ガチャ376回目:義母からの忠告

 会議を終えて一息つく俺のところに、端末から着信音が流れた。俺の番号を知るものは少ない。彼女達の誰かからか、変わり種でシュウさんくらいだろうと、俺は画面を見ずに通話開始ボタンを……押してしまった。


「もしもーし」

『こんにちはアマチさん。さっきはお疲れ様』

「んぇっ!?」


 その声は忘れるはずもない。魅力的な女性は誰かと問われれば、彼女達に並んでランクインしてしまうサクヤお義母さんだった。1対1だと電話越しでも少し緊張してしまう。


「ど、どうして……」


 協会から配布されるこの端末は、基本的に登録者同士でしか通話が出来ないので、身内の誰かだと思っていたんだが、まさかサクヤお義母さんだとは……。

 そういえば、所属ダンジョンに入ったことのある冒険者であれば、支部長権限で冒険者の端末IDを知れるって話だったよな。けど待てよ、行ったことのあるダンジョンで考えると、俺のIDを知ってるのはミキ義母さんとヨウコさんとリュウさんの3人だけ……。まさか非合法な手段で……。


『ふふ、安心して。ミキ姉さんから教えてもらったのよ』

「あ、ああ……そうなんですね」

『それで実は、アマチさんに伝えたいことがあって連絡したの。少しお時間を頂けるかしら?』

「な、なんでしょう……?」


 やっぱり『中級ダンジョン』を選ばなかったこと怒ってるのかな?


『以前話題に上がった各国の『Sランク冒険者』の話、覚えてるかしら』

「ああ、はい。なんでも俺を勧誘するために、わざわざ来るとかなんとかって。……そういえば来なかったですね」

『ええ。けれど世界中で未発見だった海底ダンジョンがスタンピードを起こしてしまったでしょう? それもあって、彼らはその平定に駆り出され、来日は延期したのよ。私用で重要な戦力である『Sランク冒険者』を動かして、各国の危機に対応させないじゃ格好がつかないものね』

「なるほど?」

『そうして手をこまねいているうちに、アマチさんは早々に『Sランク冒険者』の仲間入り。更には世界初のモンスターを弾く結界を作動させたダンジョン攻略の最前線を行く者となったわ』


 なんだかサクヤお義母さんに褒められるとくすぐったいな。


『だから彼らも、アプローチを変える必要があったの。今度は仲間に迎え入れるためじゃなく、アマチさんとの関係構築を優先するつもりで来るそうよ』

「関係構築……ですか。お友達になりたいってことですか?」


 まあ仲良くなっておけば、自国がピンチの時に手伝ってくれるかもという打算でだろうか?

 今の時代、国外どころか別のエリアのダンジョン情報すら詳細は中々入ってこないからな。国外のダンジョンがどんな風になってるのか気になるところではあるが。


『甘いわアマチさん。先日あなたが送ってくれた『キラーハイブの特濃蜜』よりも甘いわ』

「えぇー……?」

『彼らは全員……。いえ、1人を除いて、あなたとの婚姻関係を望んでるのよ』

「……は?」

『まあ、本人が強く望んでる場合もあれば、上からの命令で仕方なくという子もいるでしょうけれど』


 婚姻……?

 というとあれか? 最初にアヤネと会った時と同じようなノリでやってくると言う事か!?

 しかも、各国の『Sランク冒険者』やその上層部が!?


