第6話

   

 鈴木葵でプレイしながら、大谷直哉のセーブデータも時々チェックして、彼の毎日の行動を参考にする。

 なるべく同じように育成コマンドを入力したので、鈴木葵も一流大学の法学部へ進学できるよう、日々努力を続けていたのだが……。

 やはり男子と女子では必要な行動が違うらしい。大谷直哉と同じだと友達付き合いが足りなかったらしく「魅力」の数値が少しずつ下がっていく。

 どうせ大学受験には必要のないステータスだが、これを放置していたら、引きずられるようにして「気力」も低下し始めた。気分転換として「読書」「音楽」「休憩」を増やしても「魅力」「気力」の低下は止まらない。

 女子は男子より付き合いが大切なのだろうか。そう思って「遊ぶ(友人と)」を増やしたら裏目に出た。なぜか不良グループに取り込まれてしまったのだ。


「もしかして……。『魅力』が低い状態で遊ぶと、悪い友達が出来やすいシステムなのか?」

 今まで気にしていなかったが、よく見れば「魅力」と共に「モラル」も激しく低下していた。

 慌てて「遊ぶ(友人と)」を一切入力しないようにして、その分を全て「塾へ行く」に割り振ってみる。

 ところが、これも悪手だった。不良グループと縁が切れたのは良いが、既にそれ以外の友達はいない状態だったので、クラスの中で孤立してしまう。


 そうして高校一年が終わる頃……。

 あれだけ勉強を頑張ったはずなのに、鈴木葵の成績は真ん中より少し下。人間関係は最悪で、クラスではイジメの対象とされていた。


 とはいえ、しょせん鈴木葵はゲームのキャラクターに過ぎない。それよりも重要なのは、俺自身の現実だった。

 リアルタイムで進行するゲームなので、鈴木葵の高校一年が終わるということは、俺の大学四年目の終わりなのだが……。

 卒業に必要な単位を揃えられず、俺はもう一年大学に残ることが確定してしまう。

 卒業できない以上、小さな証券会社に決まっていた就職先も、内定取り消しだ。こうして俺は、一年留年という形で大学五年目を迎えるのだった。

   

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