ガチャ276回目:神の試練

 煙から出現した『カムイ』は、すぐさまこちらを視界に捉え、唸り声を上げながら睨みつけて来ていた。これは、視線を外した瞬間喰われる未来が見えるな……。もしかして『恐怖耐性』はこの時の為のものか?

 俺はすぐさま切り替え、感知スキルを全開にして意識を広げる。まずは周囲の状況を把握する事を優先させよう。広がった意識の先、感知範囲のギリギリにいたであろうフォレストベアは、『カムイ』を恐れるように山から離れていく様子が感じとれた。どうやらこいつは、クマのモンスターからしてみれば畏怖される存在であるらしい。仲間として共闘してこないのは非常に助かる。

 そして感知範囲を狭め、背後にフォーカスを当ててみれば、戦意喪失とまではいかないが、『カムイ』から放たれる威圧にマキとアヤネが竦み上がっていた。


「アイラ、アキ。二人を頼む」

「お任せを」

「気を付けてね」


 4人がそっと下がって行く代わりに、エンキとイリスが前に出た。


「全力で行くぞ、お前たち!」

『ゴ!』

『ポポ!』

『プルル!』


 俺の合図を元にエンキは突撃し、エンリルは空高く羽ばたき、イリスは巨大化した。


『GAAAAA!!』


 『カムイ』は一気にブースト系の能力を解放したのか、圧力を肥大化させ、自分と似た体躯を持つエンキに襲い掛かろうとする。だが、奴は数歩前に出たところで動きをピタリと止めた。


『GA?』


 『カムイ』が不意に足元をみると、そこにはイリスが張り付き、強力な力で地面に縫い付けていたのだ。奴は必死にイリスの粘体から足を引き抜こうとするが、その隙をついて頭上からはエンリルのカマイタチが降り注ぎ、エンキの鉄パンチが正面から襲い掛かる。


『ゴゴ!!』

『GOA!?』


 エンキの右ストレートがさく裂した。鉄の塊による攻撃に、さしもの『カムイ』も上体が揺らぐ。


『GAAA!』


 1発目を顔面に入れられた『カムイ』だったが、すぐに立て直してエンキと殴り合いを始めた。

 『腕力』という面で見れば、エンキにはステータスという概念があるのかは不明だが、強靭な肉体を持つ『カムイ』と鉄の拳を持つエンキは対等に見える。

 しかし、近接戦での殴り合いは『カムイ』に分があった。

 なぜならエンキには戦闘技術系のスキルは『盾術Lv2』しかないのに対し、『カムイ』は『体術Lv5』と『格闘術Lv5』があるのだ。圧倒的技術差を前に、最初の不意打ち以降有効打がまるで入らず、相手の脚を封じているにもかかわらず、エンキは劣勢に立たされていた。


『ゴゴ……!』


 状況を立て直すためエンキが一歩引くと、『カムイ』の焦点は足元に向けられた。


『ポポ! ポポー!』

『プルルル!』


 エンキが戦っている間も、エンリルは必死に『風魔法』と『風雷操作』で攻撃を仕掛けていたが、耐性スキルの軽減が効いているのか、あまり有効ではないらしい。それもあって、奴にしてみればエンリルの攻撃は鬱陶しいが致命的な存在ではないと判断されているらしく、完全に無視されていた。

 その為、一番邪魔なのは脚を封じているイリスであり、邪魔者が離れた以上真っ先に潰す判断を下したのだろう。


 その瞬間、奴の視線は完全にイリスへと注がれていて、一部の意識をエンキに向ける程度となっていた。


 俺はその情景を、

 エンキが派手に引き付けている間、アイラのように気配を消して遥か高みから強襲を仕掛ける。千載一遇のチャンスを待っていたのだ。


「……そろそろか」


 俺はエアウォークで作り出した地面から軽く跳び、宙返りをした。そして逆さまになった状態で足裏に地面を作り、思いっきり蹴る。


「『フルブースト』『』!」


 俺は剣を構え、全てのブーストスキルを全解放。更に新スキルを発動した。

 その瞬間、獲物に向けて落下していく影が一つから二つへと分裂した。


 急降下し、地面が急激に近付く中『思考加速』『並列処理』を使いその時に備える。


『……GOA?』


 スキルを解放したことにより圧力を感じたんだろう。『カムイ』が反応を示すが、あまりにも手遅れだった。


「『双連・無刃剣』」


 目視出来ないスピードで飛来してきた2つの影が、『カムイ』の頭部を切り刻む。

 そして下で控えていたイリスの粘体に、1つの影が墜落した。


「あでっ!?」

『プルル』


 勢い余って背中を強打してしまったが、いくらかの衝撃をイリスが吸収してくれたらしい。見上げてみれば、細切れになった『カムイ』の頭部が、ゆっくりと煙となって消えゆく様子が見えた。


「そういえば、着地の事、なんにも考えて無かったな……」


【レベルアップ】

【レベルが8から275に上昇しました】


【山の神が撃破されました】

【以後一ヶ月間、該当ダンジョンでスタンピードが発生しなくなります】

【以後一ヶ月間、該当ダンジョン第三層の全モンスターのステータスが低下します】

【以後一ヶ月間、該当ダンジョン第三層の全モンスターのドロップ率が上昇します】


「あー……。身体を伸ばしてくれてありがとな、イリス」

『プルルルル!』

『ゴゴー!』

『ポポポ』


 『カムイ』の身体は完全に煙となり、煙はすぐに霧散。その様子を間近で見ていたエンキとエンリルが喜びながらやって来た。俺は皆の健闘を称えつつ先ほどのメッセージの事を思い返していた。


 こいつも『ガダガ』と同様『ユニークボス』だったからか、告知付きなのか。

 しかも今度は第三層全域で効果が付くとは破格だ。でも、こいつらのステータスが下がっても、環境が手強すぎる上に、『レアⅡ』はどいつも厄介なスキル持ちばかりだからなぁ……。あんまり恩恵を感じれないかもしれないんだよな。

 でも挑戦者が現れて盛大な事故を起こさないように、トロフィーと鍵をさっさと取って、早めに動画を公開して注意喚起してやんないとな。


「……しかし、問題は強化体だ。クマはこの山のてっぺんを中心に広がってるんだよな? んで、その外周部分を倒してたら煙がここに来たわけで……。他に出現ポイントなんてあるのか?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る