第7話 旅立ち






「ミカエル、話というのは他でも無いオマエのこれからの事だ」


「オマエは人間だ、いつまでも魔界の奥地で暮らすわけにもいかない……だからオマエには旅に出てもらう」


旅……? ゾフィーさんと離ればなれになる……? 突然の事で頭が真っ白になる……ゾフィーさんがいなくなったら僕はまた一人に……。


「いいか? ミカエル、オマエは人間の事を何も知らない……だから世界を旅して色々な経験をしてこい」


「なに、寂しくなったらいつでも帰ってこい、オマエの居場所は無くならない」


「はい……でもやっぱりゾフィーさんと離れるのは寂しいです……」


「私もだ……だがこれからオマエが生きていくために必要な事だ」


「僕はいつから旅に出ればいいですか?」


「明日だ、実は私も用があって少しここを空けなくてはならない……事前に言っておけばよかったんだが急に決まってしまってな……」


「じゃあゾフィーさんと一緒に居れるのは今日だけなんですね……」


「そうなるな」


じゃあせめて……今日だけなら……勇気を出せミカエル! 言うんだ……“今日だけ一緒に寝てください”って……!


「あ……あの……」


「どうした? 言いたいことでもあるのか?」


「っきょ……今日ッ……今日だけ……一緒に……って……さい……」


「……? なんだ? もっとハッキリ言え」


「今日だけ一緒に寝てください!!」


言ってしまった……。


「…………」


無言の間が流れて顔に熱が集まっていくのを感じ始めたころ。


「フッ……」


「……っえ?」


「アッハッハッハッハッハッ!!! そうかそうか!! お前はまだ12歳だったな?」


「まだまだ甘えたい年頃だものな? クックック!」


”カァァ”っと更に顔に熱が集まっていき顔が真っ赤になったのを見かねたゾフィーさんは僕の頭を優しく撫でながら言った。


「分かったよ、なら早く身体を洗ってこい、なんなら一緒に入ってもいいが?」


「か、からかわないでください! ……体……洗ってきます……!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




そうして夜深く、月が傾き始めたころ静寂が支配する寝室に僕とゾフィーさんは寝ていた……するとゾフィーさんは僕に話しかけてくる。


「なぁ……ミカエル……不安か? 人に裏切られ捨てられたお前に一人で世界を旅しろというのは酷かもしれない……」


「だがな、オマエはまだ若い……この先の人生、一人で生きていくのは辛いだろう……だが人も魔族も色々いる」


「人の本質は醜いかもしれないが、中にはいい奴もいる……オマエにはそれを知ってもらいたい」


ゾフィーさんは語る……戦い方した教わらなかった僕に人間を教えてくれる。


何も持たない僕を“拾い”“育て”……そして今“成長”させてくれようとしている……。


「ゾフィーさん……ありがとう……僕……頑張ります……」


「辛くなったら帰ってこい……我が愛弟子……」


「スー、スー」


「寝たか……」


「私も寝るか……」





ーーーーーーーー・・・・・・・・・





ーーカチャカチャ


「よし……準備はできた……ではしばしの別れだな……元気でな……」


「スー、スー」


ーーーーーーーーーーーーーーーー



「う……ん……もう朝か……そうだ! ゾフィーさん!」


…………返事が無いって事はもう行っちゃったんだ……でも悲しんでばかりじゃいけない……! 僕も支度して旅の支度をしないと……。


ーーカサ……


「ん? なんだこれ……手紙? ゾフィーさんからだ」


“『我が最愛なる弟子へ


私は行く、旅に出るにあたりいくつか注意をしておく、オマエは知っているだろうが人間の中にはオマエを騙そうとする奴らもいる故、気を付けろ』”



”『旅をするならまずは魔界から一番遠い“リオグライトの街”へ行き冒険者登録をするといい、距離はあるが馬車でも雇ってゆっくりと向かえ』”



“『最後に私からの餞別だ私の剣をオマエ用に打ち直したものを置いて行く、気を付けて扱え』”



“『あとはオマエに”ブラックボックス”のマジックアイテムを渡しておく、それなら魔力が無いお前でも扱えるはずだ、ここの宝物庫にあったアイテムは全てそこに収納してある、宝物庫のアイテムは本当に危なくなった時だけ使え』”



“『では、行ってこい! オマエの更なる成長と健康を祈っている』”


ゾフィーさん……ありがとう……!




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




「よし……準備はできた! あとはリオグライトの街を目指すだけだ。」 

 

「半年だけしか居なかったけど、ここは自分の家みたいなものだし……なんか寂しいな……今までありがとう……行ってきます!」

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