第6話 ヤキモキ
◆◆◆真希side◆◆◆
「コッチにくるな!」
彼が急に叫び声を上げた。視線が私の後方に行っていたので何事かと振り返る。
すると、「もしかしてまだ話の途中だった?」と呑気に言いながら歩み寄ってくる人物が居た。
その人物は会話からして彼の友人だという事が分かったが、タイミングが良くない。もう少しで条件を飲んでくれそうだったのに。この場合はどう判断すれば良いのだろうか。いや、私一人の判断では決められない。とりあえずこの人物の素性を明らかにしてお姉ちゃんに相談しないと。
話を聞くと、お姉ちゃんのボディーガード事件の時に一緒に居た友人のようね。お姉ちゃんからは友人の話は聞いてないし、ここは少し時間を貰ってお姉ちゃんと話し合わないと。
「少し失礼しますね」
と言って彼等から距離を取り、スマホでお姉ちゃんに通話を掛ける。数コールで通話が繋がる。
「もしもし、真希ちゃん? どう? 上手くいった?」
「まだ途中なの。それより大変な事になったんだけど」
お姉ちゃんに今までの経緯をはなすと、「ん~、そうだねぇ」と少し思案した後に驚く事を言った。
「その海原さんにも秘密を共有してもらおう」
「ダメよ! 彼と付き合う事自体リスクがあるのに!」
「でも追い返すのも悪いし、それに誠一さんの幼馴染なら大丈夫だと思うの」
「幼馴染だから大丈夫とかそんな話じゃないでしょ!」
「聞いて! 思い出したんだけど、私が誠一さんと出会った日、その方は私の名前……名字だけだけど知っているような感じがしたの。恐らく学校での真希ちゃんを知ってたのかもしれない。だったら事情を話して、味方に引き入れた方が良いと思う。後から怪しまれるよりはリスク回避出来るんじゃないかな」
私としてはどんな小さなリスクも回避したい。お姉ちゃんの言うことにも一理ある。後々不審がられてアレコレ詮索されるよりも共犯者にしてしまえばいい。
うん。この手で行こう。
「分かったわ。事情を説明してなんとか説得してみる」
「うん、お願いね」
方針が決まったので通話を切る。
さて、ここから上手く話を持っていかないと。
「海原さん、貴方は誠一さんの為に秘密を守れますか?」
彼に説明した事をもう一度全て説明する。私が話しているうちに段々と顔が険しくなる。これは期待薄かな。と感じつつ説明を終える。
秘密を守れるか? という問に、返ってきた言葉に少し驚く。私達の関係に疑問を持ちつつも、幼馴染である彼が信じるのならば秘密は漏らさないと言ったのだ。
その言葉で、この二人は心の底から信頼しあってるんだなと感じる。
だったらこちらも精一杯の誠意を見せよう。
彼に向き直り、告白の返事の言葉を口にした。
返事を聞いた彼は丁寧にお辞儀をしながお礼を言い、幼馴染と嬉しさを分かち合っている。そんな彼に、お姉ちゃんから預かった連絡先の入った便箋を渡し、今日の私の役目を終える。
夕飯を作り終え、お姉ちゃんの帰りを待っていると、勢いよく玄関が開かれてお姉ちゃんがただいまも言わずにリビングに飛び込んできた。
「どうだった? ちゃんと付き合えた?」
というお姉ちゃんに、「ちゃんと話すから手洗いをちゃんとしてきてからね」と言うと、放たれた矢の如くリビングから出ていき、ドタドタと息を切らせながら戻ってきた。
「はぁはぁ、どうだったの?」
「お、落ち着いて。ちゃんとお付き合いする事になったから」
「よかった~。ということは海原さんも納得したって事だよね?」
「一応ね。彼に文句無いなら口を挟まないし、秘密も漏らさないって言ってくれたわ」
「だから言ったでしょ、誠一さんの幼馴染なら大丈夫だって」
