ガチャ268回目:新スキル検証

 俺は皆にガチャの成果を伝えた。


「『視界共有』……? どこかで聞いたわね」

「確か以前集めた情報の中に……。ちょっと待ってくださいね」


 アキとマキがそれぞれノートパソコンを起動して確認し始めた。


「『視界共有』は奥方様に任せるとして、『並列処理』については存じております。とんでもなく高性能なスキルを手にしましたね」

「そうなの?」

「言うなれば、『思考加速』の上位スキルです。上書き関係ではないというのは知りませんでしたが、性能としては段違いですね」

「そこんとこ詳しく」

「簡単に言えば、左手で料理をしながら右手で編み物をするようなものでしょうか。まったく違うタスクを同時にこなすことが可能となり、その負担もほぼゼロにすることが可能となります」

「つまり旦那様の戦いの幅が、広がるという事ですわ」

「それはつまり、剣を振りながらマジックミサイルを自在に動かしたり?」

「余裕かと」

「以前旦那様が考えていらしたように、エアウォークを使って三次元的に動き回りながら戦う事も可能ですわ!」

「おおー」


 今までは、意識が割かれる事で疎かになると危惧していた戦闘中のマルチタスク。それがデメリットをほぼ無くした状態で戦えるのか。


「それも『思考加速』があってこそかと」

「思考を処理する枠が1つ増えたとしても、そもそもの思考速度が遅くては使いこなすことは出来ませんわ。併用利用しなくてはどちらも中途半端になってしまいますわ」

「なるほどなー」


 ちらりと隣を見るが、アキとマキの調べ物はもう少しかかりそうだった。

 となれば、あと気になる事は……『魔石操作』がⅡに近付いている事。それから、指輪くらいか。とりあえず装着しておくか。

 『スタン耐性の指輪』が人差し指。『魅了耐性の指輪』が中指。『眩暈耐性の指輪』が薬指。なら『麻痺耐性の指輪』は小指だよな。うん、こんなにゴツゴツと装飾品があるにも関わらず、身に着けてる感触があまりにもない。動作の障害にならないというのは助かるな。


「旦那様、4つ目の耐性指輪ですわね」

「獅子のレリーフ、ハート、回る星と続いて、今度はイカズチのマークですか。2個目以降は可愛らしいデザインが主体ですね」

「格好良いですわ!」

「いやどっちだよ。まあでも、これで4つ目か。流石に『石化』の耐性指輪を望むのは欲張りかな」

「そうですね……。状態異常に対して、対処策として『回復魔法』やそれに類するランクの回復薬はございますが、完全に無効化したり軽減する装備は、ごく少数しか見つかっていません。いくら『レベルガチャ』が万能でも、望んだすべてが出るとは限らないかと」

「そうですわ。それにご主人様はもう、『ラミア』相手なら目を瞑ってても勝てますの! 耐性の指輪は必要ありませんわ!」

「まあ、それもそうか」

「……まさかとは思いますがご主人様、『ラミア』の身体を舐めまわすように見たかったのですか?」

「え!? いや……違うよ?」

「本当ですの? 怪しいですわ」

「これはギルティの匂いがしますね」


 2人からジト目が飛んでくる。

 いや、そりゃゴブリンみたいな人間に似つかない怪物と違って、人間と見間違うレベルの人型モンスターなんてそうはいないし、視れるものならじっくりと観察したいとは思っただけだよ? 映像で見る限りでは『ラミア』は、髪の毛と下半身がヘビになっているところを除けば、水着姿の女性にみえなくもない。けど、気にしてるのはそこではない。

 決して下心で観察したい訳ではないぞ!


「えっとね、『ラミア』って討伐したらすぐ煙になるし、死体でも目が合ったら大変かもしれないから直視出来なかったけど……。人とヘビの境目がどうなってるのかとか、気にならない?」

「私は気になりませんが?」

「あ……わたくしはちょっと、気になりますわ」

「でしょ?」


 そうしていやらしい意味では無い事を懸命に説明していると、調べ物を終えた2人が会話に参加してきた。


「ショウタ君、そんな事気にしてたの? となると、一部ダンジョンで出て来る『ハーピィ』とか『アラクネ』とかも調べたくなるのかしら」

「それってレアモンスターなの?」

「いいえ、ハーピィは通常モンスターね。アラクネはレアモンスターだけど」

「ちなみに前者は『暴風ダンジョン』、後者は『四季ダンジョン』にて出現が確認されています。どちらも人間の女性の上半身があるそうですよ」

「へー」


 その情報は気になるし、どんな姿なのかも知りたくはあるが……今はスキルだな。


「で、『視界共有』の情報はあった?」

「あ、うん。といっても、普通のスキルとはちょっと違う筋での情報だけどね」

「この情報は国外から寄せられてきた情報なんです。覚えてますか? テイムスキルが沢山出土する国のお話を」

「ああ」

「どうやらその国では、使役したペットモンスターの視界を共有するスキルがあるそうなんです」

「へぇ? となると……」

『ゴ?』

『ポポ』

『プルル』


 3人がこっちを見た。いや、正確にはイリスはこっちを見たような素振りをしただけで、何処に目が付いてるのかさっぱりではあるが。

 ともかく、彼らの視界が共有される……?


「ちょっと試すか。まずはエンキだな」

『ゴ~』


 エンキの顔に手を伸ばし、スキルを行使する。


「『視界共有』。……うおっ!?」


 すると、目の前に手が現れた。

 いや、これは俺の手だ。そして目を見開いた俺がいる。

 だが、それと同時にエンキの姿も見えている。これは間違いなく今まで見えていた俺の視点だ。不思議な感覚だが、俺は俺の視界と同時にエンキの視界を視ている。こんな視界、ゴチャゴチャしていて頭がこんがらがりそうだが、何故か平気で耐えている自分に一番衝撃を受ける。

 これはもしかして、『思考加速』と『並列処理』の恩恵か? 視界から得られた二つの情報を、加速した思考が並列で処理をすることで、混乱することなく理解する事ができている、と。

 なんとも不思議な感覚だが、端的に言い表せば、2つのモニターで別々の映像を見ているような感じかな……。


 そしてさらに不思議な事に、俺の視点は当然として、エンキの視点も動かすことが出来た。イリスはともかく、エンキやエンリルの視界が自由に動かせ、かつ俺の視点として処理がされるというのなら……。これは、もしかすると、もしかするか?


 俺は『視界共有』を解除し立ち上がった。


「ちょっと実験をする。エンリル、ついてこい」

『ポポ!!』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る