女子に全く興味のなかった俺が、女の子を助けたら運命の針が動き出した。~実は双子だなんて聞いてないよ~

白石マサル

第1話 運命の出逢い

 俺の名前は龍宮誠一たつみやせいいち、今年高校二年になったばかりなのだが、しばらく学校を休んでいた。その理由は俺の唯一の肉親だった祖父が亡くなったからだ。

 幼い頃に両親を亡くし、母方の祖父母に育てられてきた。父方の祖父母は既に他界していた為、施設に預けられそうになった俺を祖父が引き取ってくれた。

 祖父は厳しく、礼儀から学業、武道を徹底的に教え込まれた。泣き言は一切許されなかったが、祖父の居ない間に泣いていた。

 ある日、祖母が亡くなった。流石に祖母の死を受けたら祖父も弱音の一つでも吐くと思っていたが、粛々と葬儀等を済ませ、元の生活に戻った。この時は幼いながらも祖父には血も涙も無いと思っていた。


 しかし、俺が中学に上がる頃、たまたま祖父の部屋を訪れた際に発見したヨレヨレの手紙を読んで、祖父への想いが一変した。

 手紙は祖母から祖父宛で、亡くなる直前に書かれた物だった。

 内容は、只々祖父への感謝と愛で溢れかえっていた。特に印象的だったのが、結婚指輪の代わりに懐中時計を貰ってうれし泣きをしたら、不服と勘違いした祖父が宝石店へ駈け込もうとして、祖母に勘違いだと指摘された時に、祖父が腰を抜かしたという所だ。俺の知っている祖父の人物像からは考えられない。そして、自分が死んだからといって腑抜けたら許さないという事が書かれてあり、最後に「貴方という運命の人に出逢えて幸せでした。ありがとう」と締め括られていた。 

 所々、涙であろう水滴の跡があったのには胸が締め付けられた。 

 手紙をそっと元の場所に戻し、その場で目を瞑り、静かに誓った。


 『弱音は吐かない。じいちゃんみたいな立派な大人になるよ』


 それからの日々は祖父のシゴキにも弱音は一切吐かず、学業と稽古の日々が続いた。祖父からは何も言ってこなかったが、俺の心境の変化を感じ取っていたようだ。


 そんな祖父も先日息を引き取った。俺は祖母の時の祖父の様に淡々と葬儀を終わらせた。財産の相続等少しバタついたが、ようやく落ち着いた。

 祖父母の仏壇の前で手を合わせ、祖父の最期の言葉を思い出す。


『お前はもう立派な大人だ。教える事は全て教えた。あとは運命の女性を探しなさい。そして幸せな家庭を持て』


 運命の人……ばあちゃんの手紙にも書いてあった。きっとじいちゃんにとってもばあちゃんは運命の人だったんだろう。

 俺もじいちゃん達の様な家族を作るんだ。だからその為に何としても運命の人を探さないと!




「という訳で運命の女性ひとを探そうと思う!」

「何が『という訳』なんだよ」

「話を聞いてなかったのか武人? お前が休んでた時の話を聞きたいって言うから話したのに」

「いや、話は聞いてたが……運命の女性ひとを探すってマジで言ってんのか?」

「当たり前だろ! じいちゃんの遺言でもあるからな!」


 やれやれといった感じで武人は肩を竦ませる。

 海原武人うなばらたけととは俺がじいちゃん家に引き取られてからの所謂幼馴染だ。じいちゃんのシゴキがキツい時はよく武人に愚痴を聞いてもらったりもした。


「あのな、運命の女性を探すっていっても滅多に出逢えないから運命っていうんだぞ?」

「チッチッチッ、その辺はしっかり調べておいたさ」

「調べたって……運命の女性に出逢う方法をか?」

「ああ。明日学校休みだろ。ちょっと付き合ってくれ」

「明日は美咲とデートだよ。日曜ならつきあってやるよ」

「なら日曜の十三時に駅前のコンビニ集合な!」

「はぁ、わかったよ。嫌な予感しかしないんだがな」



 日曜になり、早く運命の女性と出会いたくて約束の三十分前に待ち合わせ場所に着いてしまった。ソワソワしながらコンビニを入ったり出たりを繰り返していると、ようやく武人が現れた。


「お、やっと来たな」

「別に遅刻はしてねぇよ。っつかどうやって運命の女性を見つける気だ?」

「とある情報によると曲がり角でぶつかった異性が運命の女性らしい」

「……は?」

「あとはヤンキーに絡まれてる女性を助けるのも有効的なんだってよ」

「おま、それってただの――いや、好きにしてくれ」


 武人が何か言いたそうだったが諦めたらしい。

 俺たちは場所を移動し、コンビニにほど近い住宅街までやってきた。聞いた話では丁字路でぶつかるのがミソらしいので近くの丁字路の角で人が来るのを待ち伏せる。

 人が歩いて来る気配を感じ、角から飛び出す。


 ドンッ!


