上京初日、新(同棲?)生活始まりました。でも修羅場が次々と訪れて平穏ではない
夏穂志
第1話 上京初日、女性を持ち帰る
今日は初めての見るものに目を奪われながら街中を散策していた。
電車に乗ってあちこちに訪れた。
賃貸の手続きは親同伴で既に済ませていたので今日は独り暮らし一日目を買い物、観光で目一杯楽しんだ。
時刻は遅くなり、太陽もすっかり沈んでしまった頃。遠くまで行ってしまった俺は電車に乗り自宅へ向かっていた。
電車の中に人はちらほらいるものの身構えていた常時満員という光景とは程遠く他の乗客と距離を取って座っても問題なく座れる。
これなら上京してきた自分でもすぐに馴染める。
これから始まる新生活にワクワクしている時、別名飲み屋街と呼ばれている街の駅に電車が停車した。俺が今日の昼にこの駅に降りた時は他の駅と比較するとヘンな人は多少いるが特筆して可笑しな街とは思わなかった。
――プシュー
扉が開きホームで待っていた人たちが電車内に入ってくる。主に大人それも二十代後半~三十代前半の男女が多いと感じた。顔を赤らめた人、ふらふらの人、目を瞑って友人らしき人に肩を借りながら乗ってくる人、様々な人が乗って来た。明らかにシラフの人間の方が少なかった。
空いていた席は次々に埋まっていく。それでもまだ空席はあった。
駅構内のアナウンスが鳴りそろそろ扉が閉まろうとした時、一人の女性が入って来た。急いで改札をくぐってギリギリ間に合ったのだろう彼女は膝に手をつき方で息をしている。乱れた長い髪を揺らしながら一直線に俺の隣に座ってくる。距離を取る気は微塵もないのかゼロ距離で引っ付いて来る。
「あ、あの~」
「んふふ~、えへへ、へへ」
俺が何かを発する前にコテンともたれかかってくる女性。コレ美人局とか自ら触れに行って冤罪を吹っ掛けるとかじゃないよね。怖くなった俺は再度改めて声を掛ける。
「あの、離れてくれませんかね」
「すぴー……」
「…………」
しかし俺の言葉は耳に届かず彼女は俺の肩にもたれながら眠ってしまった。
少しすれば起きるかと何も起こらないことを祈りながらいい匂いとアルコールが混ざった匂いの彼女の頭を肩に乗せたまま耐えた。
しかしながらハプニングとは起こらないでと祈るときに起こるもので電車の揺れにより彼女の頭の位置は肩から太ももの上に移動してしまった。仰向けになる彼女、目を瞑ったその姿と対面する。
少し口角の上がった潤んだ桜色の唇にスラッとした鼻そして瞳という名の宝を守るかのように瞑った瞼の上に長いまつ毛を兼ね備えた二十代中盤辺りかと思われる女性。
無防備な状態で俺にもたれる彼女の姿が俺の心をドキドキさせて来る。
気持ちよさそうに寝る彼女を無理に起こしたくはなかった。
周りを見渡してもシラフの人はスマホを触っており、またそれ以外の人はお酒で他人を気にするどころではなさそうである。
俺は独り、小動物の様にスヤスヤ膝の上に頭を預けて寝る彼女の頭を撫でたい欲求を我慢して降りる駅に着くまで耐えきった。
「すいません、起きてください。お姉さん、俺ここで降りますんで」
俺は自身が降りる駅に着いたので彼女を起こす。流石にこの時間帯で帰らずに彼女の為に乗り続けるなんてことは出来なかったので確実に起こしてヘンな人に連れて行かれないようにと少し激しめに揺らして彼女を起こした。
彼女はキリッとはしているが寝起きと言うことでどこか愛らしい目をパチパチさせる
「あれぇ、ここはどこですか?」
「ここはあの、学生の街と呼ばれている所だと思います」
今停車した駅のあるこの街は俺の通うことになっている大学を中心に構成しているようなものなので最近の人たちの間では市の名前よりも学生の街という名前で浸透しているというのを賃貸物件を探していた時にお店の人に聞いた。
「お姉さん奇麗なんですからこんな風にすぐに男の人にもたれかかったりしちゃだめですよ」
彼女の頭を太ももから上げながら忠告する。
お姉さんの頭を太ももで堪能した人間が言える立場ではないとは思いつつもヘンな人にこのようなことはして欲しくは無いと他人ながらに思ったので言っておく。
「わたしもここで降りるから離れないでっ」
立ち上がろうとすると彼女は腕をつかんできた。さっきまでの眠そうな目はどこへやら愛くるしい目ではあるもののさっきとは違いウルウルした子犬の様に上目遣いで見て来る。
電車内でこんな掛け合いをしていては扉が閉まると思い、恋人の別れのようなシーンをぶち壊すかのように電車からホームへ出た。
「このまま、あなたの家に連れてって……」
ホームに降りるや否や抱き着いてきた。こんな美人な人に抱き着かれるのは当然嫌ではなかった。しかし怖くもあるのは否めない。名前も知らない人なのだから当たり前である。
「いや、その、それはどうかと思いますけど……」
俺は怖いし彼女は知らない男の家に行くことになってしまうし、お互いの為に同じ家に帰ってしまうのはマズいと思いつつウルウルした目の彼女を傷つけてはならないと思いやんわり断ろうとする。
「もう、離れたくないよ……おいて……行かないで」
ヒステリックになってしまったのか彼女は駅のホームでポロポロと大きい雨粒のような涙を流した。声も出さず啜り泣く彼女の頬をつたり涙の雫が地面に滴り落ちる。
なぜこんなに泣いているのか俺には分からなかった。お酒を飲むとこうなってしまうのだろうか。俺は実家の両親を思い返すが二人とも爆睡するだけでヒステリックになっていたようには思わなかった。
「いや、離れないで!! あなたの家に連れて行ってください」
「…………分かりました」
がっちりホールドしながら涙を流す彼女を見て俺は渋々彼女を家に連れて帰るのを決めた。
交番に届けるべきなのは分かっていたのだが彼女がここまで俺に執着する理由が知りたかった。それにまだ実家から重要な荷物も届いていないし、今家にもロクなものが置いていないので何かを盗まれることもないだろうし何とかなるだろうと軽く考えてしまった。
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