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 新ママが声をかけたのはわたしで、新ママにはわたししか見えていなかったようだけど、わたしの後ろに立っていた小野さんはすべてを見ていたし聞いていた。

「あんなのハジメくんじゃないよ」

 そう断言されてわたしは本当にほっとして、また泣いてしまった。だって周りのみんながアレは兄さんだって言うから。殺されたハジメくんが帰って来たって言うから。わたしだけがおかしいんじゃないかってそう思っていて。

 パパだってあの変な人形にお酒を飲ませてにやにやしている。おかしいよ。パパはヤクザだけどあんなにおかしくなかった。パパはヤクザだけど、わたしやマリアママ、ハジメ兄さんや晶子おばさんには優しかった。それなのに変になっちゃった。新ママに出会ってからだ。

 新ママがパパと結婚して、家の中はガラッと変わった。マリアママが大事にしていた聖書とか十字架は全部燃やされたり捨てられたりして、わたしはマリアママにもらった黒檀のロザリオが絶対に見つからないように毎日持ち歩いている。でもたぶん新ママにはお見通し。朝とか、夕方とかに家で会うたびに、スナオちゃんそんなもの捨てた方がいいわよ、って言われるから。捨てないよ。これはマリアママがわたしを守るために置いて行ってくれたんだから。

 ハジメ兄さんの写真と一緒に飾っていた十字架も捨てられちゃったし、その写真自体も気がついたらどこかに消えてしまった。パパは何も言わないで、にやにやしている。

 ハジメ兄さんを殺した──裁判で少年院行きにならなかった人たちも、いつの間にかいなくなっていた。パパは5人の元少年(元少年って言い方変だよね)をパパの事務所で雇うって言い張って、拒否する人のことを部下にボコボコにさせたりして、5人を摂津の自宅で飼い殺しにしていた。5人には自由なんかなかった。汚れ仕事は全部5人の係だった。一度だけ逃げ出そうとした人もいたけれど、すぐに捕まってその人は両足の小指を切られた。でもその5人が5人ともいなくなった。パパは何も言わない。にやにやしてる。


 パパには新ママとハジメ兄さんしか見えていない。

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