第35話 兄の借金の担保として 2

 モニターに映る女の子を見て俺は質問をすることにした。


「どうしたの……? 何かあった?」


 俺の問いかけに少女は答えず黙っている。俺と少女がモニター越しに沈黙の空気を創り出していると少女の後ろから男の声がした。


『悠、この子がオレの大切な……妹だ』


 蓮が少女の隣に立つ。モニター越しに映るその兄妹。言われてみれば確かに似た顔立ちをしている。俺は二人と直接話すために玄関へ向かい、扉を開く。


「今日一日、オレの妹を預かって欲しい」


「よ、よろしくお願いします」


 蓮が俺に預ける大切なモノというのは蓮の妹だった。


「ちょっと待って、未成年をそんな……家で預かるっていうのはどうかと思うんだけど、色々な面で。そもそも歳はいくつ?」


 紫都香さんは動物でもなんでもわたしは良いよと言っていた……。

 しかし、女の子を預かるというのは紫都香さんは嫌がってしまうかもしれない。


 そもそも未成年を紫都香さんが帰ってくるまで親戚でもない、ただ一度助けたことがあるだけの赤の他人の元に二人きりにして置いておくという行為がダメだと思った。事実ダメだろう。


 小学生や中学生なら尚更ダメだと思って歳を聞く。女性に年齢を聞くなんて……とかいうのは今言っている場合ではない。


「中学三年……です」


 中学生を俺一人だけが家にいる今預かるのはダメだと思ったので俺はそれを聞いて断ろうとしたのだが……。



 結局、預かることになった。凄い強い意志で俺に預かって欲しいと兄妹揃って言ってきた、その圧に押し切られてしまった。


「お、お久しぶりです」


「久しぶりだね」


 家の中に妹を置いたまま出て行く蓮の姿を呆然と眺めながらまだ名も知らない彼女に名前を聞くことにした。


「名前はなんていうの? 苗字は分かるんだけど……」


「名前は、葵崎あおさきはなって言います」


 さてどうしたものか、名前は分かったが一日泊まることも確定してしまった。そもそもなぜあんなに預かってもらうことを押してきていたのだろうか……。


「俺の名前は……知ってるかな。一応自己紹介するね、上田悠です。よろしく」


 互いの自己紹介も済んだところで一先ず食事をすることに決めた。華が何を好きなのか分からないので二人で外食をする為に繁華街へ向かう。


 道中、華が好きな食べ物を聞いたり普段何をしているかを聞いたり、逆に聞かれたり互いを知る為に質問を交互にし合う。


 話の区切りがついた辺りで繁華街に出て来ることが出来た。


 俺は会話の中に出て来たお店を見つけたのでそこへ『行こう』と声を掛けて店の中に入った。俺はこの店の前に長ったらしい書かれていた店の名前を覚えることが出来なかった。華にも聞いたのだが数回聞いただけじゃ覚えることが出来ないと確信した。


 流石は中高生と言ったところだろうか、華が好きだと言っていたこの店は人が多く人気があるお店のようだった。


 腹八分目、十分お腹を満たして俺と華は店を出た。

 華が何か買いたいものは無いのかと尋ねたが『ない』と言われたのでそのまま真っ直ぐ帰宅する。


 紫都香さんは動物でもなんでも受け入れると言っていたが一旦連絡をしておいた。俺は華の趣味であるゲームを一緒にプレイすることに決める。

 幸い俺が華のいつもプレイしているゲームと同じものを持っていたので楽しく時間を潰すことが出来た。


 ゲームで遊んでいると玄関の方から音がする。紫都香さんだろうか、鍵を持っているのは俺か紫都香さんのどちらかでしかないので紫都香さんで間違いはないだろうが……。

 しかし、いつもより帰ってくる時間が早い。玄関からの足音は次第に大きくなってくる。


「悠くん!! ただいま!! ちょっと話があるんだけどこっちに来てくれないかな」


 息を切らしている様子で俺の事を呼びかける。俺は驚きながらも華に席を外すと伝えてから紫都香さんが洗面所に入った後に続いて俺も洗面所に入る。


「なんで女の子だったの?」


「それは……分からないです。大切なモノっていうのが妹だったから?」


 紫都香さんは詩たちが来た時の様にがっくりテンションを落としている。下がったテンションを上げて貰うためには安心させてあげないと……。


「紫都香さん、あの子は恋愛対象ではないですから。妹の様な、そう、有佐みたいな感じです!!」


 最後には仲が少しは近づいた有佐を例に出してみる。ここで俺の気持ちを伝えて安心させても良かったかもしれない。

 でも、もっと伝えるべき場所と時間が他にあるだろうと思い、ここでは言わなかった。


 洗面所を開けると華がゲーム機を置いてこちらを見て来ていた。


 華の目は潤んでいた。あくびでもしたのだろうか、そう思いながら華を見ているとそれに気づいたようで目の潤みについて華が話し出す。


「ごめんなさい……。目がちょっと、乾燥していて、目薬を、したんです」


 その後、夕食を食べたり、紫都香さんと華が一緒にお風呂に入ったり、俺が一人で紫都香さんと華が一緒の布団に寝たりしてその日を過ごした。


 翌朝、すぐに蓮が『華を迎えに来た』と言って家に来てお金を返して帰って行った。大学で返すという話だったが……。まぁあの時はモノが華という一人の少女だとは思っていなかったし。



 ――――


「そんなにつらかったか? 奪ってやるとか思わなかったのか」


 華は朝に迎えに来て欲しいと蓮にスマホで伝えていた。


「うん、だって紫都香さんって完璧で、お姉さんって所があって、私がどうやって頑張ってもあんな風にリードしたりできないだろうし……。仕方なかったんだよ。お兄ちゃん。私はあの人を運命の人だと思ってた、格好良く私を救ってくれた英雄であり私の王子様だって……。でも、実際は一般市民にも優しくする王子様だった」


「よし!!  お兄ちゃんが慰めてあげるからな!!」

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