「そうね、これで変な詮索されなくて済むわ」
そう言ってコーヒーを一口飲み、一息入れていると、「そうだ! 待ってないと!」と言ってお姉ちゃんは再びリビングから飛び出た。
部屋着に着替えたお姉ちゃんが戻ってくると、嬉しそうにスマホを握りしめていた。
「へへ~、いつ誠一さんから連絡来てもいいようにしておかないとね~」
そう言いながらスマホの画面を見つめるお姉ちゃんの顔は今まで見たことない程幸せそうだ。
「そういえばどうして便箋なの? 連絡先教えるだけならメモ用紙でも良かったんじゃない?」
「真希ちゃんは乙女度が足りないなぁ。メモ用紙だと味気ないでしょ? それにちょっとした手紙も入れてあるからね~」
「へ~、ラブレターってやつ?」
「んもう、
「はいはい、ごめんなさい。遅くなっちゃうから夕飯食べましょ」
それから、夕飯やお風呂の時もお姉ちゃんはスマホを離さなかった。テレビを見ている時もチラチラとスマホが気になり、最終的にはテレビを消してしまった。
夜も深まり、普段なら床に就く時間なのに、まだお姉ちゃんはスマホと睨めっこしている。
「お姉ちゃん、そろそろ寝ないと明日がキツイよ?」
「分かってる……」
「今日は色々あって疲れて寝ちゃったんじゃない? 明日の朝にでも連絡来るわよ」
「そうかなぁ……。うん、きっとそうだよね!」
「それじゃそろそろ寝ましょ」
「うん、おやすみ真希ちゃん」
「はい、おやすみ」
お姉ちゃんにはああ言ったけど私の内心は怒りでいっぱいだった。
どうして連絡寄越さないの? あんなに嬉しそうにしてた癖に!
翌朝、朝食の準備をしているとお姉ちゃんが泣きながら部屋から出て来た。
「ど、どうしたのお姉ちゃん!」
「うぅ、誠一さんから連絡来ないよぉ」
「まだ朝早いじゃない。きっとまだ寝てるのよ」
「うぅ、ぐすん」
「ほら、もうすぐ朝食できるから顔洗ってきて」
「……うん」
その後、朝食を済ませ学校へ行く時間になっても連絡が無く、今にも泣きそうなお姉ちゃんをどうにか納得させて学校へと送り出した。
登校中の私の心中は龍宮誠一への怒りで埋め尽くされていた。
だからだろう。学校で彼を見つけた途端、私の中の何かかキレた。
呑気に歩いている彼の前に周り込む。
「ちょっといいかしら?」
「え?」
「何も言わずに付いてきて頂戴」
そう言って人気のない教室へと彼を連れ込む。
何が起きたかと怯えている様子だがそんな事はお構いなしに話を進める。
「どうして昨日連絡しなかったの? ずっと待ってたのよ!」
「ご、ごめんなさい!」
「謝ってもしょうがないでしょ! どうして連絡しなかったか聞いてるの!」
「えっと、初めての彼女なのでどんな文章を送ったらいいか悩んでいる内に寝てしまって」
「はぁ? 何それ! それなら朝でもいいから連絡しなさいよ! ずっと待ってたんだからね!」
「ごめんなさい!」
「謝罪はいいから今すぐに連絡して。昨日は連絡出来なくてごめんなさいってね」
「い、今?」
「そうよ! 分かった?」
「はい!」
「ならいいわ。失礼したわね」
スマホを取り出すのを確認して教室から出る。まったく、あんな腑抜けだとは思わなかった。
しばらくしてお姉ちゃんからやっと連絡が来た! というメッセージが届いた。それと同時に「学校での接触禁止だったのに大丈夫だったの? って来たんだけど」と追伸が来た時、やってしまった! という自己嫌悪に襲われ、お姉ちゃんにどうやって説明しようかと頭を抱えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます