ガチャ482回目:赤い紋章

 『レッドハイゴリラ』を討伐してすぐに出現したメッセージ。

 あれの意味は文字通りなんだろうけど、そもそもあいつ、特殊モンスターだったのか。まあ、必要とする『運』がとんでもなく高いところから考えても、倒さなくても攻略はできるが『運』特化型の人間に対するボーナスモンスター、みたいな役割なのかもしれないな。


「さっきのメッセージ、皆にも見えた?」


 全員が頷いたのを確認し、マップを展開する。

 すると、他の冒険者が戦っているモンスターは、レッドエテモンキーらしくタップすると反応はあるが、それ以外のフィールドや森にいるモンスターはタップしても反応が無かった。

 メッセージを見たときは、スタンピードの進行度が下がったことでレベルが下がったものだと思っていたが、それならタップすれば反応を示すはず。となるとまさか、モンスターの種類が変わったのか?


「エス。スタンピードの進行度を判別する方法、他にもあるようなことを言ってたが、レッドエテモンキーのレベルだけじゃなく、その存在自体が危惧すべき対象だったということか?」

「正解だよ兄さん。本来は、各森に出現している群れを殲滅することでに戻せるんだけど、まさかレアモンスターを討伐する事でも強制的に戻せるなんてね」

「ん。ショウタすごい」

「ちなみに本来の手段で進行度を引き戻した場合通知は行かないから、皆驚いてると思うよ。まあ昨日の今日だから、誰が犯人かは言わなくても察してくれていそうだけどね」

「まあそれは良いとして……」


 気になっている点がいくつかある。

 まず、全てが別のモンスターになってしまった以上、『レッドマントヒヒ』の強化体とは戦えない事を意味していた。そして、別種のモンスターに変わったのならば、レアモンスターも全て別種が出てくる可能性が高い。

 俺の頭はもう、次の獲物へとシフトしかけていた。


「ご主人様、少しお待ちを」

「……む?」


 ドロップアイテムをすべて回収し、中身を確認していたアイラが待ったをかけた。本来ドロップアイテムは、全部終わってから一度に清算する流れではあるが……。アイラもそれは重々承知しているし、俺の集中を切らせる事は普段はしないはず。

 だが今回は、それよりも優先したい何かがあったんだろう。


「どうした?」

「先ほどのレアⅡが落としたドロップアイテムなのですが、どうにも不思議な雰囲気を放っておりまして。『鑑定』しても詳細が見えない為、ご主人様には真っ先に確認して頂いた方が良いかと判断しました」

「へぇ。どれどれ……」


 アイラに渡されたのは先ほど『レッドハイゴリラ』が持っていた、ゴリラが描かれた赤い紋章だった。


 名称:赤の紋章【Ⅰ】

 品格:≪遺産≫レガシー

 種類:アーティファクト

 説明:特殊モンスター『レッドハイゴリラ』の討伐報酬。使用する事で696ダンジョン第二階層へのアクセスを可能とする。何度でも使用可能。

 ★機能の一部が封印されている。


「ほぉ?」


 これは……当たりだな。

 第二層への移動ギミックがどんなものかはわからないが、面倒ならこれですっ飛ばす事も可能な訳だ。なるほど、やっぱりあの『レッドハイゴリラ』は、最初に想像した通り、『運』の要求値が異常に高い代わりに、ボーナスモンスターみたいな存在なのかもしれないな。見つけられたらボーナスみたいな。

 ただそうなってくると、『ダンジョンボス』に挑むのにレアの討伐は必要ない可能性が出てくるか……?


「まさかのギミック無視アイテムが出ちゃったのね。流石ショウタ君」

「ショウタさん、それはどうされるんですか?」

「んー……。第一層を完全攻略してから考えるかな。多分これ、1人用だと思うし」


 全員で移動できないなら、人数分確保するのもありかもしれないが、そうなるとまたレッドエテモンキーが湧き始めるまで放置するしかない訳で。それはちょっとな……。場合によっては変化したモンスターのレアⅡも同様の物を落とすかもしれないし、そこも要チェックだ。

 なので一旦放置しようと思う。


「旦那様、どうやらこの森と、最初の森は再出現していないみたいですわ」

「よし、なら次に近い森まで移動だ」


 ガチャを引けるレベルにはなったが、結果的にレベルが結構ギリギリだったからな。変に早い段階で引いて、低レベルボーナスが受けられずに回せないなんてことになったら目も当てられない。それにレアとレアⅡの間の待ち時間が10分以上あるのなら、そのタイミングで引くのがちょうど良いだろう。だから今はガチャを我慢して移動だ。

