ダンジョン探索者の出会い

柊オレオン

一人の探索者

突如として現れた聳え立つ塔は世界すべての人々の目に止まった。

 その塔は『ダンジョン』と呼ばれ、黄金の探索者シーカーの時代が訪れた。


「稼がないとー」


 俺の名前は柊日向ひいらぎひゅうが

 今年高校に進学した見習い探索者。

 今の時代、高校生になると同時に探索者になるのは当たり前。

 人々の大多数が探索者として稼ぎをしている。

 いわゆる小銭稼ぎに近いかもしれない。

 歳にして15歳を迎えると探索者認定シーカーライセンスを取得でき、そのライセンスで『ダンジョン』にもぐることができる。

 探索者認定の取得はそこまで難しくない。

 適正検査をサラッとやるだけで取得できる。

 そう、スキルのない俺でも取得できるのだから。


「はぁはぁはぁはぁ」


 暗い洞窟の中、俺はがむしゃらに走る。

 後ろから聞こえてくる足音。


「こっちにきやがれぇ!」


 強がり丸出しな声が洞窟内で響き渡る。

後ろをちらっと覗くと、右手に西洋風の剣を携え、頭には甲冑をかぶっている。


「ぎゃぎゃぎゃぁぁ!!」


 コボルトだ。

 数は3匹、なりたての探索者でも、問題なく倒せる魔物だ。

 そう、俺を除いて。

 しばらく、コボルトから逃げ回ると、俺は足を止めて、コボルトに正面を向ける。

 すると、コボルトも足を止めた。

 きっと、罠を疑ったのだろう。


「そう簡単にはうまくいかないよな」


 コボルトは足場を気にしながら、こちらに近づいてくる。

 ちっ、罠を警戒するとか、頭がいいことで。

 するとコボルトが不自然なでこぼこした地面に気づくと、こちらを見ながら、醜悪な表情を浮かべた。


「ぎゃははぁぁぁぁ」


 突如として、叫びながら、不自然な地面をよけて、俺に向かって走り出した。

 すると。 


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 スッとコボルト3匹の姿が消えた。


「引っかかったな。あんなわかりやすい罠を張るわけないだろ!」


 俺はわざと不自然に用意した罠を作り、逆の道に誘導。

 誘導した道に本命の落とし穴という誰でも作れる画期的な罠を張ったわけだ。


「このまま順調なら今年の学費は払えそうだな」


 俺がなぜ、誰でも簡単に倒せるコボルトに苦戦しているのか、それは俺がスキル『なし』だからだ。

 そもそも、俺が探索者をやっている理由は単純で、お金がないから。

 探索者っていうのはそもそも、命にかかわる仕事柄、高校生で探索者認定を取得できても大体が遊び半分で行く生徒が多い。

 もちろん、命にかかわるので、遊び半分で行くのはどうかと思うけど、そう思ってダンジョンにもぐってしまうのには理由がきちんとある。

 それがスキルという超人的な力だ。

 スキルは一人につき、一つまでが常識。

 これで分かったと思うけど、スキルという力はコボルトなんて簡単に倒せてしまうわけだ。

 なんなら、ダンジョンの5層までだったら、スキルを鍛えなくても、戦えてしまう。

 今の世の中は、どれだけ強力なスキルを持っているかで、決まる縦社会なのだ

 そんな世界の中で俺は。


「スキル『なし』……」


 スキルは探索者認定を受けると同時に受け取ることができるのが普通だ。

 だけど、その時俺は受け取ることができなかった。

 本来なら。有り得ない。

 なぜなら、今までスキルが貰えないという前例がなかったからだ。


「本当に世の中理不尽だよな」


 でも、スキルがないからと言ってクヨクヨしている場合ではない。

 俺にはお金が必要だった。

 高校に通うとための学費に妹の学費。

 だから、俺は今、探索者をしている。

 スキルがないなら、ないなりに頭を使って戦うしかない。


「おっ!今日の魔石は大きいな。高く売れそう」


 魔物は魔石という輝かしい宝石を落とす。

それはもうめちゃくちゃに高く売れる。

 大体相場だとコボルトで5万から10万ぐらいだ。

 この金額は学生からしたら、かなりの金額だし、高レベルの探索者にでもなれば、魔物も強くそして、希少価値の高い魔石を落とす確率が高い。

