第36話 気になる存在
◆◆◆真希side◆◆◆
誠一の突然の告白に、思わず声が出てしまった。
でもしょうがないじゃない! 何の前触れもなく婚約者が居て、一緒に住んでるなんて聞かされたら誰だってビックリするわ! 相手が好きな人ならなおさら。
取り敢えずどんな
「ふ、ふ~ん。婚約者なんていたんだ~」
「あ、ああ。俺も驚いてる」
「どんな
「え~っと、歳は一つ上で今の会長代理のお孫さんらしい」
「どうして一緒に住んでるの?」
「その会長代理の人が強引に……」
年上! まさか包容力にほだされてるんじゃ……。
「でもさ、強引にって言うけど断ろうと思えば断れたんじゃない?」
「そう言われると何も言い返せないです……」
「何か断れない理由とかあるの?」
「理由というか……じいちゃん同士が決めた婚約なんだけど、小さい頃に俺の写真を見て運命を感じたらしいんだ。それから俺に嫁ぐ為だけに花嫁修業してきたみたいでさ……」
なるほど。誠一の事だから自分の為と言われて強く言えないのね。
(はぁ……政略結婚なんてこの世界じゃ当たり前なのに誠一がこんなんで龍宮グループは大丈夫なのかしら)
「それで? 誠一はその女性と結婚するつもりなの?」
「いやいや、そんな気は全然無いよ。まだ真澄さんの事が好きだし!」
そう言った誠一の目は真剣なものだった。でも――
「ねぇ」
「ん?」
「お姉ちゃんの事、重荷になってたりしない?」
「なんだよ、それ」
「今でもお姉ちゃんの事を想ってくれてるのは妹として嬉しいけど、今のままじゃ次に進めないんじゃない?」
「そんなことは! ……ないと思う」
運命を感じるくらい好きだったんだから簡単に割り切れるものじゃないのは分かるけど、このままじゃ誠一が一生神宮寺真澄という鎖に縛られてしまうんじゃないだろうかって心配になる。
もしかしたら、今回の婚約者の話は良い機会なのかもしれない。
だけど、私の気持ちはどうすればいいんだろう――。
もし万が一誠一と上手くいっても父の思惑通りになっちゃうし、誠一にも迷惑かけちゃう……。
でも、諦められるかといえば諦められない。
だって、私が初めて好きになった
「とりあえず、その婚約者に会わせてよ」
「なんで?」
「その婚約者がどういう
「いや、真希が気にする様な事じゃないだろ」
「いいから! それとも会わせたくない理由でもあるの?」
「そんなことはないけど……」
「なら決まりね。今度の休みに誠一の家行くから」
「……はぁ、分かったよ」
「ありがと」
家の事とか一旦忘れて、恋敵がどんな人なのか確かめなくちゃね。万が一にも誠一が婚約者のことを好きになる前に私の気持ちを伝えないと――。
ようやくこの日が来た。今日は誠一の婚約者との初対面だ。あの日は勢いで家に行くって言っちゃったけど、男の子の家に行くなんて初めてだから緊張する。
まぁ、誠一と二人きりじゃないのは残念だけど。
っていうか父さんも父さんよね。今日は習い事を休みたいって言ったら「駄目だ。お前は跡継ぎとしての自覚が足りない」って言った癖に、誠一の家に行くって伝えた途端に「ゆっくり休め」なんだから。
でも、父さんの口ぶりから察するに誠一の婚約者の事は知らなそうだったわね。もし婚約者の存在を知ったらどう動くのかしら。私と誠一をくっつけるのを諦める……?
「あっ、もうこんな時間! 早く行かなきゃ」
バッグを手に取り鏡で髪が乱れていないかチェックして部屋の鍵を探していると、机の上に置いてある懐中時計が目に入った。
「そういえばこれは誠一の物だったわね。お姉ちゃんの手紙にも書いてあったしこの機会に返しておこう」
動かない懐中時計をバッグに仕舞って、家の鍵を手に取り部屋を出た。
誠一の家の最寄り駅に着くと、すでに誠一が待っていた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「五分くらいだから大丈夫だよ」
「そこは全然待ってないよ。とか俺も丁度来たところとか言うのよ」
「なんで?」
「なんでも! まさかお姉ちゃんとのデートの時もそんな感じだったの?」
「いや、真澄さんは遅刻なんか絶対しなかったし、俺も早めに行ってたから」
「ふ~ん、お姉ちゃんと違って遅刻してすみませんね!」
「な、なに怒ってんだよ」
「べっつに~、怒ってませんけど~」
「はぁ、そうですか」
誠一の案内で家に行く道すがら、もう一度婚約者について聞いてみた。帰ってきた答えは家事は完璧で、助かってる事、だけど申し訳ない気持ちにもなること。
確かに結婚する気のない相手に家事全般をやらせてたら心苦しくなるだろう。
「それで、今日私が行く事は伝えてあるのよね?」
「うん」
「どんな反応だった?」
「反応?」
「そ。いつもと違う反応したかなって」
「う~ん、美味しいお昼ご飯作ってまってますねって言ってたな」
「ふ~ん」
ただの善意か、料理の腕を見せつけようって事かしら。
まぁ、相手の出方次第では……。
色々と考えを巡らせているうちに誠一の家に着いた。
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