ガチャ199回目:世話し甲斐の無い奴
翌日、俺達は支部長室に赴き、支部長を交えて対面していた。大事な娘2人をダンジョンに連れて行くって事だから、覚悟しておかないとなと考えていたんだが……。
「準備は出来てるわ。二人はこの契約書にサインなさい」
「「はい」」
どうやらその手の話し合いはもう3人で済ませていたらしい。こういう話、俺が蚊帳の外で良いんだろうか?
「大丈夫です。本当に必要なときは参加してもらいますから」
「そうなら良いんだけど」
アキとマキは渡された分厚い書類を何枚もサインしまくっている。もしかしなくても、結構大変な事だったりする?
「「出来ました」」
「……はい、受け取りました。まったく、一時期はあんなに大変だったのに、こんな短い間に復帰までしちゃうなんて。何があればこんなことになるのかしら」
支部長が俺を睨んでくるが、それは俺も知りたい。寂しさだけじゃない気がするんだよな。
「ところでさっきから色々とサインしてましたけど、受付嬢が本格的に冒険者業に励むのって難しい事なんですか?」
「実はそうでもないわ。いるのよね、専属相手の事が好きすぎて冒険にもついて行きたいって言いだす子が。だけどそれには本人の成長係数やレベル、戦う覚悟がある程度必要なの。その点、この子達は大丈夫だわ。最後の覚悟も、あんな意気込みを聞かされたら……」
「お、お母さん。それは内緒で……!」
「あら、ごめんなさい。でも彼も無関係じゃないんだから、その内話すのよ?」
「うん……」
「じゃ、手続してくるから、ちょっと待ってなさい」
支部長が部屋から出ていく。ここ支部長室なのに。
まあそれよりも、朝から……いや。昨日から気になってたことを聞いておくか。
「あのさ、二人は結局、俺の専属を止めてチームメンバーとして一緒に来るって事?」
「ううん、違うわ。専属は継続よ」
「先ほどの書類は、専属をしつつ冒険者業務にも臨時でついて行くという契約書です」
「んん?」
臨時? というと、毎回ついてきてくれるわけではないのか。
しかし、なんでまたそんな回りくどい事を。
「ショウタ君、専属の業務内容ってなんだか覚えてる?」
「えーっと……」
そういえば、一緒に暮らすようになって、聞いたことがあったような。
「査定と、冒険者へのアドバイスと、戦闘指南と、技量に見合ったスキルオーブや装備の見繕い。あとは、身体とメンタルを癒すための休暇の手配とか……だっけ?」
「そうよ。けど、ショウタ君の場合査定と装備の新調以外、ほとんどしたことが無いわ」
「アドバイスは最低限ですし、戦闘指南も強いスキルの補正で必要としていません。旅行で道場を手配した際には、少しは手助けできたと思いますがそれだけです。スキルは何をするまでもなく勝手に増えていきますし、ショウタさんは言わなきゃ休みませんし……」
確かに。
「むしろ、ほとんどの専属持ちは担当冒険者が大金を稼いできたら、同じ日数か、最長で1週間休ませるのよ。それくらい普通はモンスターを倒すって、大変で負担のある行為なの。そのため専属の業務は、担当冒険者やチームメンバーのケアが中心と言われてるわ。それが無いって事はどうなると思う?」
「……要するに、暇って事?」
「そうよ!!」
……そうか。俺の活動は、彼女達が本来するべき仕事を奪ってたんだな。
「でも、動画の編集は?」
「そんなの、ノートパソコン持って行けば現地でも出来るでしょ」
「アヤネちゃんに聞きました。レアモンスター戦ではたまにヘルプに入るけど、雑魚モンスター戦では出番がまるでないと」
「ですのでわたくしは、普段は応援をしていますわ!」
まあ、それもそうか。
となると残りの業務である査定も……現地で出来ちゃうわけだ。二人なら足手まといにはならないし、寂しいって言われたらそりゃあな。
「わかった。けど無理しちゃだめだからね」
「うん!」
「はい!」
「話はまとまったかしら」
支部長が戻ってくる。その後ろにはハナさんの姿もあった。
「アキちゃん、マキちゃん。二人の装備持ってきたわよ~」
「ハナさん、わざわざありがとうございます」
「サンキューハナー!」
「うふふ。ショウタさん、二人の事、よろしくお願いね」
「任せてください」
◇◇◇◇◇◇◇◇
協会の制服ではなく、軽装のプロテクターに武器を身に着けた二人の姿に、沢山の冒険者が足を止め眺める。二人はここの協会では有名人だし、専属からの婚約発表には嫉妬を買ったものだが、今回は困惑と興奮の色が見える。まあそうだよな、普通の受付嬢は、ダンジョン入り口まで見送りはしても、武装して一緒についてきたりすることはないんだから。
いつもは駆け抜ける第一層も、二人を連れてのんびりと進んでいく。今日は二人が一緒なので、わざわざ昼食のために一度帰る必要が無い。弁当持参でのダンジョン攻略なのだ。だから、いつも以上に時間には余裕があった。
そうして二層に到着し、様々な視線を受ける中で、俺はエンキを腕から降ろした。
「アイラ、頼む」
「はい」
アイラは鞄から大量の岩ブロックを取り出した。
『ゴ!』
昨日とは逆に、エンキはどんどん岩を取り込み巨大化していく。昨日の強化体のおかげで、今のエンキの『砂塵操作』はLv8だ。岩を扱う技量が増し、たったの1分ほどで6メートルを超える巨人へと戻ってみせた。
『ゴゴー!』
「わあ、映像で見るより大きく感じます」
「ね、ね、ショウタ君。あたしエンキに乗ってみたい!」
「いいよ。元からそのつもりだったし。エンキ、頼む」
『ゴ!』
彼女達は両手の中に。そして俺は定位置の肩に座る。
すると尻の下がボコボコと持ち上がり、気付けば背もたれ付きの椅子が出来ていた。ピカピカに磨かれた岩の椅子。まるで大昔の大王みたいな玉座だった。
「エンキ、気が利くな」
『ゴ』
「よし、出発!」
『ゴゴ!』
「おおー、すごーい! たかーい!」
「わあ、風が気持ちいいですね!」
「ダンジョンだってのに、まるで遊園地のアトラクションみたいね」
「あはは、そうかもね」
さあて、今日から初めての第三層だ。一体何が待ち受けているか……楽しみだな!
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