ガチャ454回目:デートウィーク⑥

【休暇十四日目】


「おはようございます、兄上。本日はよろしくお願いします」

「ああ。よろしくな」


 ハヅキとのデートは、他の子達とは些か趣が異なっていた。街をぶらついたりレジャー施設で遊んだりといったものではなく、彼女の生家である道場で手合わせをするというものだった。


「しかし、良いのか? 他の子達のように遊ばなくて」

「実を言いますと、某もハル殿同様、外で遊ぶという習慣があまりないものでして。当初はハル殿と一緒に遊びに行くという選択肢もあったのです」

「そうなのか? でも2人一緒が当たり前なレンカとイリーナが特別なだけで、俺としては個別にデートしたいから、今の形が望ましいな」

「やはりそうでしたか。この度はハル殿が、先日兄上からスキルオーブを融資してもらった件で、精一杯尽くしたいと覚悟を決めた事で、別行動となったのです。結果的に兄上の望む形になってなによりです。……先日、ハル殿は尽くして下さいましたか?」

「ああ、まあ……。そこは本人から聞いてくれ」

「ふふ、承知いたしました」


 ……おっと、危ない。話が終わったと思って別の話にシフトしてしまいそうになった。


「んで、結局ハヅキのデートがこうなった理由は?」

「イズミ殿と相談した結果、ですね。といっても、某としても兄上と手合わせしたかったのは事実ですので、ご安心ください」

「なら良いんだけど」


 そんな話をしつつ、俺達は懐かしの道場へと到着し、門をくぐる。

 カスミとのデートの際にも顔を出したが、やっぱりここは気が引き締まるな。ステータスが世界に出現した10年前は、思い出す事すら苦痛なくらいのトラウマな出来事が多かった結果、記憶に綻びがあるんだが……。ここで頑張っていた頃はぼんやりとだがまだ残っている。

 思えば、俺が『アンラッキーホール』を卒業して以降、各地のダンジョンで戦えてこれたのは、爆発的に上昇したステータスと、各種戦闘スキル、それから我流の戦法が上手く嚙み合ったものだと思っていたが……。恐らくその根本には、ここでの修行の日々があったからこそだろう。

 ステータス現出後は、体力も扱える技量も地に落ち、剣もまともに扱えなくなってしまっていたが、それでも身体は覚えていてくれたんだろう。


『おかえりなさいませ、姫!』

「姫はやめてくれと言っているでしょう。今日は某の婚約者殿が来ています。失礼のないように」

『はっ!!』


 うわぁ……。

 門下生と思われる道着姿の男達が、一列に並んで頭を下げている。任侠映画かな?

 でも、それをやっているのは一部の人達だけで、他の門下生っぽい人達はそれを遠巻きに見ていた。

 この頭を下げてる連中、ハヅキを慕っているのか俺には畏敬と若干の敵意が感じるところからして、ファンというか……。

 一応本人に確認しておくか。


「ハヅキ、こいつらってお前の舎弟かなにかか?」

「いえ、弟弟子もおりますが兄弟子もいるので、少し異なります。彼らが言うに親衛隊だそうです」

「まあ確かに、出会ってすぐの頃のお前よりちょっと強い人も混じってるもんな」


 親衛隊の強さはバラバラだが、最大値をレベルでいえば、大体100ちょいくらいか。『真鑑定』で覗き見るのは失礼だからしないけども、幾度となく強い相手と戦ってきたからか、普通に視るだけで何となく相手の力量が測れるようになってきていた。

 まあ格下限定だから、エスやミスティの実力は測れてないけど。


「おお、わかりますか兄上。流石でございます」

「まあでも、ハヅキはそれを軽々と追い抜いちゃったね」

「あれは反則の技で御座いますので。……他の方々には、していないのですよね?」

「まあ、お前らが特別だっただけで、他の人にしようとは思わないよ」

「兄上……」


 やるとしたら、美人なままでいてほしい義母さん達辺りかな?

 つっても、あの2人は支部長なんて立ち位置だし、俺が支援するまでもなく高レベルだろうから、どっちかっていうとこっち組の義母さん達か。ハヅキのお母さんは美人さんだったけど、多分あれはレベル補正も入っているオーラを感じた。けどレンカとイリーナのところは、素の美人って感じだったかな。

 やるならああいったところだろうか。


「おお、来たかショウタ殿」

「ジュウベエさん。今日は1日よろしくお願いします」


 道場に入ると、沢山の門下生と共に道着姿の男に迎えられた。

 白峰 十兵衛。ハヅキの父であり、現『魔闘流』の師範代。かつ、『魔闘流』第二エリアの担当であり、旧『白峰流』の師範でもある。俺は彼の門下生でもあり、愛娘の婿でもあり……中々複雑な関係とも言えた。


「うむ。今日はハヅキとの手合わせをすると聞き及んでいるが、そのついでに修練もしたいと聞いている。間違いないか?」

「はい。本当はデートのつもりだったんですけど、ハヅキが希望したのがこういう過ごし方でしたので」

「承知した。……しかしハヅキよ、お前も年頃の女だろう。本当にこれでいいのか?」

「身体を重ねた以上、某はこの御方に未来永劫仕える所存。であるならば、これも某なりに有意義な使い方なのです」


 『身体を重ねた』の部分に、一部門下生から殺気が漏れるが、ジュウベエさんが一睨みするとすぐ霧散した。


「まあ、今回はハヅキに任せたので、俺は構わないですよ」

「そうか。ではすまんが、手合わせの前に弟子たちの相手をしてやってくれぬか」

「わかりました。準備運動がてらお相手しますよ」


 ハヅキを貰っていく以上、兄弟子として、弟弟子達の鬱憤は晴らしてやんないとな。道着に着替えた俺は、そこから文字通りの百人組み手をすることとなった。

 こちらは無手、相手は竹刀。最初は2人同時から始まり、高段の者からは1対1で相対する。最後の〆にハヅキが登場したり、その後ジュウベエさんが参戦して来たりと大変だったが楽しくもあった。やっぱり俺、戦うのが好きなのかもしれない。

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