ガチャ364回目:巻き込み事故

 意識が覚醒し、視界が晴れるとそこにはいつぶりかの何も無い草原が広がっていた。ここの宝箱も第二と第四と同じく強化体との乱戦で得られるタイプのようで良かった。もしあの進化したマップですら探知不可能な隠し宝箱があるとなれば、探索にいったい何日かかるやら分からないからな。

 まあ第一層と同じ場合だったなら、赤点の中から3種とはまた別の特殊モンスターを探し続けるゲームが始まりそうではあるが。


「ショウタさんっ」

「旦那様ー」


 2人がいつも以上にヒシっとくっついて来る。


「どうし……そんなに寂しかった?」

「……ちょっとだけ」

「えへへ」

「あー。あたしもー」

「では私も」


 上から覆い被さるようにアキとアイラもくっついて来る。たった数時間だってのにな。アイラは空気を読んだだけっぽいが。

 まあいつも一緒だったから、急に知らない子達が増えて困惑してるのか……いや、単にくっ付きたかっただけだな。


『ゴゴー』

「ん?」

『ゴ。ゴゴ』

『ポポ』

「えっ?」


 呼びかけられ振り返ると、エンキが横へとズレた。


「おいおいマジか」


 巨大な体に隠れて見えずにいた存在が、そこにいた。


「……えっ!? な、何ここ!?」

「さ、さっきまで山にいたはずじゃ……」

「えー……。ボク、夢でも見てるのー?」

「ちょっとお兄様、どういうことよー!」


 どうやらカスミチームの全員も転移に巻き込まれてしまったらしい。まあ、どのくらいの距離にいる人間が同時にワープするか明確に分かってなかったからな……。彼女達の存在に気づいてアキとマキが慌てて離れようとするが、アイラと俺が離さないため動けずにいた。

 しかし、さっきはハルが10メートルくらい離れてくれていたけど、それじゃ足りなかったようだな。

 詳細は今度、ダンジョンコアに聞いてみるか。


「あっ、お兄様。申し訳ありません」

「ハルが謝る必要はないさ。俺もどれくらいの距離が有効範囲かよく分かってなくてさ」

「それでお兄様? 説明、してくれますよね?☆」


 イズミが圧を強めながら詰め寄ってきた。


「おー、良いぞ。けど、この件は一部の支部長にしか説明していないくらいの秘匿事項だけど、知る覚悟は良いか?」

「ぇうっ!?」


 逆に凄んでみるとイズミは一歩下がった。すると代わりにカスミがビシッと挙手をした。


「さ、作戦タイム!」

「うむ。許可するー」


 カスミ達が円陣を組んでゴニョゴニョし始める。

 といっても、俺の聴覚をもってすれば聞き耳を立てずとも聴こえてしまう声量だったが。


「それで、どうする訳?」

「例え知らないままでも、お兄様であればどんな厄災からでも守ってくださいますわ」

「知った上で守られるか、知らないまま守られるかだね」

「というかボク達も、レベルだけは立派になったと思うけど、戦っちゃダメなのかな?」

「戦えたとしても、それがし達ではドロップがほとんど得られません。兄上に余計な迷惑をかけてしまうことになりかねません」

「じゃあ、お詫びにカスミちゃんの身体を差し出すとか?」

「なんでよ! あ、お兄ちゃん、戦いに参加するのはダメだよね?」

「ん? んー……」


 ここの強化体達は、今まで通りならレベルのない模造品であり、スキルはドロップしない。第四層ではゴブリンの強化体もどきを倒しても宝箱は出なかったし、影響があるとしても連中の装備品とか魔石とか、その程度だろう。


「別に戦っても良いし、倒しちゃっても良いぞ。ここのは特殊だからな」

「そうなんだ? ありがと! ……だそうだけど、どうする?」

「では知った上で戦うか知らないまま戦うかですか。それがしとしては、どちらでも構いません」

「ボクもどっちでも良いかなー。考えるのはカスミちゃんやハルちゃんに任せるよー」

「私は知っておきたいわ。指揮する上で、情報はあればあるだけチームの生存率に関わるわ。今回は特殊な戦いだとしても、この経験は今回だけとも限らないもの」

「あたしは……。正直、知ってしまうと後戻りできないかもしれない。けど、専属としてはあたし達が何に巻き込まれたのかは知っておきたいかな。もし今回の件で、今後大変な事になったら、お兄様にお詫びしてもらうからね!☆」

「イリーナはどうするの?」

「わたくしはカスミ様の判断に従いますわ」

「そっか。……よし、決めた! お兄ちゃん、ここのエリアのこと、可能な限り教えて!!」

「おー、良いぞ。とりあえずココはモンスターが出ないから、休みながら話そうか」


 レジャーシートを敷いて、軽食を食べつつ順番に説明した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「つまりまとめると、まずレアモンスターにはそれぞれ強化体って呼ばれるレベル2倍の強いタイプが存在していて、条件を満たすことで出現。そしてそれらを倒すことで、お兄ちゃんにだけ見れるトロフィーが得られるんだよね?」

「まあ強化体って名付けたの俺だから正式かどうかは知らないのと、俺だけにしか見えないわけじゃなくて、湧かせた張本人なら確認できるんじゃないかな?」


 サクヤ義母さんのところはトロフィーは取ったって話を聞いてるしな。この国で俺だけってことは無いだろう。


「それで、その階層で入手出来るトロフィーを全て獲得すると、その層に隠された宝箱を開ける権利がもらえると」

「宝箱はダンジョンのギミックとかで出てくる場合もあり、今回のようにボスエリアに招かれることもあるのですわね」

「そして最後に、各層の宝箱からダンジョンの鍵を集めきると、ダンジョンの心臓部に辿り着いて、スタンピード機能を停止させられる……。はぁぁ、想像の何十倍もとんでも無い話だったわ……」


 チームの常識枠っぽいカスミ、ハル、イズミの3名が頭を抱え、内容を噛み砕くのに必死の様だった。そしてハヅキは一人先に納得を済ませ、イリーナは全てを受け入れるかのように微笑んでいた。

 そんな中で、レンカだけは何故かぽけーっとしていた。


「レンカは、話がわからなかった感じか?」

「うーん……。えっとつまり、よく分かんなかったけど、お兄さんは凄いってことで良いんだよね?」

「凄いなんてもんじゃないわよ……」

「レンカさん、正解ですわー」

「レンカ様、それが真理ですわ」

「えへへー」


 アヤネとイリーナに褒められレンカは嬉しそうにはにかんだ。

 なるほど、レンカはこういう子なのか。俺も撫でておくか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


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