ガチャ607回目:記者会見

 俺達の乗るプライベートジェットが日本にたどり着いたのは、夜の20時だった。あっちを出たのが夕方の18時頃で、その頃日本では14時間早いので、AM8時ごろ。そこから12時間かけてフライトして来たのでこの時間というわけだ。

 あの時アメリカに到着した時も思ったことだが、時差って本当に面倒臭い。つまるところ、カスミ達の通知は『696ダンジョン』周辺であれば21時前後に通達され、日本では朝の9時頃に通達があったわけだ。

 彼女達が夜更かしをしたからそんな時間になったのか、それとも鍵の入手を先に終えて、一晩明かして気合を入れてからコアにアクセスをしたのか。ちょっと気になるところだが、それはまた今度イズミに聞けばいいだろう。


「ああっ! 皆さん見てください! 今、アメリカの地に旅立った冒険者達が帰ってきました!」


 飛行機から降りると、無数のフラッシュが焚かれた。アイラから先んじてサングラスを受け取っていて正解だった。今なら平然と受け流せているが、コレが無かったら、絶対眩しすぎて顔が情けないことになっていたと思う。

 記者達も空気を読んでくれているのか、観客と一緒に遠巻きに距離を置いており、近づいてくる様子はなかった。

 まあ、唯一『楔システム』を起動できる俺の機嫌を損ねたらどうなるか分からないもんな。まあ、彼女たちに危害が加えられないなら、俺は温厚だと自負しているが。

 しっかし、こちらも見送りの時と比べれば数十倍以上の人達がいるな。軽く手を振ってみると歓声が上がる。


「うーん……」


 やっぱ、この感覚は全然慣れないな。


「ご主人様、如何なさいますか?」


 アイラが耳打ちしてくる。

 インタビューを受けるか、そのまま帰るかの提案だろう。まあ偉ぶる気はないし、ここは受けてもいいかな。


「では、ちゃんとした場を設けましょう。この場で受けるのは対外的にもお勧めできません」

「おう、任せる」


 アイラが端末を取り出し、何かを操作する。すると、俺に向けてフラッシュを浴びせていた記者達が突然足並みを揃えて全力で走って行った。あの統率取れた感じ、アイラはこうなることを予期して準備させてたな。

 まあ良いか。今は用意された場所へと向かおう。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして俺達は、空港の中に記者会見用として用意されていた部屋に入場する。そのままマイクが無数にある席に座り、再びフラッシュを浴びながら当たり障りのない質問に答えていった。


「アマチさん。今後のご予定はございますか?」

「まー、しばらくはのんびりして、その後は未定ですね」

「アマチさん。今回助力という形でアメリカの地でダンジョンを攻略した訳ですが、もし仮に他の国からも要請があれば参加されるのでしょうか?」

「絶対ではないですけど、その都度検討する形になると思います」

「アマチさん。彼の地のダンジョンは相当難易度の高い場所として、現地の人達から恐れられていると聞きました。それをたったの半月程度で攻略したわけですが、自信の程はいかほどありましたか?」

「いやー、自信とかは特に無かったですね。当たって砕けるとは言いませんけど、なるようになると思って過ごしてるので」

「アマチさん。私たちを含め、ファンの方々はあなたの快挙に、とても驚いています! かのダンジョンで、苦労したことなどはありますか」

「あー……。最終層に出現したダンジョンボスが、レベル500あったことですかねー」


 そうして時折記者達をざわつかせつつ、質問には順番に答えていく。ドラマでたまに見るような質問攻めみたいな光景を予想していたのだが、皆随分と礼儀正しいというか、なんなら順番や1社ごとの持ち時間が定められているかのような、統制の取れた感覚を受けた。

 後から聞いてみた話だが、記者会見という場は、基本的に挙手をして司会の人が指名する形で行われるそうだが、今回誰も挙手していないのだ。つまりはそういうことだろう。


「アマチさん。今回の遠征で貴重な食材やスキルなどを大量に発見・量産し、日本への流通を約束してくださいました。アマチさんなら他のダンジョンでも同様に、何かしらの大きな発見が可能なのではないかと私を含めファンの方々は期待しております。その点について一言お願いします」

「いやー、それは他のダンジョンに行ってみないとわからないですね」

 

 一番驚いたのは、やっぱりアレだよな。レポーターが全員女性なんだよな……。

 別に男のレポーターがいても良いと思うんだが、この辺り、誰かしらの思惑が走っている気がしてならない。ほぼほぼハーレムチームで、婚約者が11人もいるからって、女好きって訳でもなければ、男が視界に入るだけで機嫌が悪くなる訳でもないのにな……。


「ではアマチさん。最後に1つ宜しいでしょうか」


 そうして会見が順調に進んでいると、レポーターの1人が手を挙げた。今までの順番制とは違い、ここからはアドリブのようだが、誰も止める様子はない。フリートークタイムってやつかな?


「どうぞー」

「数時間前、とある日本のダンジョンが新たに攻略されたと、世界中に通達が行きました。ダンジョンの制圧と、それに伴う『楔エリア』の発生は、アマチさんこそが世界初だと思われていましたが、今回の通達場所とタイミングからして、2人目の攻略者が日本に誕生したと、誰もが考えています! この2人目の登場、アマチさんに思うところはありますでしょうか?」


 レポーターさんは、かなりの熱量を持って聞いてきた。他の記者の人達も、俺の言葉を待っているようで、固唾を飲んで見守っている。

 にしても、思うところね? そんなの1つしかないけど、この反応をするってことは……。


「あの通達は飛行機に乗ってる最中だったから、俺も情報がどこまで出ているか知らないんだけど、攻略者は名乗り出なかったの?」

「はい。ことがことですので、誰も冗談でも名乗りを上げていないのが現状です」

「ほーん」


 そうなのか。あいつら、別に黙ってる必要ないのに。俺に遠慮してるんだろうか?

 それとは別に、記者の人達や世間の人達は、恐らく別の心配をしているんだろうな。俺以外の誰かが、国内のダンジョンを1つ制圧した。それがもし、悪名高い征服王みたいな、悪い考えを持つ人物だったとしたら、どうなるのか……。そんな事を考えて、戦々恐々としているわけだ。

 なら、ここはさっさとネタバレをして、皆を安心させてやろう。


「まあ、思ってることを素直に言い表すと……」

「……」

「関西のダンジョンを攻略したのは、うちの第二パーティなんで、気にする必要ないですよ」


 そう伝えると、会場は驚愕の空気に包まれた。

 再会したら、目一杯褒めてあげないとな。

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近況ノートでも発表しましたが、書籍版第四巻の発売が決定しました。これからもレベルガチャの応援、よろしくお願いします!!

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