第18話「亡国のギルド~グリムゾルのギルドマスター~」

とある日、亡国と呼ばれていた国の冒険者ギルドの一角では一人の男が震えていた。


グリムゾルのギルドマスター、ディム

「(なんで、なんでこの物騒な国のギルドにクッソ有名な流星スターのパーティーが来てんだよぉぉぉッ!!!)」


「君に一つ聞きたいんだけど、良いかな?」


周囲に覇気を飛ばしながら彼の目の前の男が話しかけた。

彼は周囲の冒険者がこの放たれている覇気の影響で倒れたとの報告も受けていた。

その受付嬢も今にでも倒れそうな程の冷や汗を掻き、壁を支えとして何とか踏ん張っていた。


「もっ、勿論です。どうぞ」

「それじゃ、一つ聞きたいんだけど――――」


彼は緊張が迸っている。

何せ相手は怒らせたら一番ダメな相手である。

一度怒らせたら国をたった一人で壊滅してしまうので下手に動けないのである。


「・・・その前にそこの彼女と俺が連れてきた人を休ませてもらっていいかい?」

「ぜっ、是非とも!!!―――おい!誰かここの二人を仮眠室で休ませてやってくれ!!!」


他のギルドの職員がその場の雰囲気を察して二人の女性職員を連れて出て行った。


「―――でだ。あの職員を僕らに尾行させたのは・・・君かい?それとも国?」

「私は関与はしていませんが・・・その、彼女自身の行動かと」


彼は続けてしゃべり始めた。


「実は・・・あの部下の一人は元は国の騎士団の所から派遣された元傭兵でして」

「その証明となるモノは持ってる?あったら見せて欲しいんだけど」


彼は頷き、傍に居た交代したばかりの職員に持ってくるよう指示を出した。

その職員が必要な証明物を持って来るまでの間に目の前の有名人達にお茶を勧める。


「懐かしいな・・・弟とよく煎じて飲んだ野草のお茶だ」

「へ~、君が育てたやつ?」

「あっ、はい。私は元は植物の成長を促すスキルや鑑定関係のスキルを扱えていまして」


彼は冷や汗を掻きつつ、手に持っていたハンカチで汗を拭う。


「ギルドマスター、も、持ってきました」

「あっ、あぁ、ご苦労。下がりなさい」


只ならぬ雰囲気にビビる職員は頼まれていた書類を渡した後にすぐにその場から離れた。


その一部始終を見ていた相手は呆れた声を出す。


「全く、他のギルドなら俺らの覇気なんかで負けたりしないぞ?」

「それは・・・そのギルドが特殊なだけかと思うんですが」


彼は突っ込みを入れた後、緊張が解れたのか―――手に持っていた書類、証明書を見せた。


「ギルドの管理側が念の為との事で食い違いが起きない様にこの様に記録しています」

「ふーん、やっぱり国王か」

「どう思う?ゼクター」


一人の男がその名前を口にした途端、ギルドマスターは驚く。


「えっ、ぜっ、ゼクターってもしや、神速の?!」

「お?もしかして俺のファン?」


そういって素顔を隠していたもう一人の男が正体を見せる。


「本人が・・・と言う事はもしや・・・」

「あ、あれ?俺のファンじゃないの?おーい?」


突然、独り言で何かを模索していたギルドマスターの彼は何かに気付いた様に突然立ち上がる。


「ここではなんです。今すぐにあそこに皆さんで行きましょう!!!」

「お?お?なんだ?急に」

「一体何の事だ???」


彼は彼ら四人を連れてとある屋敷に来た。


「私だ!今すぐに話がしたい!」

「今すぐに旦那様に掛け合います。少々お待ちください」


その屋敷の執事がそう言い、直ぐに屋敷の門の中に彼らを通した。

屋敷の中で待つ事、たったの一分。


「すまん、待たせた」

「俺も今来た所だ。でだ、例の噂はまだ広まっているままか?」


彼らは直ぐに話を始め、暫くし―――


「ほう、ではあの噂は本当だが・・・本人らが生きていたのか」

「ちと待ってくれ。一体何の話だ?」


彼らは落ち着き、とある事を話し始めた。


「ゼクター殿、例の極悪犯罪者に殺された記憶はお有りで?」

「生々しいが・・・しっかりと覚えてるよ。もしかして二人が話してたのって」


彼らは頷く。


「私はこの国に遅れて住み始めた学者でね、ゼクター殿の死の事について不可解な事に気付いて独断で捜査をしていたんだ」

「不可解?俺がヤツに殺された事に?」


学者のベルスリー男爵は頷く。


「君を殺したその男は・・・実は帝国から召喚された人物ではないかと。皆さんの方ではそう言った情報は掴めてなかったでしょう?」

「確かに。でもあいつ等に限ってなんで・・・」


男の一人がそう言う。

ベルスリーは咳払いをする。


「この亡国が逃亡した君を実は行方を捜していたんじゃないかって話をね。ついでに言うと、この国は強化兵を造ろうとしているんだ」

「強化兵?」


話によれば、まだ亡国と呼ばれていなかったグリムゾルの現在の王はひょんな事から多くの自国民の命を犠牲にさせて勇者召喚を実行した・・・と。


「あ、もしかして」

「そう」


そう、彼らが考え付いたのが―――強化兵実験。


「幸いにも君以外にも若い子らを大人達は全員逃がした。しかも貴族らが先導してね。だからその強化兵実験は勇者の召喚に切り替わってね」

「その時に残ったのがその公爵以下の貴族。んで、しかもその貴族の命を犠牲にして例の凶悪な勇者を誕生させた・・・」


ただ、幸いにも名前しか聞かれていない筈。


「となると・・・勇者らはお二人から聞いた話だと既に仲間割れをしていたんですよね?」

「あぁ、多分勇者側に善人がいた筈だ。ただその場に居たのは極悪人だったけどな」

「ヤツの持ってる力で味方を殺すとは思わなかったしな~」


男達はギルドマスターの彼らに本題を切り出す。


「で、この話をしたのは・・・その国が最も原因だって事で・・・良いんだな?」

「えぇ、我々のギルドでも国から派遣された者を無下には出来ないので」


精々、監視程度に留まる。


「―――さて、それなら俺らでその国王とやらをぶっ倒すか」

「だね、僕も少しキレてもいい気がしてきたよ」


相手の男二人のその発言に彼ら二人は冷や汗を掻く。


「私も手伝いますよ」

「わったしも~♪大事な仲間を殺そうとした国を許す訳にはいかないもん♪」


相手の男二人の傍にいた女性らもそう言い、それを聞いた彼ら二人の心臓の鼓動が激しく動く。


「せっ、せめて地図を――――こちらを」

「ほーん、城へ行ける王都図の?助かるわ」


彼らから地図を受け取ったそのパーティーはギルドを後にして出て行った。


「・・・どうする?」

「彼らへの対応は俺個人にするさ」


彼はそう言ってフラグを建てるのであった。

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