1.邂逅

「ハア、ハア、ハア」


 全力で走る。陸上部に所属してから2ヶ月、部活でもこんなに真剣に走った事があるだろうか。追われている。だが何に?あれは何だ?人?人にしては小さい。猿?猿にしては体毛が無い。


「なんで追いかけてくるんだよ!」


 後ろを振り返ることもなく大声で叫んだ。振り返ることはできない。気になるのだができない。恐怖。そう怖いのだ。圧倒的な存在感が後ろにある。

 追いつかれたら、死ぬ。そうわかってしまう。だから走る。全力で走り続けるしかないのだ。


 ほんの5分前。夕方の帰宅道。ふと気が付いたら音がしなかった。田舎とはいえこんなに静かなわけがない。大通りなのだ。さっきまでいた人は?道路に車は…、ある。だが止まっている。人が乗っていない。

 おかしいと思ったその時、道の先にアレはいたのだった。

 アレはダメなやつだ。本能的に感じ取り必死に逃げているが逃げ切れる気がしない。足がもつれた。もうだめだ。


 『助けてやろうか』


 突然頭の中に声が響いた。なんでもいい助けて欲しい。そう願った。


 『よしよし。なんでもいい…ね。タシカニウケタマワリマシタ』


 頭が痛い。足が止まる。次の瞬間何かに手を掴まれた。強い力で投げ飛ばされる。そして目の前にソレがいた。人型、小さい、でもその体は筋肉質で…、頭に角が生えていた。


 「グオオオオオ」


 その叫び声に身がすくむ。動くことができない。


 『まあまあ、小鬼だよそんなに怯えなさんな』


 鬼?アレは鬼なのか。それよりも目の前にいるんだ助けてくれるんじゃなかったのか!心の中で思いきり叫んだ。


 『助けたさ。あんな小鬼でも人間の体なんて紙屑みたいなもんだ。けどアンタ掴まれて投げられたのに怪我一つしてないだろ』


 確かに。どこも痛くない。でも人の体が紙屑同然?そんなことを言われて怯えるなって無理にもほどがある。


 『ハハハ。それよりアンタがしなきゃいけないことがある。天邪鬼様、この体を差し上げますのでどうかお救いください。と大声でいいな!』


 なにやら聞き捨てならない言葉であったが恐怖に負けて言ってしまった。


 「あいよ!!」


 自分の口から勝手に声がでる。勝手に体が動き出す。


 「まずはイッパーツ!」


 鬼を殴り飛ばしたところで意識が薄れていく。

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