第5話 絶望の淵にて
「“はぁ……本当なんだね……あーあ強いスキルを手に入れたアンタが私に裏切られた顔を見たかったのに……”」
「えっ……ア、アリス?」
「出来損ないの分際で私の名前を気軽に呼ばないでくれる? 気持ち悪い!」
ま、まさかアリスまで僕を……そんなはずない! あんなに優しいアリスがこんなこと言うなんてあるはずが無い!!!!!
「やぁ、アリス! 早かったな? もう始めちゃったのか?」
「アリスは堪え性がないからね」
「アンタたちが遅いからよ? 何してたの?」
「いや〜父上たちが祝いのパーティーを開いてくれてさ、中々離してくれなかったんだよね」
「父上も母上も今やっと寝たところ」
「バリス!? グエル!? どうしてここに……」
「そりゃ兄さんの絶望した顔を見るためだよ? アリスの本性はどうだった? なかなかエグかったでしょ?」
「ほ、本性って……違う……本当のアリスはもっと……」
「残念だったわね? これが自然体の私よ? アンタをからかうために猫被ってたってワケ」
「いい加減理解しなさい、それとも頭まで”無能”なのかしら? アッハハ!!」
「クックック!!」
「クスクス……」
じゃああの言葉も嘘だったのか……? 愛していると言ってくれたのも、僕に向かって微笑んでくれたのも…….?。
「ねぇ? アンタもしかしてまだ私の行動が本当だったと思ってるの? 馬鹿ねぇ? “あんなの嘘に決まってるじゃない”」
「実はね、兄さんこれは僕たちが兄さんを絶望させるために仕組んだことなんだよ? 流石にスキル無し魔力無しは予想外だったけど……」
「兄貴は知らないだろうけど兄貴がスキルを手に入れようと入れまいと同じことを今日するつもりだったんだよ?」
「そんな……」
嘘だ……嘘だ…………嘘だッ!!!!!!!
ーーダッダッダッ!!!!!!
「ちょっと兄さ〜ん?」
「放っておこうよ、あっちは魔界の方角だしもう会うこともないでしょ」
「そうだな! 父上も勝手に逃げたって思うだろう」
「それにしてもあの顔……傑作だったわね! クスクス」
「ああ! あんなに偉そうだった兄さんが走り去っていくのはたまらなかったな!」
「アリスに誘われた時の兄貴の浮かれ顔……笑いそうになっちゃったよ! もう俺と付き合ってるのも知らないで!!」
「言う前に行っちゃたのは残念だったな……まあいっかモンスターに食われて死ぬんだ……多少の情けはくれてやらないとな! ハッハッハッ!喰われて死ぬんだしな! ハッハッハッ!」
「そうね! あの顔を見て笑わずにいられたのを褒めて欲しいわよ? アッハハ!」
「そろそろ解散しますか、父上が部屋に来たら大変だしね……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんで? どうしてだ! どうしてみんなして僕に酷いことをするんだ……スキルが無いから?……魔力が無いから? アリスまで……僕を……ッ!!
「僕には……もう……何もない……」
ーーグルルルァァア!!!!!
「……グレイ・ドラゴン……?」
魔界でも上位の強さを持つモンスター……今の僕には勝てない強敵だ。
もう、いいかな? 今日だけで一生分苦しんだ……この状況で逃げても僕に明るい未来はない。
ーーキィィイィイ!!!
闇属性のエネルギーがドラゴンの口に溜まっていく……触れれば骨すら残らずに消滅してしまうであろう攻撃だ、今の僕にはそれが絶望ではなく救いに見えてしまった。
「ここで終わりか……生きたまま喰われるよりはまともな死に方かな? ハッハッ……」
ーーーーーーーーでもーーーーーーーー
ーーーーーーーやっぱり悔しいなーーーーーー
「ヒック……クソッ……今まで頑張ってきたのに……こんな終わり方なんて……」
ーーゴオッ!ギィィイィイ!!!
「嫌だ……まだ死にたくない……戦わなきゃ……!!」
グレイ・ドラゴンがブレスを溜めていくなか僕は木の棒を拾い上げ構える……このモンスターの強さを知っている者ならこの絵は滑稽に見えるだろう……。
「もう当たって砕けるしかない……!! せめて一撃でも! ハァッ!!」
僕はせめて一撃でもとドラゴンに向かい剣を上段に構えて突進したがその甘すぎる理想からドラゴンは一撃で僕を現実に戻した。
ーーヒュッ!!!
ーーバキバキ
「ゴッ!! ガハッ! ゴホッ!」
攻撃を察知したドラゴンはその発達した尻尾で僕を吹き飛ばし木に叩き付けた……マズイ……骨が……。
「ゴホッ! ゴホッ! ヒュー、ヒュー……!!」
ーーゴオッオォオオ!!!!!
ブレス!! マズイ身体が動かない……!! やっぱり僕はここで……。
ーーザンッ!!!
「なにやら騒がしいから来てみれば……人間の子供? グレイ・ドラゴンがこんな場所にいるのもおかしいがまさか人間とはな……」
ブレスを切った……? この人は? 魔界に人? あまりに一瞬のことで思考が追いつかない……。
「おい? 大丈夫か?」
「あ……なたは……?」
ーーグルルルァァア!!!
自分の獲物が横取りされたと思ったのかドラゴンは咆哮をあげ今にも襲い掛かりそうだ……早くこの人を遠ざけないと……!!。
「に……げて……くださ……い……僕のこと……は……いいです……から……」
「逃げろだと? まさか、この私に言っているのか?」
「にげ……て……」
「フッ、面白い人間だ……少し待っていろ……すぐに片付ける」
僕の意識はそこで途切れた……最後に見た光景は一撃で首を落とされるドラゴン。
被っていたフードが脱げ、あらわになった銀色の髪に褐色の肌……そして魔族にしか持ち得ない赤色の瞳だった。
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