織り成す勇気を
すい
覚めない夢を一緒に
1から2を作り出すことよりも、
0から1を創り出すことの方が遥かに難しい。
俺はお前が0から1を創り出せて、
それが本当に素晴らしい熱を持ったものだと知っている。
多分、そういうのを「才能」っていう。
けど、いつもお前は
それを誰にも触れさせようとしないんだ。
守って、守って、
まるで何かに怯えているように。
なぁ、ハル。
「大好きなもの」を創り出すことって、
「大好きなこと」を大好きって言うのって、
そんなに怖いことなのか…?
◇
この世は最悪だ
なぜって?
そんなもん、いくらでも思いつくだろ。
俺の人生が涙腺崩壊ものの青春ストーリーだと思っていたやつ。残念だったな!!!
特技ない
面白くない
顔普通
モテない
人より秀でてるとこなんて
ありやしないんだ。
主人公補正?残念!
どこにでも居る、超ど平凡男子高校生!DK!
じゃあ努力しろって?残念!!
努力も苦手でした!!!
あ~!!!待って帰らないで!!!!!
俺は面白くないけど、俺が大好きな奴は
ちょーイケメンだから!!
ちょーすごいから!!!
イケメンが嫌い?
じゃあ、めちゃめちゃ可愛いお姉さんなら?
全人類好きだよな!俺も好き!!
結局人間、なんか顔が良い奴には
あらがえないよな。わかる。
「……る?……おい、凛。さっきから聞いてる?」
「え?あたっ!!!」
突然の痛みに頭が覚醒し、
あたた……と呟きながら右隣を見ると
俺の頭をチョップするイケメン。
幼なじみの
俺は「ハル」って呼んでるけど。
「はるか」だとなんか女の子みたいで
本人は嫌らしい。
口元にあるホクロが特徴的で、色気がある。
長年一緒にいる同性の俺でさえこうなんだから、もうクラス内の女子ときたらことある事にキャーキャー騒ぐのでどうにかしてほしい。
「……ねぇ、本当に大丈夫?保健室行く?」
「え?行かないけど…?なんで??」
「はぁ……」
日直の仕事を淡々とこなして
もう1時間弱くらいたった。
そのせいかハルはなんだかお疲れの様子だ。
「ハル疲れたん?ちょっと休憩しようぜ。」
「うん……まぁ…いいよもうそういうことで。」
俺はため息をつくハルをよそに「それよりもさ」と机の横にかけてあるリュックサックを漁り、スマホを手探りで探して掴み取った。
「昨日出たGeminiの新曲!!」
俺はバッと音楽アプリのデイリーランキングが表示されたスマホを向ける。
「え…あぁ……もちろん聴いたよ。…今朝ニュースで。」
今作はバラードなんだね。と売店で売っているパックのカフェオレを飲みながらどこか控えめに答えるハル。
「そーなんだよ…!Geminiって2人ともダンスが上手いからアップテンポの曲もカッコよくて好きなんだけど、なんか今回のはグッと心を鷲づかんで離さないような感じで、それもまた良いんだよなぁ……」
あと歌詞も泣ける。
思い出しながらつい涙ぐんでしまう。
「Gemini」っていうのは今若い世代を中心に大人気の2人組男性アイドルユニットのことだ。
6人とか7人のグループで売り出すアイドルが多い中、最近になって2人組なんて珍しいなと思ったのがきっかけだった。
圧倒的な歌唱力と息ピッタリのダンス。
まるでこの世界には2人しかいないような
優美なパフォーマンスと大衆に媚び過ぎない不思議な魅力。
それまでアイドルなんて微塵も興味なかったけど、その2人だけはどうしても頭にこびり付いて離れなかった。
「凛は相変わらずだね。今までアイドルとか全然興味なかったのに。しかも男。」
「男とか女とかは関係ないだろー!それに、Geminiってなんか他のアイドルと違うというか……こう…アイドルっぽくないというか」
自分の言語力が乏しく上手く表現できないでいる俺にふーんとつまらなそうに返事をするハル。……まぁ、興味のない人間からしてみればそんなもんなんだろう。
俺は説明を諦めて音楽アプリを閉じ、適当なウェブニュース記事をスクロールしながら眺める。
どっかのラーメン屋の看板が台風で吹っ飛んだとか、顔を見たことある程度の芸能人が結婚だとか、全く平和な国である。
次第にそれも飽きてきて見るのをやめ、今度は某SNSサイトのトレンド欄を見たときだった。
「えっ!!Geminiのツアー?!?!?」
「あ、ホントだ。」
トレンド欄の一番目立つ欄にデッかく「Gemini 五大ドームツアー開催決定!!」の文字。他のトレンド欄もほぼ全部Gemini関連のもので溢れかえっている。
「へーすごいね。五大ドームツアーってなかなかぽっと出のアイドルができるもんじゃないよ。」
「そ、そうなの?」
「うん。基本的に大きい事務所でデビューして人気になっても、若手のグループじゃなかなか難しいんじゃないかな。」
アイドルの現場のことなんてこれっぽっちも知らないが、とてもスゴいことらしい。
「ライブ……生のGeminiが見られるってこと…?」
「もちろん。ただ倍率はとんでもなく高いと思うから、そう簡単にチケットは取れ…「行きたい!!!お願い、ハル!一緒に行こう!!!」……俺の話、ちゃんと最後まで聞いてる?」
それに夏休み前には期末テストだってあるし……と長ったらしく行けない理由を述べるハルを無視して急いで特設サイトにとびライブ日時を調べる。
「えーっと東京公演…東京公演……7月31日だって!夏休みだし見に行けんじゃん!!」
「だから待って凛、俺の話を…「お願い!!お願いします!!!俺何でもするから!!」………」
全く聞く耳を持とうとしない俺に頭を抱えるハル。うーん悩んでる姿もイケメンだな。
「……じゃあ、条件をつける。それを凛がクリアできたら2人分のチケット、申し込んでいいよ。」
「ほ、ホントか…?!」
「うん。まぁ、行けるのは当たればだけどね。まず1つ目は、テスト終わるまで俺の前でGeminiの話するの禁止。あ、曲聴くのもダメだからね。」
「えっ…!!!せっかく曲聞いてテストへの士気を高めようと思ったのに……」
あからさまに落ち込む俺に「音楽聞きながらの勉強は効率悪いよ。凛。」となぜか最もらしいことを言うハル。
ん…?待てよ…1つ目……?
「2つ目は、テストで赤点全教科0に加え、どの教科でもいいから1つ85点以上を出すこと。これだけ。簡単だろ?」
「は、85…?!」
下がってしまったテンションが
さらに急降下していく。
「ホントは90点にしようと思ったんだけど、毎回赤点を取ったり取らなかったりの凛にはちょっと厳しすぎるかなって。」
これでも加減したつもりなんだよね。
とニコニコ微笑むハルには到底「もう少し基準を下げてください!」なんて言えそうになかった。
こう見えてハルは以外とサディスティックな一面がある。しかも無意識に。
「うぅ……俺のGeminiツアーの夢が……」
「まだテストまでだいぶ時間あるし、一緒に頑張ろうね。凛。」
「ハイ…………」
近かったようなGeminiのライブ参戦がものの数秒で遥か彼方に遠のいてしまい、俺は机に頭を突っ伏した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます