第18話 レイラ…心の旅



「お前は何者だ…」


得体の知れない男が目の前に突如現れた。


賢者ジャミルと聖女リリアが飛び出した。


相変わらず功名心が強いわね。


だけど、この辺りに居る魔族なら、二人が負けることは無いわ。


また、今日も帰ってから二人にマウント取られるのか…ハァ。


「アンタら勇者パーティですね? 名前は名乗りません。ただの魔族です」


「ふっ生意気な、魔族なら死ね。僕の呪文で焼け死ぬが良い!灼熱バースト」


賢者ジャミルが放つ最強呪文。


それを受けて傷ひとつなくその魔族は立っていた。


「不味いです。ジャミル様!」


「無傷だと!不味いな、此処は逃げるしかない。リリア逃げるぞ」


「はい!」


「駄目、ジャミル、リリア、相手に背を向けたら…」


「煩い、レイラ、お前は勇者だが平民だろう? 僕を助けろ!」


「そうよ、貴族のジャミル様の命は貴方達と価値が違うわ」


賢者ジャミルに聖女リリアが敵に背を向けて逃げようとしていた。


不味い、このままじゃ追いつかれる。


「仕方が無いよレイラ!ジャミルは公爵家の人間だから、行くよ!」


「そうね、飛び込むしかないわ、時間を稼いだら私達も逃げるわよ!」


「了解した」


ジャミルとリリアにまさに魔族が追いつくその瞬間、間一髪、私と剣聖ソーダスが斬り込みに入ったが…


「ああっ…あああああぁぁぁぁぁっ、嘘だわぁぁぁ」


ぴちゃぴちゃ…


ドサッ。


私の横に剣聖ソーダスの首がふってきた。


「ソーダスー―――っ!」


「嫌だ嫌だ、僕は死にたくないんだー――っ」


「えっ…ジャミル様」


「お前が盾になれよー――っ」


私の横を魔族が走り抜けていった。


この私が反応すら出来ないなんて…


「そんな、ジャミル様ぁぁぁぁぁー――っ」


「くふふふっ、人間なんて盾にしても無駄ですよ」



そんな。


目の前に上下に真っ二つになった二人の死体が転がってきた。


「これが勇者の奥義…」


「遅い…」


私の右足が…


「おのれー-っ」


「だから、遅いよ…剣を持っている方の腕は残したけど? もう戦えないだろう? 死にたく無ければ逃げるんだな…」


「ハァハァハァ」


今の私にはもう戦う事は無理だ。

動く事も出来ない。


「何が勇者だ…ダダのゴミだな…もう殺す気にもならねー頑張って生きるんだな」


私は…勇者なんかになりたくなかった。


◆◆◆


「背中に沢山の傷がある…これがレイラが仲間を捨てて逃げようとした証拠です」


「違う…私は」


「違わない、その背中の傷がその証拠だ。しかもお前が見捨てた賢者ジャミル様はトード公爵家の人間、古くは王に所以のある方…本来なら死刑なれど、勇者に死刑は無い。投獄90日の後『犯罪奴隷』にするものと処す」


「私は…」


「黙れー――っ!お前の言う事など聞きたくも無い」


なんで、なんでこうなるのよ。


私は勇者なんかになりたくなかった。


それでも頑張って沢山の人を救ってきたのに…


◆◆◆


此処は何処なの? 暗くて周りが見えない。


「バルチール牢獄へようこそ…」


明かりが殆ど無く何も見えない。


なんで私はこんな場所に居ないといけないの?


ひもじい、寒い…喉が渇いた…助けて。


沢山の人を助けてきたのに…たった一度の失敗でこれなの。


騎士だって兵士だって負けても罰されない。


なんで私だけが…罰されるの。


◆◆◆

『幾ら元勇者でもこれじゃ売れないだろう』


『別に売れなくても良いみたいだ。主催者の話では『元勇者』が売りに出されるだけで人寄せになる…それに売れ残り『廃棄』となればようやく勇者が殺せるからな』


『売れてもあの面で手足が無いゴミみたいな女、真面に扱わないだろう?そこには地獄しかない。どっちにしても地獄だな』


ううっ…大丈夫きっと誰か買ってくれる。


「お待たせしました、本日最後の出品! 知らない者は居ないでしょう! 犯罪奴隷レイラぁぁぁぁー――金額は銀貨5枚からだぁぁぁぁー-っ」


見た瞬間に皆が去って行く。


…誰も助けてくれないの…


『私は皆を助けるために頑張ったのに助けてくれない』


『銀貨5枚――っ』


1人だけ...1人だけが私を助けようとしてくれた...のかな。


◆◆◆


「そうかな? レイラは凄く綺麗だと思うよ!それは今も変わらない!」


「俺にとってのレイラは理想の女性だ、それは今も昔も変わりないよ。だけど、後の事は此処を出てから話そうか?」


真っすぐな目。


凄く優しい目で話す男の子。


「レイラは顔の傷や、手足を気にしているかも知れないけど、俺はそこ迄気にならない。勇者だったから解らないかも知れないけど、普通に冒険者をしていれば、怪我する事もあるし命すら落とす事だってある…そう珍しい事じゃない」


こんなゴミみたいな私を好きだという男の子。


地味だけど凄く可愛いく綺麗だ。


だけど、こんな夢みたいな話は信じられない。


「髪が凄く綺麗だし、手足はすらっととして綺麗、それにその瞳、凄く神秘的に赤く…」


あーあ。


綺麗だなんておばさんだよ、私…おかしいよ綺麗だなんて。


顔が赤くなっちゃう。


「レイラコンプレックス…だからレイコン」


あはははっ凄いよねリヒトはこんなおばさんが好きなんだって。


手足が無い時に介護覚悟で買ったんだから…もうどれだけ好きなのよ。


しかも10年も前から好きだったようだし…凄いよね。


「いや、これが普通の対応だよ。俺達は冒険者だから、報酬無くして人を助けることは無い。俺が無償で助けるのは、大好きなレイラだけだよ」


『俺が無償で助けるのは、大好きなレイラだけだよ』


もうどうして良いか解らないわ。


リヒトって私の事好きすぎでしょう。


此処迄思いを寄せられたことは無いわ。


私もリヒトが好き。


うん、凄く好き。


大好き。


解かっちゃったよ。


もう齢の差なんて気にするのは止めよう。


大体、こんなおばさんでも好きだって言ったのはリヒトだ。


もう何も気にしないわ。


あははははっ『だってリヒト以外どうでも良い人間』だもん。


『私は沢山の人を救ったけど、私を救ってくれた人はリヒトだけ』なんだから、それで良いよね。


◆◆◆


「レイラ…レイラ…」


「あれ? リヒト?」


「なんだかうなされていたけど大丈夫?」


「あはははっ余りに気持ち良くて眠っちゃったみたい」


「そう? それなら良かった」


「ねぇねぇリヒト」


「どうしたの」


「大好き!」


「えっ」


「だから、大好き!」


「俺もだよ!」


「嬉しい」


凄く綺麗な笑顔で言われて顔が赤くなった。


凄く嬉しいけど、一体どうしたんだろう。




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