第20話 好きって何?

      ◆◆◆真希side◆◆◆


 今頃お姉ちゃんは誠一とデートしてるのかぁ。昨日のデートの事はお姉ちゃんには細かく伝えてあるし、それで嫉妬して何か進展があればいいんだけど……。



(でも、私の気持ちはどうなるの?)



 駄目! 今は私の気持ちなんてどうでもいい。とにかくお姉ちゃんが私に嫉妬して誠一と仲を深めることが先決なんだから。そうすればお姉ちゃんもお父さんの説得に前向きになるはず!

 


 その為なら、私はどんな悪役にだってなってみせる――。



 夕方になり、お姉ちゃんが帰って来た。進展があったかどうか気になり、お姉ちゃんを急かす。

 

「どうだった今日のデートは?」

「えへへ~、やっぱり誠一さんは運命の人だったよ」

「という事は何か進展があったの?」

「進展というか、誠一さんのお爺様の名前を教えて貰った~」

「へ? なんで誠一のお爺さんなの?」

「ふふ、それは秘密かな~」


 誠一のお爺さんの名前を聞いた事で、改めて運命を感じたって事かしら? 意味が分からない。


「そういえば、ちゃんと真希ちゃんがあげたお財布使ってたよ~」

「ホント? やった! 嬉しい~」

「誠一さんも真希ちゃんの事満更じゃないかもよ~」

「そうかな。もし誠一が少しでも私に気があったらどうする?」

「それは嬉しいよ! あ! 稽古が無い日に三人でデートもいいかも~」


 目を輝かせながら、ありえない未来を想像している。


「私に嫉妬とかしないの?」

「ん~、誠一さんが真希ちゃんに好意を抱いても、彼女は私だからね~」

「それなら、私が誠一をお姉ちゃんから奪ったらどうするの?」

「その時はお祝いするよ~」


 駄目だ。お姉ちゃんには嫉妬という感情が無い気がしてきた。

 と考えていると、お姉ちゃんが、「でも……」と続けた。


「私より先に誠一さんの初めてを奪われたら嫉妬しちゃうかな」

「は、初めてって――それってキスのことじゃないわよね?」

「キスは私がしちゃったからね~」

「じゃ、じゃあ、初めてっていうのは――」

「エッチの事だよ。こんな恥ずかしい事言わせないでよ~」


 いやんいやんと顔を赤くして身じろぎしているが、言っている事はぶっ飛んでいる。

 お姉ちゃんは、私と誠一がエ、エッチしない限り嫉妬しないと言っている。いくらお姉ちゃんを嫉妬させる為とはいえ、そこまで身体を張れない。


(別に、誠一とそういう事をするのが嫌という訳じゃないけど……)


 って何考えてるんだ私は! でも、これで実質お姉ちゃんを嫉妬させる事が不可能になった。

 何か他にお姉ちゃんの考えを変えさせる方法を考えないと……。


「そういえば、真希ちゃんは誠一さんの事は好きなの? まだハッキリと聞いて無かったよね?」

「わ、私!?」

「うん。好意があるのはしってるけど、いい機会だからハッキリさせたいな~って」

「そ、それは……」


 お姉ちゃんの言う通り、確かに私は誠一に魅かれている。話したり、遊んでたりすると楽しいし、さっきも私があげた財布を使ってくれてるって聞いて喜んだ事に嘘は無い。

 それに今日お姉ちゃんとデートしてる間はそわそわして落ち着かなかった。


「私さ、今まで男の人信用してこなかったじゃない?」

「うん、ごめんね」

「お姉ちゃんは悪くないよ」

「ありがとう、真希ちゃんは優しいね」

「だからさ、今の気持ちが恋愛的に好きなのか分からないんだよね」

「……そっか」


 私の告白の所為で空気が重くなったのを感じる。そもそも、お姉ちゃんの彼氏を恋愛的に好きかどうか分からないという相談自体が間違ってるのは分かってる。だけど、こんなことお姉ちゃんにしか相談出来ないというのも事実だ。美咲に相談しようものなら「真澄っちの彼氏を好きになるなんてありえないっしょ!」と一蹴されてしまうのが容易に想像できる。

