第九章 初心者ダンジョン攻略 後編

ガチャ247回目:ただいま故郷

 『初心者ダンジョン』第四層を制覇してから、はやいことでもう1週間が経過していた。『レベルガチャ』がしばらく使えない状態となってしまったので、これを機にまた修行し直す事となり、前回と同様温泉で身体を休めつつも、道場に通って扱える能力の幅を高める事に注力していた。

 そうして旅行から戻った俺達は、そのまま家に帰らず直接『アンラッキーホール』へとやって来ていた。


「あー……。やっぱ、久々に故郷に帰ってくると心が安らぐ感じがする」


 ダンジョンの入口で深呼吸をして感慨に耽っていると、足元ではエンキとエンリルも同じように伸びと深呼吸をして、更には準備体操もしているようだった。負けじと体をほぐしていると、車を降りてきたアキがそれを見てくすりと笑った。


「確かに久々ね。けど、故郷は言い過ぎじゃない?」

「でも、心が休まる気持ちはわかりますわ。ここは誰もいませんから、とっても静かですの」

「ショウタさんは旅行中、『A+』ランクの特権を使って、ここのダンジョンの入場規制をすべきか真剣に考えていましたけど、そもそもここに人が来ること自体稀なんですよね」

「ご主人様にとっては始まりの場所でも、他の大多数からすれば見捨てられたダンジョンですからね」

「悲しいけど、それが現実なのよね。俺としては助かるんだけど……。ねえ、やっぱり以前に俺達が来て以降も誰も入場してない感じ?」

「そのようです」

「あたしの後輩からは、早くも暇すぎて死にそうって文句が来てたわね」

「はは、この辺は本当に何も無いからね」


 駅の近くに行けば多少はお店があるけど、ダンジョンの周りには協会と、建設途中で放棄された防壁や建物の残骸くらいしか存在しない。

 本当に寂れた場所なのだ。


「前回ここに来たのって、何日前だったっけ?」

「はい。前回の旅行直前でしたので、17日前ですね」

「そんなにか……。ちなみに、その前は何日だっけ」

「えっとー、15日とかだったかな?」


 前回も今回も、2週間以上空いての再訪か。前回同様、誰も来ていないみたいだし、スライムは沢山湧いてそうだな。それにしても最初と合わせて30日以上経過しているのか。ということは……。


「つまり、旅行に行ってる間に、ガチャを手にしてから一ヵ月が経過してしまっていた訳か」

「私とショウタさんとの出会いも、もう一ヵ月なんですね」

「ああ、そうだね。まだ一ヵ月、なんだよね。マキとも、それにアヤネやアイラとも、もう随分長い間一緒に居る気がするよ」

「それだけ濃密な時を過ごしたという事でしょう」

「ええ、光栄なことですわ」

『ゴ!』


 いつのまにかアヤネに抱えられていたエンキが手を挙げた。

 勿論お前たちの事も忘れてないぞ。


「そういえばエンキやエンリルは、ここに来るの初めてだっけ」

『ゴ』

『ポポ~』

「本当に弱い連中だから、適当に手を抜いていいからな。ああそうだ、エンキの大きさは、俺と同じ170cmくらいで良いと思うぞ」

『ゴゴ』


 アイラからを貰ったエンキは、それを凝縮させて自身に纏わせる。まだスキルレベルは1と低いが、ボディーを完全に鉄へと入れ替える事くらいは難なく可能としていた。また、『砂鉄操作』は『砂塵操作LvMAX』の効果も併せ持っているらしく、ただの砂の操作であれば今までと同様に操る事が可能なようで、その手には岩の盾が装着されていた。


 名前:エンキ

 品格:『固有ユニーク

 コア:ゴーレムコアⅣ

 材質:鉄鋼

 魔力:1600

 スキル(8/8):物理耐性Ⅲ、怪力Ⅲ、城壁Ⅳ、盾術Lv2、自動回復Ⅳ、砂鉄操作Lv1、ウォークライ、震天動地


『ポポ』


 最新の戦闘形態へと変貌したエンキの肩に、エンリルが止まって羽を休める。このダンジョンでは、完全に過剰戦力だよなぁ。


「よし。それじゃ、早速スライム狩りを……」


 『アンラッキーホール』へと意気揚々と侵入をする俺の腕を、アキとマキが掴んだ。


「ショウタさん、待ってください。それよりもあちらを先に済ませてしまいましょう?」

「そうそう。逸る気持ちもわかるけど、落ち着いて。ね?」

「え? ……ああ、そうだった。ごめん、忘れてた」

「ダンジョン自体一週間ぶり、ですものね。今まで毎日沢山のモンスターを倒していたのに、長期間離れて……。わたくしも少し、ウズウズしていますわ」

「ご主人様、こちらを」

「おう、ありがと」


 アイラからメモを受け取った俺は、さっそくソレを口にした。


「管理者の鍵を使用する」


【所持者の意思を確認】


【管理者キー 起動】


【管理No.777】

【ダンジョンコアへ移動します】



◇◇◇◇◇◇◇◇



 目を開ければ、以前見たのと同じ真っ白な部屋だった。正面のパネルに手を触れると、ダンジョンコアが姿を現した。


『ようこそ、管理者様』

「ああ、お前にいくつか聞きたいことがある」

『許可。なんなりとどうぞ』

「お前は『レベルガチャ』の存在を把握しているか?」

『肯定。当ダンジョンに眠る『幻想ファンタズマ』級スキルです』

「世界に『幻想ファンタズマ』級スキルはいくつあるんだ?」

『不可。管理者様のレベルが足りません』

「ぬ。では『レベルガチャ』を再度入手する事は可能か?」

『否定。『幻想ファンタズマ』スキルは世界に一つしか存在できません』

「なに? ということは……」


 アヤネの言っていた『レベルガチャ』を『Ⅱ』にする作戦は、早くも失敗に終わったか?

 でもそれはそれとして、虹スライムは改めてこの目で見ておきたいんだよな。


「所持者が生きている限り、『幻想ファンタズマ』級スキルは入手が不可能なのか」

『肯定。所有者が死亡すると再度入手が可能です』

「……これは、尚の事秘密を続けないと不味いな」


 入手手段が不明であれ、『ダンジョンコア』による知識の介入がなくても、この事実に辿り着くことは不可能とは思えない。やはり可能な限り、『レベルガチャ』の存在は秘匿するべきなんだろうな。ミキ義母さんはまだ良いとして、サクヤお義母さんは……。うーん。

 でもサクヤお義母さんの事だから、『幻想ファンタズマ』スキルは世界に1つしか存在しないなんて情報は、既に持っていそうではあるんだよな。だからこそ、俺が何らかのスキルをこのダンジョンで得た事を把握しつつも、ここに足を延ばすのは無駄と考えて、誰も寄越してないような気さえする。


「はぁ……。これは思ったよりも厄介だな」


 狙われても問題ないように、もっと強くならなきゃ。 

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