ガチャ145回目:彼女達の心配ごと

 『黄金の実』収穫祭を終えた俺達は、食事をしながら編集済みの動画を鑑賞したり、アヤネが撮影してくれていた強化体の『マーダーラビット』戦の動画を見直して、アキとアイラに解説してもらいながら受け流しの復習をしたりと、有意義な時間を過ごした。

 そんな中、俺が零したちょっとした疑問から、急遽明日、支部長会議が開催されることとなったり、多少バタバタしたりもしたが、いつも通りの賑やかな夜だった。


 そうして夜も遅くなり部屋で掲示板を見ながら時間をつぶしていると、緊張した面持ちのアキがパジャマ姿で入ってきた。


「……」

「な、なによ」

「いや、パジャマ姿も可愛いなって」

「ば、バカ。真顔で何言ってんのよ。照れるでしょ」


 午前中『愛しのハニー』発言をしたとは思えない慌てっぷり。冗談でならいくらでも言えるのに、素面だとこれだもんな。そんな彼女もいつも通りで可愛いけど……やっぱり落ち着きがないよな。

 いや、前回のアキも落ち着きがなかったが、今回はそれ以上だった。思えば昨日も一昨日も、抱き枕当番の子達はこんな感じだったよな。


 これは、何かあるな。


「アキ、皆が急にそわそわしだした理由、聞いても良いかな?」

「ふぇ!?」

「嫌な予感はしないんだけど、気になっちゃってさ」

「そ、そんなに不自然だった?」

「いや、俺と2人っきりの時のアキはいつも変だけど」

「むっ!」


 アキは頬を膨らませた。


「自覚ない?」

「……あるけど」


 あるんだ。


「しょうがないじゃない。……ずっと前から好きだったもん。急にマキと一緒に付き合う事になって、数日もしない内に人数も増えて。まだ心が追いついてないのよ」

「それは……ごめん」


 それを言われてしまうと、ぐうの音も出ない。

 何を言うべきか悩んでいると、アキが隣に腰を下ろした。


「……あたし達にも色々とあるのよ。例えば、ショウタ君が他の女の子に靡かないようにするにはどうすればいいか。とかね」

「え? 皆以外に、気になる人とかいないよ」

「今はそうでも、ショウタ君にとって都合の良い人が現れたら、フラッとチームに招き入れるかもしれないでしょ」

「ええ? そんなことしないよ」

「どうだか。君、案外チョロいから。アヤネ達と出会ってから、迎え入れるまでにかかった時間、教えてあげよっか?」

「……」


 多分、半日も要していないかも。


「だからあたし達は皆、不安を感じてるわけ。わかった?」

「……あの時は、ごめん。でも、言い訳っぽく聞こえるかもしれないけど、あの時は必要だと思ったんだ。それに、今の俺は凄く恵まれてる環境にあると思ってるし、十分満ち足りてる。これ以上、足りないものなんてないと思うけど……」


 協会関係のサポートは、アキとマキがいる。彼女達のバックアップがあれば、スキルの販売も、武具やアイテムの調達も、情報の伝達や環境の整備。それだけに留まらず、他ダンジョンとの連携だってやってくれてる。

 ダンジョンでは心強い仲間であるアヤネとアイラの2人がいる。まあ確かに、彼女達を迎え入れるまでの判断は早かったかもしれない。けど、今思い返してもあの即決は間違いではなかったと思うし、彼女達は今となってはなくてはならない存在だ。成長値もレベルも上位冒険者に引けを取らない彼女達は、戦いに関しても肯定的。俺に対する理解も深いあの2人以上に、俺の冒険について来れる人材はいない。


 だから、これ以上はないと思うんだけど……。


「冒険周りは、そうでしょうね」

「引っかかる言い方だな。アキは……いや、他の皆も、心配する明確な要素があるの?」

「ええ。あたし達に足りない物。そして、ショウタ君が求めてるかもしれない要素。それはね……」

「ごくり」


 ちょっとした心苦しさを秘めた顔をしながらも、アキは答えた。


「お色気よ!!」


『バーン!!』


 どこからともなくそんな効果音が聞こえてきそうなほど、アキは胸を張って答えていた。


「……えぇ?」

「あ、その顔。理解不能って感じね」

「そりゃそうでしょ。何を言うかと思えば、色気って……」


 いやまあ、本人には言えないけど、アヤネには確かにないものだと思う。けど、それを補って余りあるほど可愛いし、他の3人は街を歩けば誰もが振り返る綺麗どころだ。

 なんなら、水着を着た時の破壊力は半端じゃなかった。


 アイラは逆に色気半減……いや、全身ぴっちりスーツはそれはそれで需要ありそうな格好だったけど。


 ってそうじゃなく!


「ううーん、十分足りてると思うけど」

「なら、どうして溜め込むだけ溜め込んで、こっちに手を出さない訳?」

「ぶほっ!?」


 想定外の攻撃を受けた。

 それを言われるとこっちまで気恥ずかしくなるじゃないか。アキも自爆したのか、いつも以上に顔を真っ赤にしていた。


 けど、アキがそんな事を言うということは、発信源は間違いなくあのメイドだな。


 それからのアキは会話もままならないくらいに恥ずかしがっていたが、ポツポツと彼女達4人で行われた秘密会議の一部と、その流れを教えてもらった。


 1:アイラが俺を襲ったこと。

 2:俺が溜め込んでたこと。

 3:その状態で色気たっぷりな人に出くわして、俺が靡いたりしないよう定期的にガス抜きをさせること。

 4:俺が寝てる内に済ませること


 1と2は事実だからまだ良い。けど、3はなんなんだ。

 俺、そんなに信用ないのか? それともアイラの入れ知恵か?


 ……しかし、なるほど。先日までのマキとアヤネの反応がおかしかったのは、そういう顛末があったからか。そしてアヤネが先に寝ちゃったから、落ち込んで今朝のアレに繋がると。


 ……待てよ? アヤネは失敗して未遂な訳だけど、そんな素振りを見せなかったマキは……。


 やば、それを考えただけで動悸がしてきた。


「分かった? だから、早く横になって寝なさい」

「んな無茶な」


 その話を聞かされて、平気な顔して眠れるわけないじゃん。


「じゃあどうするのよ」

「どうするって……。その解決方法はもう現実的じゃなくなったわけだし、別の解決策を話し合おう」

「……良いわ。付き合ったげる」


 その後、俺が手を出さない事で不安に思わせていたことを謝りつつ、どうするか話し合いをしたりした結果……。うん、まあ、うん。


 どれだけアキに夢中であるかを証明しようとした結果、なるようになったというか。


 一言感想を付け加えるとすれば、お互いに興奮して身体が火照ってしまっても、抱き枕はやめられない。といった所か。

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