 しばらくお互い沈黙が続いたが、お姉ちゃんが沈黙を破った。


「だったら気持ちを確かめようよ」

「どうやって?」

「好きな人とは常に一緒に居たいって思うの。だから、真希ちゃんは出来る限り誠一さんと一緒に居て、それが心地よかったり、安心出来たりしたら好きって事だよ」

「それって誠一に迷惑がられないかしら?」

「大丈夫だよ~。誠一さんだもん!」


 そう言ってお姉ちゃんは胸を張る。根拠はないけど説得力はあるし、私も誠一なら大丈夫だろうという想いだ。


「分かったわ。明日からはもっと誠一と一緒に行動してみる」

「ブブー! 今日から始めないと駄目だよ~」

「でももう夜よ?」

「メッセージでやり取りすればいいんだよ」

「それもそうね。でもお姉ちゃんの時間が減っちゃわない?」

「大丈夫、今日はキスで充電してきたから~」

「はいはい、御馳走様です」

「えへへ~」


 流れで誠一と一緒に過ごす時間を増やす事になったけど、これで上手くいくのかしら。恋愛経験で言えばお姉ちゃんも私とたいして変わらないしなぁ。でも、誠一と付き合った事で何か変化があったのかもしれないし、ここはお姉ちゃんの言う通りにしてみよう。私も自分の気持ちを知りたいし。


 ベッドに横になり、スマホと睨めっこする。いざ意識してメッセージするとなると緊張やら何を話せばいいのかやらで、なかなかメッセージが送れない。

 とりあえず財布を使ってくれていることにお礼を言っておこう。


<起きてる?>

<起きてるよ。どうしたの?>

<お姉ちゃんから聞いたんだけど、財布使ってくれてるみたいね>

<折角のプレゼントだしね。使わなかったら真希にも悪いし>

<別に無理して使わなくてもいいわよ>


(ああ、どうして私はツンケンしちゃうんだろう。こういうところが駄目なのかも……)


<そんな訳にはいかないだろ。真希の初デート記念なんだから>


(え、うそ! 誠一も初デートって思っててくれたってこと?)


<へぇ~、デートだって認めるんだ?>

<認めるも何も、真希がデートだって言ったんじゃん>

<ま、まぁね。でも皆には内緒にして欲しいかな>

<ん? 真澄さんには話したんだろ?>

<お姉ちゃんは特別! 美咲や海原君には内緒にしてて!>

<わかったよ>


(美咲に誠一とデートしたなんて知られたら何言われるかわからないもんね)


<用事ってこの事だったの?>

<用事が無いと連絡しちゃダメなの?>

<駄目とかじゃないけど、何話す?>

<こういう時は男のアンタが話題提供しなさいよ>

<そんな事いわれてもな~>


(なんでか誠一相手だと上から目線になっちゃうのよね……これも治さないと)


<そういえば、真希は恋人作ろうとか思わないのか?>

<い、いきなり何よ>

<今までずっとモテてきたんだろ? 何で彼氏作らないのかな~って>

<家庭の事情でね、男は皆下心満載のクズしか居ないと思ってたからよ>

<あぁ、美咲が前にちょろっと言ってたな。嫌な事聞いてごめん>

<べ、別に謝る程の事じゃないわよ>


(それに、誠一と出逢って、クズばかりじゃないって分かったしね)


<誠一はさ、お姉ちゃんの事好きでしょ?>

<どうしたんだいきなり>

<私、好きって感情が分からなくて……>

<その言い方だと、今は気になってる人は居るみたいだな>

<うん。だけどこれが恋愛的に好きなのかどうか分からなくて>

<なるほどな>


(よりにもよって何を誠一に相談してるのよ私は! これじゃ私の気持ちがバレちゃうじゃない!)


<正直、俺も真澄さんと付き合うまで恋愛感情とかなかったんだけど、一つだけ言える事がある>

<なに?>

<この人の為なら人生掛けられる! って思える事かな>

<そんなに重い話なの?>

<あくまで俺の場合は。だけどな>

<なら参考にならじゃない>

<でも、真澄さんと一緒に居ると幸せなんだ。そういう所じゃないのかな>

<幸せ……かぁ>


 確かに誠一とのデートの日はお姉ちゃん幸せそうにしてるなぁ。

 お姉ちゃんは心地よさや安心感と言っていたけど、それは幸せだから実感できてるのかも……。


<最後に変な事聞いていい?>

<なんだ?>

<もし、私に好きな男性ひとが出来たら応援してくれる?>

<応援するよ。だから頑張れよ>

<そっか、ありがとう。今日はもう寝るね、おやすみ>

<ん? ああ、おやすみ>


 スマホを手放して布団に顔を埋める。

 昨日の買い物がデートだと認識してくれてた事は嬉しい。だけど誠一の恋愛観では、私は候補にもなれていない。そう感じて寂しく思うのは、誠一のことが好きだから? 分からない。


 分からないなら行動してみよう。お姉ちゃんの言う通り、誠一と一緒に行動を共にして自分の気持ちを確かめよう。

 もし、私のこの気持ちが恋なら、その時はお姉ちゃんにキチンと報告しよう。

 お姉ちゃんが夢想した、三人でのデートへの未来へ向けて――――。

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