10.不穏
まずボクはキャサおばさん、シン様にあったことを伝えておばさんの元に飛んだ。
「そうかい、南では小鬼が狼牙をね…。小鬼は他の種族も襲ったらしいよ。だがその地を支配しているわけじゃないみたいだ。襲い、争い、去っていく。これは…」
おばさんがブツブツ呟いている。思案モードだ。相変わらず一歩も動いていないのに外の情報を知っている。流石だ。
「…魔王生誕」
おばさんがポツリと呟いた。その言葉はあまりに小さく聞き取れなかった。
「おばさん、今なんて言ったの?何かわかった?」
「いいや。なんでもないよ。それよりコウ、お前分裂したって話じゃないか。スライムの血でも混ざっていたのか。種族レベルは上がっているのかい?」
魔族は生まれた種族ごとに能力を授かる。成長するにつれ種族レベルが上がると新しい能力が身に付くことがあるらしい。
「吸血玉コウモリのままだよ。狼牙族になったときにたくさん小鬼を倒したんだけど、何も変わらなかった。変化しているときは経験にならないのかな」
思えばアリスさんの時に魔獣を倒したんだった。自慢じゃないがボクはこれまで何かと戦ったり、倒したことはない。なにかしら力がついてもおかしくないと思うが何も変わらなかった。変化に驚いてそっちの考えが抜けていた。
ちなみにスライムの血は流れていないと思う。ブニブニしてないし。
「そうかい。さすがのおねえさんもこれに関しちゃお手上げだね。さっぱりさ」
「おばさん…」
意を決しておばさんの体液を飲ませて貰えないか聞いてみた。まったく食欲が湧かないけど。
…すんなりいやだよと断られた。
「人間が来たり、小鬼が暴れたりなんだか最近今までにないこと尽くしだね。《森》は大丈夫?」
「ああ。獣達もさすがに学んだか《森》を避け始めた。小鬼達もお前と戦ってから近づいてはいないね。今は問題ない。…だが小鬼の起こした騒動はあちこちで影響がでている。人間達の方にも獣が行ったみたいだからね。あっちでもひと悶着あったみたいだ」
人間と魔族は常に争っている。最近は落ち着いているが。平和主義者のボクとしては今のまま静かに暮らしていたい。
「さて、どうなることやら」
おばさんが独り言ちた。
常に魔界の空を覆っている雲が今日はいつもよりも厚い気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます