第31話 姉妹の過去

 小学生の時の記憶を思い出し、気分が落ち込むけど、美咲にはきちんと説明しないと。


「私達がまだ小学四年生の頃の話なんだけど……」

「うん」


 私が語りだすと美咲は何も言わずに聞いてくれた。



「私は昔からお姉ちゃんが大好きで、いつもお姉ちゃんと一緒に行動してた。お姉ちゃんの事が大好きで、将来、お姉ちゃんみたいになりたいって思ってた」


「お姉ちゃんも私の事を大切に思ってくれてたし、仲良しな姉妹で小学校では有名だった。それが変わったのが四年生の夏休みだった。その夏から私達は色々な習い事をする事になったの」


「最初は上手く出来なかったけど、だんだんと出来るようになって、自信がついてきた時に先生から言われたの。『真澄様は簡単にこなしたのに、姉妹だからといって二人共優秀という訳ではないのね』って。その時初めて、自分は所詮お姉ちゃんの真似事しか出来ないんだって」


「追い打ちをかける様に、その日の晩、父に言われたの。『お前は真澄の予備でしかない』。その言葉がすごくショックで、その時から父の事が嫌いになったのかもしれない」


 ここまで話して、美咲が疑問を口にした。


「その経験をして、真澄っちの事も嫌いになっちゃったの?」

「ううん。お姉ちゃんの事は好きなままだった。父の言葉で傷ついた私を慰めてくれたりしてたから。だから、あの時の心の支えはお姉ちゃんだった」

「そうだったんだね。ごめん、続けて」


 そう言って、美咲はまた聞く姿勢になった。


「習い事を初めて普段の生活が目まぐるしく過ぎていく中、ある日お姉ちゃんが、「私、ゆう君の事が好きになっちゃった」って相談されたの。ゆう君は学年で一番人気の男子だった。子供ながらに髪を茶色に染めて、コミュニケーション能力も高くて。お姉ちゃんが好きになるのも理解できた。でも、私もゆう君の事が好きだった」


「話し合った結果、二人同時に告白しようってことになって、ある日の放課後、二人でゆう君に告白したの。そうしたらゆう君の答えは、『真希ちゃんごめん! おれ、真澄ちゃんが好きなんだ』という答えだった」


「そりゃあショックだったけど、私は素直にお姉ちゃん達の事を素直に祝福する事が出来てたと思う。

最初こそお姉ちゃん達は私に気を使ってたけど、私は気にしなくていいって言って、なるべく二人きりにしてあげたりしてた」


「そんな交際が続いていたある日、ゆう君が何も言わずに転校していった。その日の晩に父から呼び出され、ゆう君の事を聞かされた。『真澄は神宮寺家の跡継ぎなのだから、あんな小物と付き合う事は許さない。生意気にも親が私に子供の恋愛だからと意見してきたので奴の経営している会社に圧力を掛け、どことも取引できなくしてやった。案の定あんな小さな会社は簡単に潰れたよ。今回の様に変な虫が付かない様に神宮寺家にふさわしい婚約者を見つけてきてやった。今後はその男の為だけに生きろ』

なんて言って笑ったのよ」


「その事件が切欠でお姉ちゃんは男の人に恋心を抱かなくなって、私は男嫌いになった」



 私が語り終えると、美咲は瞳に涙を溜めながら私に抱き着いた。


「そんなつらい事があったんだね……」

「今まで黙っててごめんなさい」

「ううん、コッチこそ聞かせてくれてありがとー」


 涙をゴシゴシ拭きながら私から離れると、美咲は当然の疑問を口にした。


「男に恋心を抱かなくなった真澄っちが、よく誠一の事好きになったね」

「それは私も驚いたわ。恋心どころか運命の男性ひとなんて言い出したんだから」

「でも、それだけ誠一に何かを感じたんだろうね」

「かもね。それから誠一からの告白とかで私も巻き込まれるんだけどね」

「あはは、そういえばそうだったね」


 二人して当時の事を思い出して笑いあう。


「だからさ、お姉ちゃんには幸せになって欲しかったから私の恋心は内緒にしてたんだ。お姉ちゃんにはバレバレだったみたいだったけど」

「そっかー。で、真澄っちの手紙には気にしないで誠一とくっつきなよ的な事が書かれてあったと」

「まぁ、そうかな。誠一が心配だからよろしくね! っていう事も書いてあった」

「ふぬふむ、それで真希は誠一に告白しようとしてる訳だ」

「……うん。周りからは節操無いって思われる……というか美咲は現にそう思ってた訳だしね」

「それはゴメン。でもさっきの話聞いたら真希のこと責められないかな。っていうか応援するよ!」

「ふふ、ありがとう。でも、まだいつ告白するかは決めてないんだ」


 美咲は不思議そうに、「そうなの?」と首を傾げる。


「だって、絶対誠一はまだお姉ちゃんの事引きずってるし……」

「確かに! 全然元気ないよね。愛想笑いが鬱陶しいし」

「だから、今は誠一を元気づけるために何かしたいなって思ってるの」

「あ! だから昨日お弁当作ってくるっていったんだ!」

「ま、まぁね」

「で、お弁当は作ってきたの?」

「……一応」

「なら、今日のお昼が勝負だね。誠一の胃袋掴んじゃおう!」

「そうなったらいいんだけどね」

「なに弱気になってんのよー、真希らしくもない」

「……そうだよね、あれこれ考えても仕方ないし、私らしくいってみる」

「その意気だよ!」


 と、ここで気づいた。いつの間にか一時限目が始まってしまっている。


「ごめん! 私が長々と話してたから授業に遅刻しちゃって」

「別にいいよー。ってかこのまま授業サボッちゃお! 今から行っても怒られるだけだし」

「まったく美咲らしいわね。でも、今日だけはその意見に賛同してあげる」



 私達の苦い思い出を美咲に話した事で、少し楽になった気がした。

 おまけに私の応援までしてくれると言ってくれた。


 つくづく私は一人じゃ何もできないんだなと実感した。

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