「あいてっ!」

「うあっ!」


 上手くぶつかれた! さて、俺の運命の女性ひとはどんな人だ?


「いてて、どうもすみません」

「あ、いえ、こちらこそすみませんでした」


 俺がぶつかったのは大学生とおぼしき男だった。一部始終を見ていた武人は腹を抱えて笑っている。くそ! 笑っていられるのも今のうちだからな!


 その後何度も繰り返したが殆どが男性で、女性だったとしてもご年配の方だった。


「どうも申し訳ありませんでした!」

「いえいえ、私も注意力不足でしたから」


 そう言ってお婆さんは去っていった。その後姿を見送りつつ武人が肩を叩く。うう、情けない。

 この作戦は失敗だったのか? 一旦曲がり角作戦を止め、コンビニまで戻る。


「くそ、絶対運命の女性と出逢えると思ったのに!」

「だから言ったろ? そうそう運命の女性には出逢えないって」

「くっ、ま、まだだ! まだ試行回数が少ないだけなんだ!」

「お前……勉強出来るのに頭悪いよな」

「……お前は勉強悪いけどな」

「俺には美咲みさきがいるからいいけどな」

「ッ! 彼女持ちだからって調子に――」

「待て! 今女の子の悲鳴が聞こえなかったか?」

「ん? 確かに。言い争ってるような感じだな」

「コッチの方から聞こえるぞ!」


 声が聞こえた方へ行くと駅のロータリー横の路地から聞こえてくるのがわかった。

 武人と二人で路地に踏み込むと、そこには黒い車に無理やり乗せられそうになっている女の子が居た。

 その瞬間、考えるよりも早く身体が動き、あっという間に二人の暴漢の内の一人に肉薄した。突っ込んだ勢いをそのままに掌底を男の顎に叩き込む。男は脳震盪を起こしたのだろう、その場に倒れ込む。背後で拳を振りかぶる男に後ろ回し蹴りを顎先に当て、こちらもまた倒れ込んだ。型を崩さないまま様子を見て、起きないことを確認してから女の子の腕を掴んでその場から逃げ出した。


「ふう、ここまで来れば大丈夫だろ。交番も近くにあるし」

「まったく、お前は無茶しやがって」

「しょうがないだろ、身体が勝手に動いちゃうんだからさ」

「あ、あの……」


 じいちゃんから教わった武道が役に立って良かった。


「君、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」

「…………」


 救い出した女の子は俯いたまま何も話さない。いや、何処かを見てる……?


「っ!? ご、ごめん! 腕掴んだままだった」

「あっ」


 慌てて掴んでいた女の子の腕を離す。すると女の子が顔を上げた。


「っ!?」

「~~っ」


 目と目が合った瞬間、雷に打たれた様な衝撃を覚えた。

 か、可愛い! 黒の長い髪に茶色くて大きな瞳に長いまつ毛。スッと通った鼻筋にぷるっとした唇。歳は同じくらいだろうか? 今までの人生でこんなにも可憐な美少女は初めて見た。


「お、俺、龍宮誠一たつみやせいいちといいます。よろしくおねがいします!」

「えっと……神宮寺です」


 何やってんだ俺はあああぁぁぁ! 彼女ドン引きして固まってるじゃないかぁ!

 冷や汗ダラダラでどうやって挽回するか悩んでいると、武人がフォローに入った。


「ごめんねいきなり。コイツ馬鹿だからさ。気にしないで。ほら、行くぞ誠一」

「え? で、でも」

「でもじゃねぇよ! じゃあね神宮寺さん」


 武人に引きずられる様にその場を後にした。

 その後、武人にこっぴどく叱られたが、俺の頭の中には一つの事で埋め尽くされていた。


 あの女の子こそ運命の女性ひとだと!

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