第18話 デート?
◆◆◆誠一side◆◆◆
昨日はなんだかんだあったけど楽しかったな。今までは武人と美咲との三人だったけど、真希が加わってより一層賑やかになった。
それに……真希が見せた笑顔が印象的だったな。まるで真澄さんの様で、少しドキッとした。
机に鞄を置き、トイレに向かおうと教室から出ると、ちょうど真希が登校してきたところだった。
「あ! おはよー誠一」
「うん、おはよう」
「昨日はぬいぐるみありがとね」
そう言って
笑顔に戸惑っていると不思議そうに首を傾げながら聞いてくる。
「どうしたの? キョトンとして」
「いや、喜んでくれて嬉しいよ」
「だってずっと欲しかったんだもん! 昨日はぬいぐるみ抱いて寝ちゃった」
「てへっ」と舌を出して笑う。正直に言って可愛い。流石は姉妹という事なのだろうか?
「へ~、真希にそんな趣味があったなんてね」
「べ、別に良いじゃない! 誰に見せる訳でもないんだから」
「それもそうか」
「そ・れ・と・も~、私がぬいぐるみ抱いて寝てる姿見たいのかな~?」
悪戯っぽく微笑みながら顔を覗き込んでくる。
(うわ、すごく可愛い)
「そ、そんな訳ないだろ!」
「ふふ、ごめんごめん」
「まったく……」
「ところでさ」
「ん?」
「私、誠一の連絡先知らないのよね」
「あ! そっか、あの時貰った連絡先は真澄さんのだもんな」
「だから連絡先交換しよ」
「わかった、ちょっと待ってて」
スマホを取り出してコードを表示させる。真希がそれを読み取り交換が終わった。
「よし、これでオッケーだな」
「ありがと」
「そろそろ始業のチャイムだから俺はトイレ行ってくるよ」
「わかった。また後でね」
真希と別れてトイレを済ませたタイミングでチャイムが鳴った。慌てて教室へ戻る。
(思った以上に長話してたな)
昼休憩の時は昨日同様、武人・美咲・真希達と四人で食事をした。放課後はカラオケに行った。採点ゲームをやったが、真希が90点以上連発でダントツの一位だった。
翌日、そのまた翌日と同じ様に過ごした。今では四人で行動するのが当たり前になっていた。これが俗に言うリア充というものなのだろうか。確かに充実した学生生活を送れているけど、一つだけ罪悪感があった。真澄さんが習い事で忙しいのに俺だけ遊んでいることに。
ベッドに寝転びながら何か真澄さんに出来ることはないかと思案していると、スマホが鳴った。
‹いま大丈夫?›
画面を確認すると真希からのメッセージだった。
‹大丈夫。どうしたの?›
‹明日は何も用事無いって言ってたでしょ?›
‹うん、特に用事は無いかな›
‹じゃあ買い物に付き合ってくれない?›
‹別に構わないよ›
‹それじゃあ駅前に十一時集合ね›
‹わかった›
ポンッと黒猫のキャラクターが親指を立てたスタンプが送られてきた。ここ数日で真希が愛猫家というのがよく分かった。ぬいぐるみだけでなく、筆箱や小物にも猫のキャクターが散りばめられていた。
実際に飼えば? と提案したが、猫は好きだけど猫アレルギーという実に難儀な体質らしい。だから、せめてぬいぐるみ等で癒やされていると言っていた。
翌日、十分前行動で待ち合わせ場所に着くと、既に真希が待っていた。
「おっそーい!」
「いや、真希が早いんだよ」
「女の子を待たせておいて言い訳する気?」
「はい、ごめんなさい」
「よし、許そう」
真希の私服を初めて見たが、真澄さんとは正反対で活発な女子という感じだ。いつも美咲が着ている服に似ている様に見える。「私服の感想は?」と聞かれたが、ファッションに疎い俺は「似合ってるよ」と言うのが精一杯だった。
それが不満だったのか、真希が一人でスタスタと歩き初めてしまったので、慌てて後を追いかける。
「今日は何を買うんだ?」
「ん~、そうねぇ。とりあえず何か食べない?」
「時間も時間だし、混む前にそうしようか」
近くのファミレスで昼食を済ませたが、その間、何を買うか聞いても答えてくれなかった。
もしかして何を買うか決めてないのか?
