ガチャ302回目:海底を走る
この新スキルがあれば、少し前に考えていたある事が試せそうだ。個人的には今すぐにでも試してみたいところだが、まずは目の前の面倒ごとから片付けなきゃな。
「アイラ、他にドロップは無かったよね」
「はい。ゲソくらいのものです」
「そんじゃ、ちゃっちゃとダンジョンを黙らせてこようか。アヤネ、杖貸して」
「はいですわ!」
アヤネから『モーセの杖』を受け取り、皆で砂浜へと出る。するとそこには義姉さん達が待っていた。
「あ、義姉さん」
そしてタカ義姉の手の中にはタブレットがあり、そこには見覚えのある姿が映し出されていた。
「サクヤお義母さん。ミキ義母さんも」
『こんにちはアマチさん。アヤネも皆さんも、お元気そうで何よりです』
『皆お疲れ様。聞いたわよ、よく頑張ったわね!』
『話はこの子達から聞かせて頂きました。アマチさん、この度はスタンピードを収めて下さり、本当にありがとうございます』
頭を下げる義母さん達に聞いたところ、どうやらここと同じように海底だったり、湖底だったり、地底湖からだったりと、水に関係のある場所でスタンピードが同時多発的に発生したらしい。幸いにも日本近郊ではこの場所にしか出現しなかった為、経済的な危機は脱したようだが、他はちょっと大変な事になってるらしい。
何でも、来日予定だった『Sランク冒険者』達も、その騒ぎを無視する訳にも行かず、対応に当たってるとかなんとか。
もしも今回ここで起きたスタンピードを止める事が出来なかった場合、想定される被害は太平洋の半分ほどがモンスターの楽園になっていたかもしれないとのこと。スタンピードは一度発生すれば二度と発生しないわけでも無く、再び2、3ヵ月放置されるとその度に溢れ出て来るからな。
数ヶ月に一回のペースで、海のど真ん中からモンスターが多方に散り散りになられると、非常に厄介だ。湧いて出たモンスターを掃除している間に、第二第三のスタンピードが発生して、地獄のようなイタチごっこが発生するわけだ。処理速度が上回らないと永遠に戦い続けさせられることになる。来年以降も新たなダンジョンが控えてる訳だし、初動を抑える事が出来て本当に良かった。
『そして『コアホルダー』となり、その力を使ってこれからスタンピードを永久的に止めて来るとも聞いています。宝条院家は全力であなた達を支援します』
『こっちも、早乙女家だけでなく、第一協会としても力を貸すわ。まずはダンジョンの位置だったわね』
義母さん達が乗り気でいてくれるのはありがたいんだけど、もうそこは解決済みなんだよな。
「あー……話の腰を折って悪いんですけど、位置特定は解決しました」
『『え?』』
「それとダンジョンへの侵入も、俺達だけで何とか出来そうなんです。そこで見ててください」
説明するより見て貰った方が早い。
俺は『ダンジョンマーカー』の黒針が指し示す方向へと杖を向け、力を解放する。
「『海割り』!」
『ザアアアア……!』
海が音を立てて割れて行き、海底が露出して行った。
横幅としては5メートルほどだろうか。もっと力を込めればまだまだ広げられそうだが、そうすると『魔力』の消費量が跳ね上がり、自動回復分を超過してしまうだろう。現在の『魔力超回復』の具合としては、15秒置きに84回復し、その内17がゴーレム達に食われ続けている。その為、現在自由に使える『魔力』としては、15秒置きに60前後に抑える必要がある訳だ。
『海割り』で出来た道の先は、見た感じ地平線の彼方まで続いているように見えるが、『知覚強化』で集中すると、小さな洞窟のようなものが遥か先に見えている。恐らくあそこが目的地のダンジョンであり、『海割り』の切れ目だろう。
消費する力を思えば、こんな大規模な範囲じゃなくて、もっと自分の周辺の海だけを割る事が出来れば楽なんだろうな。でも『武技スキル』って、細かい調整が出来ないっぽいんだよな。これが魔法による力なら調整も出来たんだろうけど……。
ポカーンとしている義姉と義母達を尻目に、俺は皆にアイコンタクトを送り、走り出す。
「そんじゃ、行ってきまーす!」
「「「「行ってきます!」」」」
『い、いってらっしゃい……』
ミキ義母さんから、絞り出すような言葉を背に受け、俺達はそのままダンジョンを目指して進み始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
剥き出しとなった海底を走り続ける事5分ほど。足場である岩には、海藻や珊瑚などが残され、歩くにはあまりに適さない最悪な環境であったが、幸い魚などは一切いなかった。どうやら、『海割り』によって海水がのけられた際、一緒に連れていかれたらしい。海藻や珊瑚は対象外となってる辺りに、ダンジョン的な生物の区分けを垣間見た気分だ。
「旦那様、『魔力』の消費は大丈夫ですの?」
「んー……。これを維持してる分にはギリギリセーフかな」
「では通り過ぎたところは解除することは出来ませんか? そうすれば少しは楽になると思うのですが」
「んんー……。『武技スキル』は融通が効かないから難しいかな。試すのもちょっと危険が伴うし、このまま駆け抜けよう」
「それならさ、第三層みたいにエンキに乗って楽する方法はどう?」
『ゴゴ?』
腕の中のエンキが手を挙げた。
「いや、良いかな。第三層と違って、ここの足場はガタガタだし、水気が無くなってもヌメリが酷い所もある。俺達でもあまり速度は出せずに気を付けてるんだ。エンキだってコケる心配がある。のんびりもしてられないし、このまま突っ切ろう」
「そうですね。安全かつスピーディーに行きましょう。……ふふ、それにしてもショウタさん、凄い状態ですね」
「ん?」
「あはは、確かにー」
「新手の怪物みたいですね」
「あー……。そんなに変か?」
「皆、旦那様の事が大好きなのですわ」
彼女達が俺の状態を見て笑う。
俺の腕の中にはエンキがいて、頭の上にはイリスが乗っかり、更に上にはエンリル。そして背中からは俺に覆いかぶさるようにセレンがくっついていた。
最初はエンキだけで、皆飛んだり転がったりしてついてきてたんだが、エンキだけズルいとイリスが言い出してからは、皆がくっついて来たのだ。皆甘えたがりだな。誰に似たんだか……。
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