『私としては、今の4人であれば、家格も知名度もレベルも、申し分ないとは思ってるわ。仲が良いのも知っているし、引き裂くつもりもない。それでも、先日あなたが成した偉業を継ぐ子は、それだけじゃ足りないわ。あの子達が自発的に6人ほど追加人員を見繕ってくれているのはありがたいけれどね。もっといて欲しいと世界が思うのも仕方のないことなのよ。それだけ、この世界は疲弊しているわ』


 追加の6人という言葉は少し引っかかるが、そこは言及すると墓穴を掘りそうだ。今は流しておこう。


「そんなに切羽詰まってるんですか? 俺の周りではそんな空気、微塵も感じないですけど……」

『国民に不安を覚えさせないよう言論統制しているもの。アマチさんがそう思ってくれているなら、私の仕事は成功していると言えるわね。この国はダンジョンの数こそ世界トップレベルで保有しているけど、今まで既存のダンジョンから2回以上のスタンピードを起こすことも、高レベルの冒険者の命も散らすこともなく、なんとか維持ができている国は稀有なのよ』


 ……知らなかった。国外はそんなことになっているのか。


『と言っても、他の国々も初期の頃の初動の遅さを取り戻しつつあるわ。ただ、このままひっきりなしにダンジョンが増え続けた場合、数十年後には人類のキャパを超えるのは間違いないでしょう。だから早急に対処するための何かを、世界は切望していたのよ』


 確かに、毎年のようにダンジョンが100個ずつ増え続けている現状、それが際限なく続いた場合、世界は平和を維持することが出来なくなる。


『それと同時に別の問題もあったの。実はトロフィー持ちは世界各地に、それなりの数がいるの。けれど、『ホルダー』にまで辿り着けた人間は一握りしかいないわ』

「やっぱり居るんですね。俺以外にも管理者が」

『ええ。そしてそれは平和の象徴であると同時に、支配者の証と呼べるもの。アマチさんがどのようにして各地のダンジョンで『管理者の鍵』を入手したのか、手段は聞いていませんが、どれも一筋縄では行かないものだったのでしょう。そんなアマチさんに質問です。外国のダンジョンで同様に鍵を入手することは可能だと思いますか?』

「……方法が同じなら、時間さえかければなんとかなりますし、別の方法でも調べて行けばそのうち判明すると思います」


 正直言えば、鍵を集めるだけなら、ダンジョンがスタンピードが起きてくれたら最速で獲得出来ると思ってる。だから毎回、『ダンジョンコア』には自発的に引き起こせるか聞いてるくらいだしな。

 まあでも、街中にあるダンジョンでそんなことしたら大変な事になるのは目に見えてるけど。


『素晴らしいですね。ですがそれは同時に、『ホルダー』を持たない国は、そういった存在を持つ国に頭を下げてお願いをするしかないということなのです。それがどう言った結果になるか、想像出来ますか?』

「それは……」


 面白くない話だな。見返りに何を要求されるか分かったもんじゃないし、『ホルダー』保有国とそうでない国。更には後者の中からも、上納の差で優劣がつけられるかもしれない。

 地獄のようなピラミッドの完成だ。


『……理解してくれたようで嬉しいわ。そして、アマチさんだけでなく、その大事な人達も想像を超える速度で強くなってくれて、本当に安心しました。外の連中の中には、先月辺りから誘拐目的で潜入してくる人員が送られて来たりしていたの。私の方でもほとんどのだけれど、時折包囲網を抜けるのがいて……。けど、そんな連中もあなたやあなたの大事な人たちの実力を遠目から見て、手を出せずにすごすごと帰って行ったわ』

「そんな事があったんですか」

『他にも侵入者のエピソードはあるけれど、アイラには全部伝えてあるから、知りたかったら聞いてちょうだい』

「じゃあ、俺との関係を求めてくる人たちの国も、『ホルダー』がいないってことですか?」

『いいえ、その限りじゃないわ。例えばアメリカには『ホルダー』が確認されているもの。ただ、あの国から来る『雷鳴の魔女』は派閥が違うみたいね。『スピードスター』は来日予定の『Sランク冒険者』の中で唯一男性だけど、所属は不明なの』

「なるほど」


 同じ国でも所属なんてあるのか。どの世界も政治が絡むとめんどうそうだな……。

 そういうのはうちの彼女達や頼れる義母さん達に任せて、俺はダンジョン攻略に勤しむとするか。

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