落ちこぼれだと言われて廃嫡された嫡子、実は最強の固有魔法を持っていました~俺を廃嫡したせいで家が没落しそうなんて言われても知りませんよ~
斎藤 正
本編
帝国魔法学園
第1話 廃嫡されました
どうしてこうなってしまったのだろうか。俺の思考はその言葉だけで埋め尽くされていた。
俺は生まれてからずっと父親に言われるがままに努力を続けてきた。結果が伴っていなかったとはいえ、俺は自分の人生の全てをかけて、ずっとやってきた。結果が伴わない努力は努力とは言えないと、誰かが言っていた。だから俺は、自分のできる全てをかけてずっと努力を続けてきた。
「ライト、お前はなんと才能のない奴なのだ!」
「ま、待ってくださいお父様! もう少し……もう少しできっと!」
「黙れ! 子爵家の恥晒しが! お前に期待した私が馬鹿だった」
大きな屋敷に響く声で子供を𠮟りつけているのは、俺の実の父親だ。
リードラシュ王国、リースター子爵家の当主であり、俺の実の父親でもある「レント・リースター」は、魔法の才能がない俺のことをとことん嫌っている。その無能な息子が、自分が本当に愛していた死別した妻の忘れ形見であろうとも。
縋りつく様に父親の足にしがみつく俺は、きっとみっともない姿をしているだろう。子爵家の嫡子としては、それこそ恥晒しのような姿をしていることであろう。だが、それでも俺は父親に縋りついて許しを乞うことしかできない。
「貴様のことを息子などと思いたくもないわっ!」
「そんな……」
「ライト・リースター、お前をリースター子爵家から廃嫡とする! そして金輪際、この屋敷に帰ってくるな!」
廃嫡して屋敷に帰ってくるな。それは絶縁勧告なのだろうが、俺の頭では全く意味がわからなかった。俺はもう15歳だが、家も金もないまま外に放り出されれば、大人子供関係なく死んでしまう。
何も持たずに屋敷から追い出されたとしても、俺はそのまま道端で野垂れ死ぬことしかできない。
「お父様っ!?」
「黙れと言ったはずだ! 貴様に父親と呼ばれるのすら虫唾が走る! 誰か、そこの奴を摘まみだせ!」
「ま、待ってください!?」
「しつこいぞっ! 貴様のような奴はもう息子でもないと言ったはずだ!」
いつの間にか近寄ってきていた使用人たちが申し訳なさそうな顔をしながら、俺の身体を拘束する。全く意味がわからない。何で俺がこんな目に合わなくてはいけないんだ。俺に才能がないからなのか。余りにも理不尽で、余りにも残酷すぎる父親の判断に、俺の頭はずっと困惑したままだ。
「それはね、お兄様が弱いからだよ」
使用人に引きずられるようにして扉の前までやってきた俺に、弟であるエルスが残酷に告げる。ずっと仲のいい兄弟として生きていたはずのエルスが、俺に対して剥き出しの悪意を見せているという現実に、再び頭の中が真っ白に染まっていく。
「エル、ス? な、なにを言ってるんだよ……そ、そうだよ。お父様に、こんなことはやめるようにすぐ言ってくれ! 俺ではダメかもしれないけど、エルスの言葉ならきっと!」
お父様は俺より優秀な弟のことをすごく気に入っていた。だからエルスからお父様に言ってもらえば、俺の安全も保障されるかもしれない。もう嫡子ではいられないかもしれないけど、リースターの人間としてこの屋敷に残れるかもしれないんだ。
「固有魔法も使えないのに子爵家の嫡男なんて無理。さっさと消えろよ。リースター家は俺が継いでやるからさ! お前みたいな落ちこぼれは、屋敷には必要ないんだよっ!」
「ぶっ!?」
無様にも弟へと縋りつこうとした罰なのか、俺はエルスに鼻を思いきり蹴られて鼻血を噴き出した。
「うわきたねぇ……無能がうつりそうだな」
「え、るす……どう、して……」
「馬鹿だなぁ。まだ状況が理解できないのかよ」
そうか。
お父様もきっと、エルスの言葉に操られているに違いない。そうでなければ、昔はあんなに優しかったお父様が俺に対して、こんな酷い仕打ちをする訳がない。そうだと思わなければ、俺はこれから何を信じて生きて行けばいいんだ。
「おとう、さま」
「失せろ!」
「ぐぇっ!?」
階段の上で腕を組んだまま俺のことを冷たく見下ろしているお父様へと、縋りつく様に手を伸ばしても返ってきたのはリースターの権威の象徴。それはお父様がリースターの敵へと向けていつも放っていた、お父様の持つ圧倒的な固有魔法『衝撃』だった。衝撃を向けられたということは、俺は既にリースターの敵になっているのだろうか。もうなにもわからない。
見えない衝撃を全身に受けた俺は、使用人の拘束ごと玄関の扉を破壊して外に転がり出た。身体の全ての骨が骨折したのではないかと思うほど、身体が痛くて指一本動かすことができない。呼吸をするだけで痛みが身体に走って、まともに呼吸をすることもできない。
身体中が痛んで熱いのに、降っている雨がやけに冷たいように感じられる。
悶え苦しむこともできずに口から血を吐いて、地面を這うこともまともにできない。そんな俺を、屋敷の中から弟のエルスが笑っている。お父様はもう俺のことなど見てもいない。使用人は自分が同じ目にあいたくないから、目を逸らして誰も助けようとせず、お父様の命令通り俺を敷地の外に放り出そうとしている。まるで世界に取り残されて独りになってしまったようだ。
「あ……だれ、か……」
世界に取り残されたみたいなんて表現をしたけど、本当にあっているのかもしれない。だって俺は純粋なこの世界の人間でもないし、誰もが使える固有魔法を使えないんだから。
敷地の外、路地裏か何処かに放り出された身体がだんだんと冷たくなっている気がする。雨がどんどん強くなって、身体の熱が奪われている。もう痛いのか寒いのかもわからない。
こんな地獄をまた味わうと言うのならば、何故俺は生まれ変わりなどしてしまったんだ。なんで、こんな地獄を味わいながら、惨めに路地裏を這いつくばらなければならないんだ。
身体の感覚がどんどんと失われていく中、俺は世界を呪い続けていた。
「これは酷い……今、お助けいたしますぞ、お坊ちゃま」
俺の身体に降り注いでいた雨が、止んだ気がした。
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