第22話 二晩停滞する台風が上陸
すぐにその日はやって来る。
「紫都香さん、もう朝ですよ。休日ですけど流石に寝すぎるのは良くないですって」
朝9時頃、仕事の疲れが溜まってずっと寝続けたいという気持ちも分かるが寝すぎると逆に疲れが溜まってしまうので、そうはならない為に声を掛けたり揺らしたりして起こす。
紫都香さんの目が徐々に覚めるのを確認した俺は自分の分と紫都香さんの朝ご飯を作りにキッチンに行く。
俺は紫都香さんよりも早くに起きていたのだがお互い休みの日は一緒に食事を取りたかったので敢えて食べない様にしていた。
起きて来た紫都香さんは少し覚束ない足取りでキッチンにいる俺の方に向かって来る。
するとダイブの如く俺のお腹辺りに顔を埋め、手を背中に回して抱き着いて来る。これは紫都香さんと旅行から帰って来た次の日の朝から『キスっていう一歩先のステップに進んだから、もっとスキンシップを取っても良いよね』という紫都香さんの照れながらの提案によって始まった行為である。
俺も抱き着かれるのは満更でもないのでお腹辺りにある紫都香さん頭を毎度撫でる。
充電を満たした紫都香さんは顔を洗いに洗面所へ向かった。俺もそれに合わせて、作っていた料理をテーブルに置き、紫都香さんを待つ。
紫都香さんが洗面所から戻って来たところで朝食を食べ始める。
いつもなら他愛のなく予定について話し合っている所だ。しかし今日からゴールデンウィークが始まる。なのでさっき起きた所だがテンションはいつもより高めで話す。
大学は何日かはあるが休みもある、紫都香さんも休みを取ってくれているので何処かに出かけられそうだ。
あとサークル(仮)メンバーで何処かに出掛ける話もあったな。あれ、でもなんか大事になりそうな事が他にあったような……。
俺がゴールデンウィークについて考えていると家のインターフォンが鳴る。
朝から少し時間は経っていてもまだ午前中の朝、もし宅配でなければ本当に誰なんだろう、と気になりモニターを見て『はい』と返事をする。
『おにいちゃん!! 来たよ。詩が来たよ!!』
……すっかり詩が来ることを忘れていた。手紙が来た日から何の連絡もなしに突然来てしまった。
「なんで連絡なしに来るんだよ……」
非常にまずいことになった。お酒も結局、紫都香さんが仕事から帰って来て飲みたい時に飲めるように隠すのを辞めていた。
紫都香さんも顔を洗っただけでパジャマ。ドアを開けたら確実に部屋に乗り込んでくるのでむやみに開けるのは決してだめだ。
どうする……。まずは少し待っててと待たせてみるか。
『ちょっとだけ待ってて欲しい。すぐに中に入れるから』
返事も聞かず言い残して紫都香さんに伝えに行く。
「紫都香さん! あの、この前言っていた妹が今来たんですけど、パジャマをまず着替えて貰っても良いですか」
「え、あ分かった。すぐに着替えて来るね」
そう言って紫都香さんは着替えが置いてある部屋に向かう。
俺は出来る限り部屋を奇麗にして詩を迎える準備を整える。俺が部屋を軽く掃除して紫都香さんも着替えが終わったところで詩を家に招き入れる為に玄関を開けた。
開けると同時に詩が胸に飛び込んできたので思わず視線を下に向けて抱きしめる。
「いらっしゃい、詩」
「お兄ちゃん! 久しぶり。今日から2泊3日よろしくね!!」
え、一泊じゃないのか……。
「あと、私だけじゃなくて……」
詩が何かを紹介したい様する為に離れようとするので俺も詩を視線で追うように顔を上げる。
「じゃーーーん。私とお兄ちゃんの幼馴染の
有佐……。学校で髪を染めるのは禁止されているので黒髪。くりくり目をしている。俺がいつも甘えさせてしまうようになった原因である。顔も俺の両手に収まってしまうほど小さく色白。……そして、あの日から変わらないハーフアップの髪型。
昔、髪が伸びて有佐が自分のお母さんに髪型をハーフアップにしてもらった時の事。
――――
『有佐、その髪型似合ってる』
幼い故、俺は思った事をすぐに言ってしまう。
『ほ、ほんと!? 褒めてくれるの凄い嬉しい!!! ゆう兄にそう言ってもらえるんだったら私、ずっとこの髪型で居続けるね』
――――
「お兄ちゃん、久しぶり。ずっとずっとずぅーーと会いたかったよ。この一カ月と十日と三時間。会えへんくて、でも学年が一つ違うから高校もあるし住所も知らないから中々行けなかったんだ。でもこうやって詩ちゃんとゴールデンウィークに来れたんだ」
紫都香さんに未だ想い告げていない俺が一番今逢ってはいけない人に今日再開してしまったかもしれない。
詩はまだブラコンという謎の自称線引きラインで自重している。しかし、有佐はそのラインがない気がする。
何故かは分からないが有佐は昔から俺と逢う度、引っ付き倒して来ていた。それは高校になってからも変わる事がなかった。学年が違っても、周りに引いた目で見られてもお構いなし。
これをもしこの家で四六時中実行されてしまうと紫都香さんに呆れられて離れられてしまうのではないか、と不安になる。それは嫌だった。
紫都香さんには俺の側にいて欲しい。あの甘えた表情を別の男に見せて欲しくない。
あの露天風呂で紫都香さんの気持ちに、あの瞬間に答えずに保留にしてしまった理由が単に気持ちが無いからだと勘違いされたくない。
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