 そうして移動した俺達は、3つ目の森で新たに出現したモンスターと遭遇した。


*****

名前:イエローエテモンキー

レベル:15

腕力:130

器用:220

頑丈:80

俊敏:200

魔力:200

知力:50

運:なし


アーツスキル】木登り


装備:なし

ドロップ:イエローバナナ

魔石:小

*****


 レベルもステータスもスキルもまるで変化ないようだが、体毛とドロップ、それから表情が違うようだった。

 赤は怒り爆発! って顔してたのに、こっちはしかめっ面だな。怒る寸前って感じじゃないか。しかもそれが黄色となると……。まさか……。


「なあエス」

「なんだい兄さん」

「もしかして、もう1段階があるのか?」

「うん、正解だよ兄さん。すごい洞察力だ、よくわかったね」

「……ちなみに、色と表情は?」

「色は緑で、表情も温和な物さ」

「やっぱり信号機かよ!」


 赤は危険、黄色はヤバイみたいな顔してんだもん。そんな気はしてたんだよなぁ……。


「じゃあドロップも緑のバナナなのか。それ、完全に熟してない奴じゃん」

「ん。でも一番美味しい」

「マジで?」

『プル!!』


 イリスが食べてみたいとはしゃぐ。赤は『ロシアンバナナ』なんて異名もあるくらい当たり外れが激しいのに、緑は美味しいとなると……。


「じゃあこの黄色は?」

「市販のバナナよりちょっと糖度が高いかな。イエローエテモンキーが湧いてる期間が一番長いしハズレもないから、外の市場でも取引が盛んだよ」

「長いって、どういうことだ?」

「ああ、実は階層スタンピードを起こさせないよう躍起になっているのは第二層以降の話でね。第一層は、時折赤の状態で放置してわざと階層スタンピードを起こさせてるんだ。それで外に出てくるモンスターも、結局レッドエテモンキーだけだし、総力を挙げて第一層を一掃するよりも楽に対処できる。そうしてダンジョンにモンスターを吐かせきると、少し進行度が巻き戻ってイエローエテモンキーのゾーンにまで回復するんだ」

「緑までは戻らないのか」

「ああ、緑は討伐を本気で頑張って進めないと戻らないみたいでね。だから緑のバナナが拝めるのは本当に稀なんだ。それで、階層スタンピードを起こしてから丸2日何もせず放置すればまた赤になり、追加で1日放置で階層スタンピードを起こすって流れかな。まあ連続して第一層のスタンピードを起こすわけにはいかないから、それなりに討伐を維持してイエローバナナで市場を賑わせるんだ。ただ、普段第一層に割り当てている戦力じゃ、その内処理が間に合わなくなって赤に変化してしまうんだよね。その上すぐにスタンピードに対応できる戦力や地雷を用意はできないから、やっぱりこの赤の状態もある程度はもたせるのがいつもの流れだったんだけど……」

「けど?」

「今回は、昨日の模擬戦が響いてしまったみたいだね。多分昨日の観客のほとんどは、本来第一層で狩りをしてダンジョンを消耗させる役割の人達だったんじゃないかな」

「ああ……なるほど」


 そりゃ、掃除係が数時間でも手を止めたりしたら、限界の近かった第一層は暴走間近に陥るか。


「話は戻すけど、前にドロップが渋いって言ったよね。あれは第一層では赤だけじゃなく緑の事も指してるんだ。僕達としては一番美味しい緑が欲しいけど、それをするためにはかなりの戦力を投入してなくちゃいけない上に、維持するのも大変だ。なにせ、本当に戦力が欲しいのは第二層以降だからね」

「ん。常に人手不足。だから緑が拝めるのは数ヶ月おきに数日だけ」

「なるほど」


 大変そうだなぁと思ってると、ミスティが目を輝かせながら見上げて来た。その足元にはイリスがいる。


「でも、ショウタなら……」

『プル!』

「まあ、緑に戻せるかもな?」

「ん。期待してる」

『プルプル!』


 なんか目的が変わってるような気もするが、まあ良いか。とにかくこのまま、黄色のレアⅡまで目指してみますかね。

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