第53話 後輩の深謀
―王都近郊(公爵視点)―
「もう長くは待てませんよ」
執事長はあえて冷たく言い放つ。だが、手は震えていた。私が冷徹になり切れないことを知っているから、側近の自分がそれをカバーしなくてはいけないと覚悟を固めているのだろう。執事長という職務の重さを優先する親友を、私は嬉しく思った。
「ああ、わかっている。大丈夫だ。アカネとオーラリアがうまくやってくれるさ。もうすぐ帰ってくるよ」
執事長は、若いころに息子を失っている。20年戦争の際に徴兵されて、激戦地だったノランディ地方で戦死したはずだ。だから、私の息子たちやアカネを実の子供のように思っていたはずだ。私情を優先するなら、執事長こそいくらでも待って、子供たちを出迎えたいと思うだろう。だが、手の震えを隠しながら、大局を優先する。実の息子が死んだ時もそうだった。私の政務の手伝いを優先させて、仕事を手伝ってくれた。
数時間ごとに、空き部屋で誰にも悟られないように
「まさか、オーラリアがここまで来ていたとは……」
思わずつぶやいた。完全に、息子の独断行為だ。公爵家の私兵を領地の境界線ギリギリに集合させているようだ。通常であれば、王国への反逆行為と取られる危険な挑発だが、こんな状況だから関係ない。もう情報局との戦端を開いたも同然だ。反逆の意思なんて隠す必要もない。むしろ、王族の
「父上っ!!」
ふたりは無事に合流ポイントに姿を現した。執事長はグッと握っていた手をほどいていた。付き合いが長くなければわからないだろう。安心した笑みをうっすら浮かべている。
「ふたりともよく無事に戻った。さあ、全員で公爵領に戻ろう」
無事に全員で脱出できる
しかし、ひとりだけ冷徹以上に頭を
「お待ちください、公爵閣下」
ナタリーは強い意志をこめてこちらに意見する。
「どうしたんだ、ナタリー? ここは危険だぞ」
「はい、確かに危険です。しかし、私たちが大人しく公爵領に帰るのでは、ありきたりすぎませんか?」
「どういうことですか、ナタリー様?」
執事長はいぶかしげにそう問う。
「私たちの当初の計画では、王都を脱出し、公爵領に戻った後、体勢を立て直し、何かが起きている……センパイが
「それは覚悟の上だろう?」
「いえ、違うのです。公爵様……そうではなく、私は、"チャンス"だと思うんです」
「チャンス?」
こちらが続きをうながすと、夜風がナタリーの短い髪を揺らした。
「はい、誰が考えても私たちは公爵領に帰って、
「……たしかに、軍隊の招集には時間がかかる。今は平時だから、地方も含めて総動員令を出すにしても、時間と混乱が生まれるでしょうな」
執事長は少女の意見に同意した。
「ナタリーは、内乱に向かって混乱している今の状態を逆に利用するという考えでいいのかな?」
オーラリアもすぐに意図に気づいたようだ。
「はい、まさか私たちが公爵領に戻らずに、ノランディに直接向かうなんて、誰も予想しないはずです。だから、あちらの守りや監視が弱まる今がチャンス。本格的な開戦をするにしても、向こうの準備はまだ時間がかかる。逆に、私たちは王国との敵対に備えて、事前に準備する余裕はありました。この時間的な利点を最大限、活用しましょう」
まるで、歴史上の大軍師のように不敵な笑みで少女は可愛らしく笑った。
「私たちは、ノランディ地方に直行し、センパイを……私たちの"グレア=ミザイル"を奪還するっ!! それが最善手です」
――――――
アカネ(公爵家メイド兼
公爵家メイド兼諜報員。執事長共に、公爵家において重要な役割を占める女性。公爵本人のボディーガードも兼ねており、本人の戦闘力は非常に高い。
もともとは、東大陸出身だが、奴隷として売られて、西の大陸へとやって来た。
中年のブーラン貴族に買われて幼少期を過ごした影響で、公爵家や家族同然のナタリー以外の貴族に嫌悪感に近い感情を持っている。
異国出身の奴隷ということで、差別を受けるマイノリティーでもあるが、自分を温かく迎えてくれる公爵家一家(ナタリー含む)や執事長に多大な恩義を感じている。
逆に、元・ブーラン貴族であり、自己保身に走りがちだったグレアの元婚約者であるソフィーのことは信用していなかった。逆に、ナタリーの淡い恋心には早い段階で気づいており、ひそかに応援していた。
(能力)左:現在/右:ポテンシャル
政治:74/80
武力:91/98
統率:65/81
魔力:0/0
知略:80/90
魅力:76
義理:92
(適正)
近接戦:S
騎:C
弓:A
魔:E
内政:B
外交:B
謀略:A
(特殊スキル)
・隠密行動
・東洋の血筋
・
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