第19話 勇者SIDE 此奴ら要らない
「もう嫌だ、なんでこんな面倒くさい事しなくちゃならないのよ」
「仕方ないだろう、ミルカ? 誰かがやらなければならないんだから。平等に当番制にしたんだから文句言うなよ!」
「ハァ~解っているけど、凄く疲れているのに宿の確保に、備品のチェックにお風呂の準備、それが終わったら、少し休んで報告書を数枚書いてギルド経由で各種機関に提出…文句位言いたくなるわよ」
「ミルカ、予算申請書を忘れているわ」
「解っているわよ。誰かさんのせいで、予算が無くなって困ったもんね」
「だから、それは謝ったじゃん。あまりグチグチ言わないでくれるかな?」
「あーもう煩い」
◆◆◆
リヒトが書いてくれた『楽しい冒険者のしおり』があるから、やるべき事は解る。
だが、その内容は凄く面倒くさい。
これを全部リヒトがやっていた。
そう考えたら、彼奴は雑用のプロフェッショナルだった。
これじゃ、追放じゃなく『解放』だ。
円満に出て行くはずだ。
冒険者ギルドを介して誰かに丸投げしようと思ったが、無理だった。
実際に出来るかどうかと言えば可能だが、いちいち報告をし書類にするだけ。
『一緒に行動していない以上それが限界だった』
それならとパーティメンバーを募集しようとギルドに相談したがかなり難しそうだった。
『A級レベルで何年も一緒に旅をする人間、そしてリヒト様ほど多才な人間はまずいません』
だと。
リヒトの『楽しい冒険者のしおり』を見て見たら、彼奴はこの事も見越していたのか対処法が書いてあった。
メンバーに困ったら
1. 奴隷を買う
但しこの場合は『勇者パーティ』としての世間体は悪くなるので必ず中年の男か醜い人物を買う事。見目麗しい女性や男性だと醜聞がたち、将来の婚姻に問題をきす場合がある。
2. 教会や国などから派遣してもらう
王国からは騎士、聖教国からはヒーラー等の派遣をして貰う事は可能だが、国へ報告される事が多くなる。特に聖教国からの派遣は優秀な者の派遣が期待できるが。祭事事やマナーに煩いから注意だ。
この二つだった。
1は却下するしかない。
リヒトを追放したのに今更むさいジジイやババアをいれたく無いし、醜い奴なんていれたら俺のパーティの見目が悪くなる。
それに…どう考えてもA級クラスの人間がそう簡単に売られているとは思えないし、売られていても多分高額だ。
2はフリージアが拒否した。
聖女の修行の時にかなり細かい事を言われたようで『確かに便利になりますが自由がなくなります』という事だった。
話を聞けばどう考えても楽しそうにない。
結局、俺達は当分の間、仲間達で手分けして雑用をする様になったんだが…これだ。
◆◆◆
「ミルカ、俺も含む交代制の当番制だ文句言うなよ!」
「それは解っているけどさぁ、賢者の私でも面倒くさい書類が多いんだよ。私だけ他の皆の時に手直しが必要かチェックしているから気が休まらない」
「悪い」
「やっぱりリヒトを手放したのは地味に痛いわ」
「フリージア、今更だ」
「それは解っているわ。だけど、将来私達が権力や栄光を手にするなら、そこから褒賞を与えれば良かったの…例えば、私なら無事旅が終わったら教会に話をし『シスターとの縁談』とかね」
「だから、今更だ。あの時誰も思いつかないかったんだ仕方ないだろう! 俺だって将来王族との婚姻や上位貴族が決まっているなら、下位貴族、男爵あたりの爵位や貴族娘との縁談。王宮騎士の推薦幾らでもあったよ」
「そうだな」
「なにか褒賞を考えれば良かったんだよね」
いや、これは違う。
俺達は『追い出したかった』んだから、そんな事考えるわけが無い。
俺には将来『王族との婚姻』の可能性が待っている。
そう考えたら『戦闘以外、此奴ら要らない』
あの日、リヒトを追放した時からそう思うようになった。
多分、此奴らももう側室になる気は無いだろう。
案外、必要だったのは『リヒト』だったのかも知れないな。
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