 もうわかるだろうけど、一度探索者として成功すれば、人生働かなくても、生きていけるお金を稼げてしまうのだ。

 これがまた、夢があるというもの。

 まぁ、スキルのない俺には関係のない話だが。


「よし、これで全部だな」


 落とし穴に落ちたコボルトの魔石を回収した俺は、ダンジョンの出口へと向かう。

 ここはまだダンジョンの1層、いわゆる初心者が来る探索者の通り道。

 この区域に生息している魔物は主にコボルト、たまにジャイアントコボルトが出現するらしいが、その確率は極めて低い。


「コボルトの魔石でこれだけ稼げるんだ。本当に探索者って儲けれる仕事だよな。俺ももし、スキルを持っていたら……なんてな」


 そんな、もしもなんて言葉を連ねていると、『ドンっ!!』と足につく地面が揺れた。


「なっ、なんだ!?」


 とても大きな足音、その音の分厚さから、かなり大きな魔物だと、容易に推測できる。

 目先の奥、影で見えない部分から、うっすらと、足が見えた。


「あ、あ……う、うそでしょ」


 全長は4メートル以上あり、右手には大きな棍棒を持つ、1層の中でもっとも強い魔物、ジャイアントコボルトだ。


「ぎゃごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 なんて、圧だ。

 叫び声だけで、腰が抜けそうになる。

 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなぎゃ。

 それで頭がいっぱいになる。

 すぐさまに、走り出すが、追いかけて来る様子はない。

 不自然だ。

 嫌な予感がする。


「ぐるるるるるる」


 牙を剝き出す前のような表情。

 体が震えあがる悪寒は今すぐに逃げろと叫んでいる。


「え?」


 ジャイアントコボルトの姿勢。


 それは追いかけるではなく、投擲。


「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 大きな棍棒が猛スピードで俺に向けて投げれた。

 それは、直感的によけられない速さだと分かる。

 考える時間すら与えない。

 棍棒はコンマ数秒で俺の元までたどり着く。

 が、気のせいかもしれない。

 一瞬、風が通り過ぎたなんて。

 棍棒が一刀両断されるのを目の前で見た。

 そして目を一回見開くと、次に視界に映ったのは、ジャイアントコボルトの胴体が両断されている姿。

 俺は、何が起きたとのか、理解することが出来なかった。

 腰が抜け、地面に尻餅をつくと、ほっとしたのかそのまま、倒れこむ。


「はははは」


 腑抜けた笑い声しか出なかった。

 生きている。

 その実感が、体の体温の熱で感じる。

 「トントントントン」と軽い足音。


「だ、大丈夫ですか?」


 視界に絶世の美女だけが飛び込んでくる。

 学生服を着た細身の体。

 右手に持つレイピアの先端には血が滴っている。

 銀のように輝く腰まで伸びた銀髪は、女神を思わせた。

 俺を覗く瞳の色は銀色と灰色が混じりあったような色。


「あ……」


 銀髪をなびかせ、右手に持つ冷たい冷気を漂わせるレイピアをもつ探索者。

 最少年でレベル・6に到達した探索者。

【冷徹】神城由紀かみじょうゆき


「き、聞こえてますか?」


 呆然としてしまう。

 彼女の剣技、それは美しく、まるで一人静かに舞うお姫様のようだった。

 この気持ちは何だろう。

 そう自分に問いかける。

 しかし、答えは返ってこない。

 けど、胸の心音が異常なまでに高鳴っているのが分かる。

 この気持ちをどう表せばいいのか、分からない。

 駆け巡る思考の末に、辿り着いた結論。

 それは。

 

 『すげぇ』

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ダンジョン探索者の出会い 柊オレオン @Megumen

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