第44話 気持ちを伝える
紫都香さんと遊園地に来た。世間はゴールデンウィークと夏休みという連休シーズンの間の時期である。つまり人はそれらの時期に比べて少ない。
俺は臨機応変に対応できるように様々なエスコートの仕方を考えていた。そして今日の締めくくり方についても脳内で何度もシミュレートしていた。
紫都香さんが『今日これは乗りたい』と言っていた軽めのジェットコースターに並ぶ。
若者にも、少し年配の人にも、小学生にも人気があり昼過ぎになると混んでしまうようなアトラクション。高さはあるが比較的スピードは緩い。何よりこのアトラクションの魅力は景色が良い所である。
「紫都香さんはこの後、乗りたいものとかありますか」
ジェットコースターに並んでいる列が動き出したので歩きながら話をする。
「シューティングゲームのアトラクションとか? あのアトラクション混みそうだから早めに行かないと乗れないかもだけど……」
「じゃあこのアトラクションの次に乗りに行きましょうか!!」
パーク内に入って来ている人の数はまだ多くはないのでこのジェットコースターを乗り終えてからでも混む前に乗る事が出来そうだと思った。
乗り場までの列に並んでいる間、列の周りにある装飾について話したりマップを見ながらどこに行きたいかなどを話していた。
乗り場に着いたので乗り物に乗る。今回は二人で来ていたので誰と乗るかという乗り方の話し合いなどはせずスムーズに乗り込み、出発した。
パーク内全体は見えないがこのジェットコースターの周りにあるアトラクションやショップ、通路は見渡すことが出来た。
紫都香さんとも話は出来るほど余裕はあるので『奇麗な景色ですね』と感想を言い合ってジェットコースターを楽しんだ。
ジェットコースターを降りてすぐにシューティングゲームのアトラクションの所へ向かった。
幸い、人の列は作られているが多くはないので並ぶことにした。
シューティングゲームは二人対戦でスコアを競うという仕様のものだった。……結果としては紫都香さんに惨敗だった。
「紫都香さん強すぎますよ、経験者ですか」
「ほんと? まあ数回来たことはあるけど……。わたしゲーム上手いかも?」
微笑み合いながら今度は何に乗るかをマップを見て探す。
――その後、数種類の乗り物に乗った後、昼食としてハンバーガーを食べた。
昼食も終わり、またアトラクションに乗ったり食べ物を買って食べたり満喫していた。
日も暮れ始め、帰る人も中にはちらほら出て来た頃。
「紫都香さん。観覧車に乗りませんか」
俺は自分の想いを伝えるべく紫都香さんを観覧車に誘った。
一番雰囲気を出せる場所はここだと思ったからだ。確かにあの温泉旅行の日の方が大人な恋愛という感じはあった。でも、俺はまだ自分の事が大人だと思えなかったし、この観覧車の一番上、夕日が密室を照らす時間帯に告白するのが一番だと思った。
「良いよ!」
未だ俺が何をするのか、もちろん知らない紫都香さんは快く返事をしてくれる。
乗り込んだ一つの個室は徐々に頂上に昇って行く。
やがて昇り切った時、遂に俺は口を開く。
「紫都香さん。あの温泉の日から随分と待たせてしまって申し訳ないです」
紫都香さんは最初何の事か分からなかった様子だったが、温泉旅行の話題が出たことで察したようだった。
「はい!」
「最初は紫都香さんとお近づきになれたらなという下心で家に連れ込みました。でも、紫都香さんの境遇、それから今日まで過ごしてきて、段々紫都香さんのことが好きになりました。こんな俺ですが、俺と付き合って下さい」
紫都香さんが口を開くまで観覧車が頂上で止まった気がした。
「……はい! 喜んで!!」
漸く観覧車は動き出した気がした。
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