ガチャ512回目:キメラ討伐戦

 俺は全員にコイツの特性を伝え、作戦を伝えた。


「まあ要するに、魔力の回復が追いつかないくらい壊して壊して壊せ!」

「「「はい!!」」」

「「「了解!!」」」


 再び戦場に暴風が巻き起こり、奴が吸収し続ける霧は空高く噴き上げられ、散らされる。すると常に9999/9999を維持していた数値は、減ったり増えたりを繰り返すようになった。今のところ一番数値の減りが激しいのはミスティが頭を吹き飛ばした瞬間ではあるが……。

 これではまだ、足りない。


「アヤネは最大級の『炎魔法』をお見舞いして、奴が生み出す霧ごと蒸発させちまえ! エンリルとエスは、引き続き風で霧を吹き飛ばせ!」

「はいですわー!」

『ポポ!』

「少し本気を出すよ」


 戦場に吹き荒れる嵐の中、突如としてその上空に、小さな太陽が出現した。太陽は吹き上げられた霧を蒸発させつつキメラ目掛けて急降下してくる。


「プロミネンスフレア!」


『ジュッ!』


『ーーー!!』

『ーーー!!』


 キメラの全身が太陽に飲み込まれると、声にならない叫びで絶叫する。太陽は出現直後は3000もの数値があり、その数値は下がることなく顕現し続けている。代わりに隣に立つアヤネの魔力がゴリゴリと削られているのが直接視えた。

 恐らく、顕現だけでなく維持に大量の魔力を消耗させられているんだろう。奴の魔力も同様にガリガリと削られているが、このままではアヤネの方が先に削れてしまう。

 ならここは、今まで死蔵されて来たあのスキルの出番だろう。


「『魔力譲渡Ⅲ』」


 アヤネと俺との間に魔力的パスが繋がった。そしてアヤネに掛けられていた負担を俺が肩代わりする形となり、俺の魔力がガリガリと削られている感覚だった。


「旦那様、ありがとうございますわっ」

「俺の魔力ならいくらでも持ってけ」


 この『解析の魔眼』、自分の魔力残量が見れないのがネックだよなぁ。……いや、『視界共有』しながらとか、鏡に映った自分とかなら見れるか? まあ、戦闘中にそんなことしてる余裕はないけどな。

 そうしている間にも奴の魔力はガリゴリと削られ、ついには奴の魔力残量は底をついた。このまま炙り続ければ倒せるだろうが、それでは俺が気持ち良くない。

 アヤネに目配せをして剣を抜く。彼女はそれだけで全てを察して魔法を止めてくれた。時間をかければ再び霧を吸い取り無限に魔力を回復するだろうが、ここで終わらせる。


「フルブースト、『ダブル』!」


 全身に力が漲り、真横に俺そのものが出現した。自分に目配せをして、同時に駆ける。そしてキメラを左右から挟み込むようにして、必殺の一撃を叩き込んだ。


「『双連・無刃剣Ⅲ』!!」


『斬ッ!』


『グオォ……!』

『オォ……!』


 焼け焦げたキメラは全身がバラバラとなり、砕け散るようにして煙へと還った。


【レベルアップ】

【レベルが6から354に上昇しました】


【特殊モンスターが強化状態で討伐されました】

【スタンピード進行が完全にリセットされます】


「おお?」


 特大レベルアップも気になったが、『強化状態』という表記に加えて『完全にリセット』ときたか。となれば、現在この階層は7日分の猶予がある状態へとリセットされたと言うことになるわけか。

 まあ色々と気にはなるが、今は休もう。流石に疲れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 第二層の入口付近に戻って来た俺たちは、ひとまずキャンプを張って、昼食を摂るために集まっていた。


「皆、改めてお疲れ」


 流石に激戦の後ということもあって、彼女達に昼食の準備をさせるのは酷というものだ。なので保管していた出来合いの物をテーブルに並べ、それを囲んで労いの言葉を掛ける。

 そして昼食を終え箸休めをしているときに、俺は気になっていたことを確認することにした。


「なあエス、ここに戻ってくるまでにグリーン系統のモンスターと2種類ほど遭遇した訳だけど、やっぱりイエローもいたんだよな?」


 強化されたアレを倒したことで完全リセットになるというのは大きな発見ではあったが、それのせいで戦うモンスターの種類を減らしてしまうのは、俺の攻略主義に反すると言うか。……まあ、平たく言えば勿体無いことをしてしまったなと考えていた。


「ああ、もしかしてさっきから元気がないのって、疲れてるからとかじゃなくて、そっちの心配だったのかい?」

「まあ、そうだな。一応疲れてはいるけどな?」

「ん。ショウタらしい」

「はは、まったく兄さんは。その心配は要らないと言っておくよ」

「ん? どういうことだ?」

「確かにこの階層も、第一層同様に危険水域までスタンピードの進行度が進めば赤色が湧いて、レベルも増えて行く仕組みだけど、その中間存在の色が存在していないんだ。だから、この階層は最初から緑と赤の2色しかいないのさ」

「そうなのか」

「安心したかい?」

「ああ、一安心だ」


 なんだ、この階層には最初から2×3の6種類しかいなかったのか。

 なら落ち込む必要はないな。


「それで、どうするんだい? 今日は激戦だったし、また今度にするかい?」

「何言ってんだ。確かに激戦だったしヤバイ相手だったが、残ってるのはさっきのより格下のレア3匹とレアⅡ1匹だ。それで第二層も完全平和になるってんなら、今日やっちまえばいいだろ」


 長々と引き延ばす訳にもいかないからな。こういうのは早めに片付けておきたい。そう思っていると、マキが隣にやって来た。


「……ショウタさん、こっちを見てください」

「ん?」

「……ショウタさん、自分では気付いていないようですけど、疲れが溜まっていますね。あまり無茶をしては後に響きますし、だからと言って二層の残りをそのままにしていては気が休まらないでしょう。ですので、第二層は今日片付けてしまうとして、明日はお休みにしましょう」

「休み?」

「そうです。今のショウタさんには必要な事です」


 マキにしては珍しく、語気を強めにして言ってきた。普段そんなことしないマキがそう言ってくるって事は、よっぽどのことだな。やっぱ、昨日のアレが心に引っかかり続けてるのか……?


「……わかった。明日は休みにしよう。悪いなエス、第五層に辿り着くのは少し先になりそうだ」

「構わないよ。むしろ想定より攻略が早すぎて驚いているくらいだし、もっとゆっくりでもいいんだよ。第五層の兆候も、昨日確認する限りでは今日明日で暴走するような様子じゃないみたいだし。それに、最悪階層スタンピードが起きても、僕と兄さん達がいればきっと対処できるさ」

「だな」


 ……でも、エスはこう言ってくれてるけど、階層スタンピードを起こすと1段階巻き戻っちまうんだよな? そうなると、やっぱ出現する敵の種類に影響が出るかもだし、スタンピードが起きる前には到達しちゃいたいな。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る