ショッピングモールまで移動すると、結構な人で溢れかえっていた。
「混んでるな」
「ショッピングモールなんてそんなもんでしょ」
「で、何処行くんだ?」
「とりあえず雑貨とか見たいわね」
「了解」
人混みを避けつつ雑貨屋を目指す。あたりを見回すとカップルが結構居たが、どの男性陣も疲れ切った表情をしている。何か疲れるようなイベントでもやっているのだろうか?
雑貨屋に入るなり俺の腕を掴んで、「アレ可愛い~」「コレ可愛い~」と店の中を縦横無尽に連れ回された。
気に入った商品が無かったのか、雑貨屋では何も買わず、「次行きましょ!」と言って今度はショッピングモール内を連れ回された。小物に服、アクセサリー等色々回ったが、そのどこでも買う素振りを見せなかった。一体何を買いに来たのだろう。買う物を決めてから誘って欲しい。
今は俺だけベンチで休憩している。色んな店を連れ回され、さすがの俺も疲れた。ふと、隣のベンチを見ると、男性が疲れた様子で項垂れている。なるほど、最初に見たカップルの男が疲れて見えたのは彼女に振り回されたからなのか。今なら気持ちが痛い程分かる。
見ず知らずの人と勝手に共感していると、真希が戻ってきた。
「なに一人でウンウン頷いてるのよ」
「いや、なんでもない」
「あっそ。疲れたしカフェで休憩しましょ」
「そうだな、助かる」
「なんでお礼言うのよ。意味分かんないわ」
流石の真希も買い物続きで疲れたみたいだ。カフェで休憩という提案に思わずお礼を言ってしまった。
カフェに到着し、それぞれ注文を済ませて席に着く。カフェも例外なく混んでいたが、幸いにも席が空いていてよかった。
注文したカフェラテを一口飲んで、テーブルに突っ伏した。
「このくらいで音を上げるなんて誠一もまだまだね」
「このくらいって……結構周っただろ」
「そんなんじゃお姉ちゃんと買い物出来ないわよ。お姉ちゃんは私より時間掛かるんだから」
「うっ! ま、真澄さんの時は意地でもこんな姿見せないよ」
真澄さんの前でこんな醜態を晒したら幻滅されてしまうかもしれない。もし、一緒に買物に行く時が来たら死ぬ気で踏ん張るしかない!
「っていうか何も買ってないじゃん。付き合う身にもなってくれ」
「ん? 買ったわよ」
「え! いつの間に買ったんだ?」
「誠一がベンチでダウンしてる時にね」
「一体何を買ったんだ?」
そう問いかけると、「う~ん、どうしよっかな~」と言いながら指を顎に当てて何やら考え出した。
ひょっとしてこういう時は買ったもの聞いちゃいけなかったのか?
「ま、いいか!」と言ってバッグの中をゴソゴソしだしたと思ったら、綺麗にラッピングされた箱が出てきた。そしてその箱をテーブルに置くと、ズイッと俺の方へ差し出した。
「今日はコレを買いに来たの」
「ん? 何で俺の方に差し出すんだ?」
「もう! 鈍いわねぇ。プレゼントよ」
「え! プレゼント!?」
「ぬいぐるみのお礼よ」
「いや、お礼って……」
「いいから受け取って! じゃなかったら捨てるから」
「わ、わかったよ。ありがとう」
ぬいぐるみなんてお礼される程のものでもないと思うんだけどな。でも、ずっと欲しかったって言ってたし、ここは素直に受け取っておこう。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
身内以外からプレゼントなんて初めてだからドキドキするな。
ラッピングを丁寧に剥がして箱を開けると、高そうな財布が入っていた。
「おぉ、なんか凄いな」
「ゲーセンで誠一の財布見たけど、ボロボロだったから」
「あー、小学生の頃から使ってるからなぁ。でもこんなに高そうな財布貰っていいのか?」
「高そうに見えるだけで大した値段じゃないわよ」
「それに――」と付け加えて、予想していなかった言葉が発せられた。
「初めてのデートの記念だから。大事にしてよね」
耳まで顔を赤くしてそう言う真希の姿を見て、俺の心に何かが刺さった。
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