第十四.五章 デートウィーク

ガチャ447回目:デートウィーク①

 『ハートダンジョン』を脱出した俺たちは、即座に休暇、というわけにいかず、再び世間の荒波にもみくちゃにされる事となった。

 流れとしては、俺が『ダンジョンコア』に会いに行った瞬間、アキとマキ、それからアイラの3名が全力ダッシュでダンジョンを脱出。そして各々の伝手で各支部長に連絡をし、この後やってくる騒動について報告。そして関係各所なんかに先んじて連絡をしてから数十分後、前回同様の通知が世界中に伝達されたのだった。


 内容としては、以下。

 1:ハートダンジョンのスタンピードが完全停止

 2:第三層のモンスター、永遠に出現しないよう変更

 3:第四層のモンスター、出現エリア、および出現条件の変更


 特に3番は、具体的にはホーリーナイトアントを卵からだけでなく通常モンスターとして再配置し、産卵場以外にも出現するように変更した。また、第三層から第五層への最短直通ルートをセーフエリアとして再設定し、アリは今後一切出現しない+引き連れてしまっても入ってこれないようにした。

 それに合わせて、更新したモンスターの分布図と詳細な地図情報を併せて公開し、今後の『ハートダンジョン』運営を円滑にできるようサポートもしたのだった。


 それが終わってからは、長期休暇という名のデートウィークが待っていた訳だが……。デートにどこへ行くかとか、着ていく服はどうするのだとか、まるでわからない俺はそっくりそのまま彼女達に相談してみた。すると、それは想定内どころか、既に彼女達によって緻密なスケジュールが立てられていた。

 その予定表を見て、俺にできることはその一日一日を皆に楽しんでもらう事に専念する事だと察したので、身を任せる事にしたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



【休暇一日目】

 記者会見から数日後。

 まずは着ていくものを用意するところから、ということで全員で買い物に来ていた。


「それにしてもお兄様のハーレムチームは、皆仲良しでいいですね☆」

「そうだなー」


 コーディネート係の一人であるイズミが、カスミ達がいるであろう上層フロアを見上げながら微笑んだ。そして様々な男性服と睨めっこしていたレンカも、ぱっと顔を上げる。


「そうだねー。他のとこだと、それなりにギスるって話を聞くもん!」

「ふふ、ここにいる皆さんとショウタさんとの関係は、男女間のソレだけではないですから」

「そーそー。あたし達はライバルでありつつも、ショウタ君を支える対等な仲間でもあるんだもん。それに、争うなんて無駄なことしなくても、ショウタ君は全員を愛してくれるだけの甲斐性があるわ」

「そうですね。そこがあったからこそ、あたし達もお兄様のハーレム入りに納得したわけですし☆」


 今回の買い物1つとっても、かなり独特だった。

 まず、デートに行く本人と俺は、互いに『当日着ていく服を見てはならない』というルールの元、別行動をしていた。女性陣は仲の良いメンバーと互いに着ていく服を相談し合い、その間他の子達は、現在服選びをしている面々のデートに相応しい俺の衣装コーデを受け持つという流れだった。

 組み合わせとしては以下。


 『アキ・マキ』:『アヤネ、アイラ』

 『イズミ』:『カスミ・ハル・ハヅキ』

 『レンカ』:『イリーナ』


 なので、今のターンが終わればメンバーを交代して、それぞれの組み合わせ相手が改めて俺の衣装コーデを考えてくれるという話だ。

 ちなみにミスティは、デート服に関しては無頓着で、「適当で良いよ」と言ってしまい、見かねたカスミやアヤネに強制連行されてしまった。たぶん、一緒に上階で着せ替え人形にさせられているんだろう。

 南無。


 流石にエスは女性服売り場にまで入るつもりはないのか、上層のベンチに腰かけているようだ。気配でわかる。そういや、エスには彼女とかいないんだろうか? あいつは見た目も中身もイケメンだ。向こうでも専属はいるはずだし、もしかしたら向こうに到着したら紹介してくれるかもなー。なんて。



◇◇◇◇◇◇◇◇



【休暇二日目】

 このデートウィーク、スケジュールとしては割とゆったりとしたもので、最初の4人は1泊2日のプチ旅行を各人で回していくというものだった。

 そんな記念すべき最初のデートは、一番付き合いのあるアキからスタートだ。ここはジャンケンとかそういうのではなく、話し合いで決めた事らしい。俺としても例の件でアキを優先したかったから都合がよかった。

 今まで5人で出かけた上で2人っきりになる場面は何度かあったが、最初から2人だけで出かけることなんて無かったからか、アキは変に緊張してしまっていた。ただ、それは時間が解決してくれたらしく、現地に到着する頃には吹っ切れた様子だったが。

 ちなみに移動手段についてだが、当初はアイラに頼んだりするのも想定していたが、休暇に頼むのもなんだなということで、普通に電車とタクシーを使うことにした。これは改めて知ったのだが、レベルアップによるオーラというのは、顔が見えず、声が聞こえなければかなり軽減されるらしい。

 なので、2人してサングラスとマスクでひたすらダンマリという、いかにもな格好と雰囲気を維持すれば、一般の人達に影響を与えることはそうそうないらしい。まあ、顔を覗き込んだりふとした拍子に見えてしまうこともあるし、小声で会話しているのが聞こえてしまう事もあるだろうが、それは見聞きしようとして来た奴の責任だし、キリがないので諦める。


 この国に限った話ではないが、レベルが100を超える冒険者はまだ数えるほどしかいない。その為、冒険者の施設が多く集まる地域や屋外はさておき、一般の人も多くいる電車などの交通機関では、トラブルを防ぐ意味でも冒険者はなるべく大人しくしておくという暗黙のルールがあったりする。


「到着ー!」


 現地に到着すると、アキは大きく伸びをした。やっぱりいつもと違って窮屈だったようだ。

 こうなるのなら、帰りはタクシーにしようかな。


「それでアキ、今日は何するの?」

「んっふふー。今日の予定は酒蔵巡りよ!」

「酒蔵巡り……? ってなんだ?」

「ま、簡単に言えば街を散策しながら、お酒やらソフトクリームやらを堪能するツアーみたいなものね。普通はガイドさんを雇うんだけど、あたし達について来れる人はいないだろうから、予約に沿ってのんびり周りましょ」

「おっけー。アキってこういうのに詳しいのか?」

「ううん、あたしも初めてなの。実は前々から来てみたくはあったんだけど、色々とあって来れなかったんだー」


 その色々を聞いてみると、納得の理由だった。

 まず、どこかの誰かさんが毎日休みなく『アンラッキーホール』に来るせいで、まともな休みが取れなかったという話。

 そして一番の理由としては、アキ自身、お酒が好きでもすぐに酔いが回るところがあり、また深酒すると記憶も飛ぶ問題があるので、ミキ義母さんからツアー参加を禁止されていたらしい。まあ、いくらアキが強くても、彼女は女の子だし、心配になるよな。

 けどそれは以前の話。今の俺たちには『酒耐性』のスキルがある。俺は『酒耐性Lv5』、アキも『酒耐性Lv4』を持っているので、今回は義母さんも快く許可してくれたようだ。まあ俺自身、スキルがなくても、最初の祝勝会の時からそれなりに強くて、2人を介護しながら連れて帰ったという実績があるから、ミキお義母さんも許可をくれたのかもしれないが。


「ショウタ君、こっちこっち!」

「ああ!」


 ま、今日は泊まり込みのデートだし、アキが潰れるまで飲んでもお世話するけどね。

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