呑気なイロハと千重を見て、目の前のさとりは大きく溜め息をつき、私に目配せ。

「イロハ、あれは私のせいなの」

「ペケさん、豚さんを輸入してるんですか? 知りませんでした」

 頭痛がするのか頭を抑えるさとり、思わず吹き出す千重、そんな2人を見てキョトンとするイロハ。こんなこと一から十まで説明したくない。私はふて寝することにした。でも、変な夢には気を付けよう、どんなに荒唐無稽でも油断出来ない。事実は小説より奇なり? そんなことない、想像できることは起こりえること。ブタの次はタヌキ、いやキツネ? やっぱりネコかもしれない。だってこの世界はまだ、ネコが降る確立が0%では無いんだから。

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