第1章 翡翠と現世
つまらない毎日 1
ピピピ、ピピピ...
6時丁度に目覚ましが鳴り響き、私は眠りから目を覚ます。
目覚ましを止め、肩よりも少し長く伸びたストレートの髪を櫛でとかす。
「またあの夢だ」
夢の内容を思い出してうんざりする。最近はいい夢を見ない。やっと忘れられたと思った頃に見てしまう私のトラウマ。ずっと頭にこびり付いて離れない。
「なんでこんなにいい事が無いんだろう」
ベッドから降りて軽く背伸びをしてからカーテンを開ける。窓の外からチュンチュンとスズメの声が聞こえてくる。
「スズメは空が飛べて自由でいいな。私と変わってよ」
そんなことを考えても仕方ないのに。
スズメから見たら私はどんな風に見てえいるんだろうか。きっとつまんない人間に見えているに違いない。1度でいいから私以外の何かになってみたいものだ。
机に向かい寝る前に勉強したところの復習を30分間する。6時半になったら制服に着替えて1階のリビングに降りて朝食を摂るのが私のルーティーン。
「おはよう、翡翠」
母に言われて私もおはようと返す。母はキッチンに立って朝食の用意をしていた。
「お父さんもおはよう」
父は朝刊を読みながらおはようと返すとコーヒーを1口飲んで視線を朝刊に戻す。
朝食の用意ができテーブルの上にはトースト、目玉焼き、ベーコンが乗った皿とコーヒーがそれぞれの前に用意され、中央には自由にトーストに付けるためのイチゴジャムやバターが置かれている。
「いただきます」
私はトーストにイチゴジャムを塗って1口かじる。
実を言うと私は朝はパンでは無くてご飯が食べたいしみそ汁が飲みたい。それにコーヒーはそれほど好きでは無い。だけどそんなことを言ったらわざわざ忙しい中用意をしてくれる母に迷惑をかけてしまうため言えない。何よりも私に言う資格なんてない。ただでさえ迷惑をかけているんだから。ご飯を貰えるだけでも充分ありがたい。
食事中に会話をすることはほとんど無い。あるとしたら今日は何時に帰るとか雨降りそうだから傘を持っていった方がいいとか事務的な内容ばかりだ。
「ご馳走様」
私が半分食べた頃、先に父が朝食を済ますとすぐに家を出て仕事に行く。
父は弁護士をしていて私が小さい頃からいつも忙しそうに働いていた。小学校に上がる前に1度だけ仕事について聞いたことがある。確か、仕事は楽しいかどうかを聞いた気がする。すると父は「困っている人を助けたいんだ。楽しくないこともあるけどね、弁護士でよかったって思う事が多いんだよ」と幼稚な私に分かりやすく言ってくれたのを微かに覚えている。
「ご馳走様でした」
私と母が朝食を食べ終わる頃には時計は7時を回るところだった。
家は7時半頃に出るため私は部屋に戻って忘れ物はないかを確認する。
スマホの充電を確認しケーブルを抜く。ワイヤレスイヤホンを耳につけてスマホとBluetoothをペアリングし小音で音楽をかける。気分に合わせて今日は何を聞こうかと迷う時間が私の小さな楽しみだ。椅子に座りゆっくり音楽を聞いているといつの間にか20分が経っていた。イヤホンが髪で隠れていることを確認し、荷物を持って階段を降りて外に出る。
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