ガチャ235回目:長距離スナイプ
俺達は2カ所目のオークの集落へと向かっていた。道中でゴブリンに絡まれたりしたものの、アヤネの先制攻撃により半壊。残った連中もアキとマキの手に掛かり散って行った。
戦う彼女達の姿を見るのは初めてではないが、皆ちゃんと強いし安心して見ていられるな。
『ゴゴ!』
「ああ、見えてきたな」
「あの集落には、見えている限りで25体ほど、でしょうか。道中と合わせても少し足りませんので、その分は集落の周囲から呼び寄せて参ります」
「よろしく頼む」
アイラが拠点周辺でちょっかいを出し、30ちょっとのオークを引き連れてこちらへと向かってくる。迎え撃つのは当然エンキで、俺はその後方で弓を構え援護する。この後のレアモンスターは即時即殺が決まっているので、この弓はいわば準備運動のようなものだ。
もう、これ以上の異臭騒ぎはごめんだからな。
『ゴゴ!』
全てのオークを蹴散らしたエンキがサムズアップする。その跡地からは、丁度煙が立ち昇っているところだった。
「ご苦労様、エンキ。ちょっと下がっててくれ」
『ゴゴ~』
「『紫電の矢』」
煙の出現から移動、レアモンスターの出現までは大体1分前後。この時間間隔はいまのところ、何処のダンジョンでも同じだった。それを思うと、『紫電の矢』を構えるのは早すぎたかもしれない。
これを維持して構え続けるのって、それなりに辛いというか、しっかりと握っていないとすぐにでも飛んでいきそうになる。雷の力を人の身で扱おうってんだから、それくらいで済んでラッキーかもしれないが。
皆で見守る中、煙はゆっくりと集落へと移動し、中央付近で大きく膨れ上がる。
そして中から『ハイ・オーク』が――。
『パァン!』
吹き飛んだ。
【レベルアップ】
【レベルが24から51に上昇しました】
『ハイ・オーク』は、その全身を見せる間もなく再び煙に飲まれた。
「産声さえ上げさせない神速の一撃。流石ですわ、旦那様!」
「これが出オチ戦法……。超火力技を持つ冒険者にしか出来ない荒業ね」
「レアモンスターを死角から攻撃して致命傷を与える戦法は、一部の上位冒険者も実行しているものです。ですがどんなモンスターであれ、煙から生まれる瞬間は一番無防備な状態です。この様な事は、ご主人様にしか真似できませんね」
「はい。狙って湧かせられ、なおかつ湧く場所も、湧く瞬間すらも把握しているショウタさんにしか、出来ませんっ」
『ゴゴ!』
皆が集まって褒めてくれる。その気持ちは嬉しいけど、今のは練習で、本番はここからだ。
で、通常のモンスターから『レアⅠ』への遷移は1分前後は確定しているのだが、そこから先は個体差がありすぎる。5分で湧く奴もいれば、10分掛る奴もいる。
ここの『レアⅡ』は前回一応測りはしたが……。
「マキ、前回は何分だっけ」
「大体、9分ほどですね。現時点で3分ほど経過しました」
「おっけ。7分になったら教えて」
「はいっ」
今のところ、湧くモンスターによってそれぞれ出現時間が決められているような感じはするのだが、確証は持てない以上、余裕をもって準備をしておかなければいけない。実は最大で1分前後の誤差があります! なんて情報が他所から齎されても、嘘だと断定は出来ないからな。
まだまだ、『レアⅡ』に関する情報は少なすぎる。
そして困ったことに、『オークキング』の『頑丈』は4桁もある。通常の『紫電の矢』では恐らく殺しきれないだろう。となれば、『雷鳴の矢』を撃つしかないんだが……。
『雷鳴の矢』は、『力溜め』を含めた多様なブーストスキルを前提とした強力なスキルだけあって、構えている間は全てのスキルを使い続ける必要がある。だからまあ、維持の辛さは『紫電の矢』以上であり、その辛さは尋常ではない。
でもまあ、あの『悪臭』に耐えるのとどっちがいいかと考えれば、答えるまでもないんだが。
「ショウタさん、あと10秒で7分です」
「了解。……『雷鳴の矢』」
『バチバチバチッ!』
矢に雷鳴が宿り、煌々と輝く。
照準は真っ直ぐ、オークの集落でモクモクと溢れる煙、その中心部。
ソレが膨れ上がるまで、今か今かと待ち構える。
「……」
静かなものだった。
聞こえてくるのは風の音、破裂する電磁波音、緊張した彼女達の呼吸に、自分の心臓の音。あとは時折マキから告げられる現在の経過時間だ。
矢を番える直前までは、色々と不安に駆られ思考を巡らせたものだが、いざ始まってみれば心はとても落ち着いていた。こんなに落ち着いて集中できるのも、『克己』のおかげだろうか。
「……9分経過」
マキが呟いた瞬間、煙は膨張した。
そして中からゆっくりと、大きな巨体が――。
『ズパァン!!』
消し飛んだ。
【レベルアップ】
【レベルが51から90に上昇しました】
「……ふぅー」
どうやら、成功したらしい。
『オークキング』の巨体は、その全身を現すことなく煙へと変わり、一瞬で霧散していった。1体でも2体同時でも即時霧散するのなら、やはりオークのレアはここで打ち止めか。
「ご主人様」
残心を解き、深呼吸を入れていると、ドロップ品を全回収してきたアイラが肉の塊を持って現れた。
「ご覧ください、この輝き、そして香りを」
「どれどれ……」
霜がおりたような白い斑点模様には、嫌な臭いは一切ない。どころか、顔を近付けて嗅いでみればほのかな甘い匂いが胃袋を刺激してくる。これは別の意味で危険だな。
ちょっとよだれが出て来たぞ。
「さっき昼飯食ったばかりなのに、腹が減った気がする」
「あたしも。これ、絶対美味しいお肉だよ!」
「塩と胡椒だけでも十分かもしれませんね。あ、この甘味の風味なら、あのハーブとも相性が良さそうな……」
「夕食が楽しみですわ!」
「そうですね。今晩が楽しみです」
アイラが言うと別の意味に聞こえるんだから不思議だ。
……いや、この笑顔は勘違いではないな。
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