5.奇跡の実

「おねえさん、アタおねえさん!」 


 やっとアタおばさんのところについた。


「おねえさんだよ。あれ、あってるじゃないか。どうしたんだい。そんなにあわてて。人族にいじめられでもしたのかい?」


 アタおばさんに、いままでのことを説明する。

 ガチャガチャな人族がたくさんいたこと。アリスさんのこと。血をすったら変身したこと。奇跡の実のこと。


「コウ。お前、夢でもみていたんじゃないのかい」


 アタおばさんは、あきれた目でこちらをみるが、僕が嘘をついていないことがわかると、真剣に考えこむ。


「簡単なのは、ガチャガチャしていたのは鎧。体を守る防具だ。人族の国で癒せない病ね。原因はどうせろくでもないことだろう。病を癒す、奇跡の実。この森にあってそんな効果がありそうなのはひとつしかない。お前が変身したのはそういう能力があったとしか言えないね」


 すらすらと答えをいうがまったくわからない。


「おばさんは奇跡の実を知っているの?」


「おねえさんだよ。ここでは奇跡の実なんて呼んではいないけどね。長の実のことだろう」


 魔の森の長、シン様。森の中心にいて、とても大きな魔樹で、とても強い。


「長の実って、あのまずいやつ?」


 シン様はある一定の期間で一つの実を付ける。それはシン様の子供ってわけではなく、森にある魔族には有害な存在をあつめたものらしい。実際に実ったら遠くに捨てにいかせている。

 前に、隠れてかじってみたらとても苦くておいしくなかった。


「あれを食べたのかい!どの程度の量を食べたのかしらないが、あれは魔族にとって毒だろうに。よく無事だったね」


(そ、そんなにあぶないものだったのか)


 おばさんの驚きかたから、その危険性がよくわかった。冷や汗がでる。これからはちゃんと聞いてから食べるようにしよう。


「そういえば、そろそろ実るんじゃなかったか。運の良いことだ」


「そうなんだ!シン様に聞いてみよう」 


 あわててシン様のところに飛んでいこうとしたら、おばさんに止められた。


「ちょっと、まちな。お前の変身についてだよ。変身した姿が人族の騎士というのが気になる。人族から血を吸い、人族に化ける。お前の種族、玉コウモリはレアすぎて情報がない。きっと種族の持つ能力だ」


(僕の種族の能力といわれても。人族をかんで人族に化ける。それはいったいどんな意味を持つ能力なのだろうか。そしてすぐ元に戻るんだから、まったく意味がわからないや)           

 

「同じ人族に化ければ、相手を動揺させることができるだろう。便利といえば便利なのではないかい。ただ、その為には先に血を吸う必要がある、という問題があるが」


 血を吸うための変身で、その為には血を吸う必要がある。矛盾していないだろうか。自分の種族ながらよく絶滅していないものである。


(いままでも、血をたくさん吸ってきたが変身したことはなかった。いくらおばさんでも間違ってるんじゃないかな)


 疑った目でおばさんを見ると動じないで答えた。


「すべては想像の域だ。これからいろいろ実験してみようじゃないか」


 おばさんは、楽しそうに笑った。知識欲を刺激したからだろう。


 すこし怖かったので、おばさんに別れを告げてシン様に会いに森の中心に向かった。


「シン様〜。実、ありますか〜?」


 大きな魔樹のシン様は閉じた目を開き答えてくれた。


「おう。コウか。そこに転がっているだろう。捨ててきてくれるのか?」


 シン様にこれまでのことを説明して実をもらえるか聞いてみた。


「ふうむ。人間が。まあ。かまわんよ」


 シン様は特に興味はなさそうだった。また、目を閉じてしまう。


 シン様にお礼を言って、実を足でつかんで飛び立つ。


 西に向かって、必死に飛んで神器を使ってアリスさんに会う。


(この実であっていたんだね。あんなに泣いて喜ばれたら、こっちも嬉しいな)


 アリスさんは何度もお礼を言って急いで人族の元へ行ってしまった。


 人族が森の外へと走っていく。行ってしまった。


(もう一回、血をもらおうと思ってたけど、言う隙がなかった、とほほ)


 血がもらえなかったのは残念だったが、病が治ることを祈り、空腹の体に力をいれて、ふらふらと飛び立った。


 そして気付く。


(あ、神器!返すのわすれちゃった)

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