追放公爵、ダンジョンを踏破する!~婚約者を寝取られて、死の迷宮に追放された公爵、魔物使いの才能を開花させて無双する~

D@11月1日、『人生逆転』発売中!

第1話 死の迷宮へ追放

 それは最悪の日だった。

 婚約者の裸体を初めて見た日。俺の人生は暗転した。


 そして、今、毒々しい緑色の化け物がこちらにゆっくりと近づいてきている。俺を捕食しようとゆっくりと……


 ほんの数日間だけで、人生は変わってしまった。


 ※


 趣味の乗馬で一人で森を駆けるのは楽しい。自然豊かな木々から、小鳥のさえずりが聞こえ、小川はキラキラと光っている。貴族社会のどす黒い喧騒が嘘のようだ。緑はまるで生きているかのようにこちらに微笑んでいた。


 俺はグレア=ミザイル。18歳。

 ミザイル公爵家の長男。ミザイル公爵家は、大陸の大国イブグランド王国の有力貴族だ。父上は優秀な政治家で、農務卿を務めている。


 俺ももうすぐ貴族学校を卒業して、いよいよ家を継ぐための準備に入るわけだな。まあ、正直に言えば、俺よりも3歳年下の弟のオーラリアの方が優秀だ。俺はよく「素直で明るいんだけど、政治家向きじゃない」とか「悪い人じゃないけど、貴族社会で生き残るには優しすぎる」とか言われている。


 オーラリアは、「兄貴はそこがいいんだよ。むしろ、神輿みこしになってくれればいいんだ。あとは、俺たちが盛り上げるから」なんて言ってくれている。正直、身内同士の中が悪くなりやすい貴族社会で、ここまで仲の良い兄弟関係になっているのは、弟が人格者だからだな。


 休憩にしようと、川の近くで馬から下りて、清流の水を口に含んだ。乾いた体の中に、清らかな水が満ちていく。


「あれ、センパイ、ひとりですか? 珍しいですね」

 後ろから聞きなれた声がする。振り返ると、黒髪の美少女が立っていた。

 元気に笑う彼女の胸元には、銀のペンダントが揺れている。


「ナタリーか。奇遇だな。実は、婚約者のソフィーと一緒に来る約束をしていたんだけど、急に予定が入ったとかでドタキャンされちゃって」

 ナタリーは子爵令嬢だが、ボーイッシュな雰囲気で女子からも人気がある1学年下の後輩だ。父親同士が仲が良いので、幼少期から妹のように俺に懐いていた。今日はどうやらひとりで乗馬の練習でもしているんだろう。


「へー、それはセンパイらしい感じですね。ソフィーさんとは順調ですか?」


「最近は、お互いに忙しくてあんまり会えてないんだよな」


「ソフィーさんはセンパイにもったいないくらいの才女だから手放したらダメですよ? ブーラン貴族でも人気あるんだから、大事にしないとすぐに浮気されちゃいますからね」

 そう聞くと、婚約者が俺でいいのかなと心配になる。でも、もったいないのは本当だよな。

 ブーラン貴族とは、いわば外様とざま貴族。このイブグランド王国は20年戦争という大きな戦争でブーラン王国に勝って領土を広げた。その影響もあって、ブーラン王国に由来する貴族は出自もあって中枢にはなかなか食い込めない。それに、イブグランド王国に元からいた貴族とあとから加わったブーラン王国出身の貴族は、派閥争いも絶えない。


 俺はイブグランド王国の名門。ソフィーはブーラン王国の名門令嬢。派閥対立の緩和になるのではないかと婚約を結んだ。


「ああ、ありがとう。注意するよ。今日は、ソフィーの誕生日だから、プレゼントの準備をしているんだ」


「それはいい心がけですね!」

 口調と裏腹にナタリーの顔は少し曇っていた。ソフィーとナタリーも古くからの付き合いで仲が良い。頼りにならない俺のことを心配しているんだろうな。


「じゃあ、今日はこれくらいにして! ソフィーは学校の寮の部屋で寝ているだろうから、ちょっと顔を出してくるよ、婚約者としてさ」


「そ、そうですね。それがいいと思います」

 俺はナタリーと別れて、学園に戻った。

 この行動が俺の破滅に繋がるなんて、思いもせずに……


 ※


 ソフィーの部屋は大貴族出身の令嬢ということを考慮されて、寮の中でも大きな部屋が用意されている。本来であれば、男女の寮の往来は禁止されているんだが、長い歴史の中でその規律は形骸化けいがいかしていた。


 いつものように俺は婚約者の部屋をノックした。

 返事がない。おかしいな、体調不良だから部屋でずっと寝ているはずなのに。


 心配になってもう一度ノックをして聞き耳を立てる。

 中からソフィーの苦しそうな声が聞こえてきた。


 まさか、倒れているのではないかと思い、慌ててドアノブを動かす。

 カギは開いていた。俺は勢いよくドアを全開にする。


 そこには……


 生まれたままの姿をさらしている婚約者のソフィーがいた。ピンク色の髪が俺の顔に驚いたことで宙を舞う。初めて見る婚約者の裸体は、絹のように美しい。


「グレア……どうして、ここに……」


 裸のままの婚約者だけだったら、着替えのタイミングで入ったと思って、慌ててドアを閉めただろう。でも、部屋の状況は残念ながら明らかにそうではなかった。彼女の可愛らしいベッドの上には、ばつの悪そうな顔をした一人の男が腰を下ろしていたのだから。


 金色のサラサラとした髪。女性と間違えてしまいそうになる美しい顔。長身の鍛え上げられた体。

 王太子殿下だった。


「悪いな、そういうことだ」

 彼は悪びれる様子は全くなく、ワインをデキャンタから注いで、まるで舞台の俳優のように優雅な姿勢でグラスを空にする。


「嘘だ」

 俺は何とか絞り出すように口を開いた。吐き気しかない。


「違うの、これはね……」

 愛おしいと思っていた婚約者の顔が悪魔のようにしか見えなくなる。


「おいおい、こんな状況で取り繕うなよ、ソフィー。ばれてしまったならしょうがないだろ。さっきまでの会話聞かせてやれよ。俺と一緒にグレアは馬鹿だと笑っていたじゃないか。女ってのは、本当に怖いね。婚約者との誕生日デートをすっぽかして、俺と密会しているんだもんな。でもな、グレア? わかるだろう。お前と俺を比べて、勝てるところがいくつあるんだ。ないよな。家柄・才能・財力……」

 王太子は、自分が浮気をしたにもかかわらずなぜか強気で俺の心を強打していく。


「やめてくれ……」


「どんなに大貴族と言われようとも、お前はしょせん臣下なんだよ。よくわかっただろう? ソフィーは俺の女だ。お前は潔く負けを認めて身を引きやがれ」


 手に持っていたはずの彼女への誕生日プレゼントはいつの間にか落下していた。王太子は、その箱を踏みにじる。ソフィーのために選んだアクセサリーは、砂のように飛び散った。それは、まるで俺の心のように思えた。なにかが壊れた瞬間。


 5年間ずっと婚約者だったはずのソフィーは、誕生日デートをすっぽかして俺に見せたこともない裸を王太子にさらしていた。


 それだけで、どうにもならないというのがよくわかる。半狂乱になりながら、すがるようにソフィーに向かおうとするも……


 間には王太子が入り、俺がソフィーに触ることすら拒絶する。そして、彼女が「あっ」と言った瞬間、俺の頬に強烈な痛みが走った。ただでさえ、吐き気をもよおしていた状態で、強烈な打撃を食らったせいで、俺は一瞬にして目の中に星が浮かび、意識を失った。


 ※


 グラグラと体が揺れている。ここはどこだ。手足を動かして、動こうとしても、強い力によってそれはできない。体が拘束具で固定されていたのだ。


「目が覚めたかな、グレア=ミザイル?」

 無機質な老人の声。情報局を統括するバランド局長が機械的に笑っている。王国の暗部を司っている老人がどうしてここに……


「何が起きているかわからないようだな。それもそうだろう。だが、罪人のキミに詳しく説明してやることもないはずだ。だから、端的に話すよ。お前は、王太子殿下に手を挙げた反逆者だ。よって、死の迷宮ラビリンスの地下2階に幽閉する。すでに、公爵家はお前のことを廃嫡にしている。逃げ場はないぞ」



――――

(作者)


読んでいただきありがとうございます! 作者のDと申します。

モットーは作品を完結させることです。マイページを見てもらえればわかると思いますが、完結率は自慢なので、こちらの作品も最後まで走り抜けようと思います。


評価や感想などをいただけると泣いて喜びます(笑)


では、最後までお付き合いくださいm(__)m

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